第八章 転生者たちの輪舞
第107話 開戦
俺と黒山が再開してから一ケ月が経過し、その間に黒山たちの亡命が認められた。
ノルド国王たちは帝国との戦争で南方を占拠した敵の亡命と言うこともあって慎重に話を進めていった。
貴族の中には当然ながら難色を示す者もいたのだが、侵攻時に王国側の人的被害がなるべく出ないように配慮されていたことや、占領された南方の土地や人々の扱いが厚遇されていたことなどが注目された。
加えて彼らとの戦いの指揮を執っていたティリアリアが助言をしたことが大きく作用したようだ。
黒山が転生したシリウス・ルートヴィッヒは本人の希望もあり、彼と専属メイドのセシル・ハウンゼンが『聖竜部隊』の所属となった。
シリウスはティリアリアと同様に作戦参謀としてブリッジに配属となった。そのため自然とセシルさんもブリッジ要員だ。
現在ブリッジは執事とメイドがいるという謎の空間になっており、定期的にお茶の時間が設けられているなどサービスが充実している。
この二人はブリッジ以外の部署にもお茶を淹れに来てくれるためクルーたちから感謝されていた。
ちなみに俺と黒山は転生前の呼び方だと周囲に混乱を招くと考え、転生した現在の名前で呼び合うことにした。
シリウスからの情報で『シャムシール王国』からの侵攻に対し『アルヴィス王国』は和平交渉を試みたが、これがものの見事に突っぱねられた。
向こうは完全にやる気らしい。会談の場で相当挑発的なことを言われたらしく、交渉役が帰って来た時、彼は顔を真っ赤にして怒り狂っていた。
これで相手の本気度を理解したうちの上層部は、急いで南方の戦力増強に取り掛かったのである。
あまりにも仕事が早かったので、本当に俺たちの国は変わったのだと実感した。
この際注目されたのが、『アルヴィス王国』の戦力になったばかりの飛空要塞<フリングホルニ>である。
今まで『シャムシール王国』に対しプレッシャーを与え、侵攻を妨げていたこの移動要塞を『聖竜部隊』の基地に抜擢した。
<フリングホルニ>には大型飛空艇である<ニーズヘッグ>の修理や整備が可能なドックが完備されており俺たちの基地にはうってつけだったのだ。
おまけに装機兵の生産工場も備えているため、ここでも新型量産機の<セスタス>の生産を始めた。
この飛空要塞に配属を志願してきた騎士たちが、日々機体の慣熟訓練に励んでいるため活気があり士気も高い。
完成した機体の配備が進み、<フリングホルニ>の保有戦力はかなりのものになった。
そんな中、<フリングホルニ>と言う名は帝国が保有する飛空要塞の名前であるため、俺たちの基地は名称を『第七ドグマ』と改めることとなった。
――そして一ケ月後である現在。
ついに『シャムシール王国』側が行動を起こした。
西方のウェスタリア大陸と南方のサウザーン大陸の間は海峡になっていて、その海峡上空にて飛空艇による戦闘が始まった。
ウェスタリア大陸の最南端に配置された『第七ドグマ』から発進した大型飛空艇<ニーズヘッグ>は、侵攻してきた『シャムシール王国』の飛空艇<イカロス>三隻を迎撃していた。
<ニーズヘッグ>の初陣ではあったが、船の能力を熟知しているブリッジクルーたちは冷静に戦闘に臨んでいた。
「エーテルフェザー出力最大。余剰エーテルを散布してシールド形成。エレメンタルキャノン一番から四番は炎系、五番以降は雷系にセット」
「了解。――キャノンの属性セット完了しましたわ」
船長であるシェリンドンの指示を受けたステラがエレメンタルキャノンