第109話 進撃の竜機兵

 <ニーズヘッグ>から出撃した後、<サイフィード>のコックピットモニターに広大な砂漠地帯が映り、その絶景を前にして俺は息を呑んだ。

 サウザーン大陸は土地の約七割が砂漠に覆われている。

 確かエジプトやインド辺りをイメージしていると「竜機大戦」の制作プロデューサーが言っていた。

 そのため、サウザーン大陸を統治する『シャムシール王国』の装機兵はそれらの土地にまつわる神々をモチーフにしているらしい。


 前方に砂漠に着陸した竜機兵チームの姿が見えたので合流する。<サイフィード>を人型に戻し大地に立つと、砂漠に囚われて足場が安定しない。


「皆、砂漠地帯だと機体の移動能力が落ちる。いつもよりエーテルスラスターの使いどころが大事になるから注意していくぞ」


『了解』


『それと、わたくしたちは砂漠での戦いには慣れていませんが、ここは敵のホームグラウンドです。地形適応を鑑みるとこちらがかなり不利ですわ。気を付けなければなりませんわね』


 クリスティーナが状況を冷静に分析し皆に注意喚起する。俺の指示は大雑把な部分があるので、彼女の細やかな気配りやアドバイスが非情に助かる。

 この一ケ月の間に、俺はクリスティーナに自分の戦術知識を教えた。

 それはほぼゲーム知識によるものだったが、これまでの戦いでも役に立つことが多々あったのでチームの副隊長である彼女にも知っておいてもらった方がいいと思ったのだ。

 短期間で詰め込む状況であったため心配していたが、彼女は俺が教えたことをぐんぐん吸収していった。

 俺が強敵を相手にする際は彼女にチームの指揮を任せても何の問題もない。

 と言うか、最初から彼女が隊長でも全く支障は無いと思うのだが、彼女曰く自分では俺の代わりにはならないので却下らしい。


「クリス。向こうの転生者が現れたら俺は前線で相手取るから、それ以降は部隊の指揮を頼む」


『分かりましたわ。後方支援は任せてください』


 砂埃が舞う向こう側には、顔面が真っ黒の装機兵<アヌビス>の群れが横一列に並んでいる。


「飛空艇から降下した機体が十六機。地上に待機していた機体を合わせると最低三十機ってとこか。初戦にしては随分と豪勢な内容だな。加えて増援の可能性も高い。――皆、行くぞ!」


 俺の攻撃開始の合図に各々答えながら全機が動き出す。後方支援担当の<アクアヴェイル>が先制攻撃を開始した。


『行きますわよ、<アクアヴェイル>。敵攻撃座標固定、エーテル集中――ダリアフラッシュ!』

 

 <アクアヴェイル>のエーテルアローから、膨大なエネルギーを内包したエーテルの矢が空に放たれ敵の真上で拡散する。

 エーテルの矢雨が<アヌビス>部隊に降り注ぐ。敵は肩アーマーから包帯のようなものを出し、盾のように展開し攻撃を凌いでいた。

 盾の構成が甘い機体は攻撃が貫通し無数の矢の餌食になり穴だらけになる。三機が機能を停止し砂漠に倒れるのが見えた。

 

『シリウスさんの情報通りですわね。エーテルで構成された帯――エーテルバンデージ。こちらのエーテルマントと似た装備ということでしたが、より防御に特化しているようですわ』


「クリスの先制攻撃でエーテルバンデージの性能が確認出来たな。『シャムシール王国』製の機体にはあれが標準装備されている。あの包帯もどきは伸ばして武器にしたり、さっきのように防御に使ったり出来るみたいだ。さっき『鑑定』で見たところ、<アヌビス>の武器はエーテルスピアとエーテルバンデージのみ。この戦いで砂漠戦とエーテルバンデージ搭載機との戦いに慣れるぞ。フレイ、クリス、牽制攻撃を頼む。前衛部隊は接近戦を仕掛ける」


 体勢を立て直した<アヌビス>たちが迫る中、再び<アクアヴェイル>がエーテルアローを連射して遠距離攻撃を仕掛ける。

 それに続けと、フレイは<ドラタンク>の背部に装備している二門のエレメンタルキャノンを敵に向けて、二つの雷の砲弾を発射した。


『これでも食らいな。エレメンタルキャノン発射!』


 標的になった機体は回避が難しいと考え、エーテルバンデージを前面に積層して強固な盾を作った。

 その盾に雷の弾が当たると周囲を巻き込む雷光が発生し、盾ごと機体を飲み込む。 

 雷光が消えると砲弾が直撃した<アヌビス>は黒焦げになって、倒れた後に爆発した。

 付近にいた機体も腕や脚が吹き飛ぶなどダメージを負っており、それを放った張本人は予想以上の破壊力に目をぱちくりさせている。


『――マジ? たった一発でこの威力ってヤバくない?』


「だから言っただろ。お前の強みは遠距離攻撃だって。その調子で頼むぞ、フレイ」


『おおよ!』


 <ドラタンク>はキャタピラを全力で稼働させ、砂漠の上を勢いよく走行しながら両腕に装備しているエーテルガトリング砲を敵に向ける。

 銃身が勢いよく回転しエーテル弾が連射される。弾一発の威力は高くはないが、連続で当たれば確実にダメージを与えられる。

 エーテルガトリング砲は<アヌビス>のエーテル帯を削りきると、装甲を破砕し機体の骨格を打ち抜き完膚なきまでに敵を破壊した。

 それを両腕に装備しているのだから、その火力は凄まじい。この機体を考案した俺も、まさかこんな化け物じみた性能になるとは思わなかった。


 後方支援二機の弾幕により、<アヌビス>部隊は総崩れに陥っていた。最大の強みであるエーテルバンデージも役に立たないと分かると移動速度を上げて接近戦を仕掛けて来る。

 そんな敵にフレイアとシオンが突撃する。<ヴァンフレア>は二刀のエーテルソードを両手に携えて、敵の槍を切り払い流れる動きで胴体を斬り裂いた。

 付近の<アヌビス>が肩からエーテルの帯を伸ばして打ち込んでくるが、フレイアはそれを余裕で躱してカウンターで十字斬りをお見舞いし破壊した。

  

 <シルフィード>は空中から猛スピードで接近しエーテルブレードで<アヌビス>を斬りつけ一機ずつ確実に仕留めていく。

 敵が反撃するが空中を高速移動する<シルフィード>を捉えることは出来ず、逆にエレメンタルキャノンを撃ち込まれてダメージを与えられていく。

 弱った敵にすかさず<ヴァンフレア>が接近し二本のエーテルソードの柄頭を合体させると、それを回転させながら斬り裂いていく。

 草刈機の円形の鋸刃を彷彿とさせる光景だった。あんなの食らったら痛いじゃ済まないだろう。


『すまないな、シオン。敵を横取りする形になってしまった』


『別に構わない。雑魚の撃墜数で一々目くじらを立てるのはパメラくらいだ』


 敵の爆発を背にして並び立つ深紅とライトグリーンの二機の竜機兵。

 二人がクールに敵を処理していると、引き合いに出されたパメラが怒りながら敵を殴り倒していた。

 

『どさくさに紛れて私をディスってんじゃないわよ。――インパクトナックル!』


 <グランディーネ>の剛腕が敵機の腹部に打ち込まれ、そのまま頭上に持ち上げると止めの衝撃波を放ち敵は爆散する。

 爆炎の中から城壁の如き堅固な竜機兵が、無傷の姿を現し敵を委縮させた。


『ふふん。私の強さに敵さんはビビッているようね。ぶっ飛ばされたいヤツからかかってきなさい!』


 全ての回線に向けてパメラは挑発的な言葉をかました。まるで悪者のような言動だが、これはパメラの作戦だ。

 敵の攻撃を自分に集中させて味方の安全を確保する。パーティの盾としての役割を担ってくれているのだ。

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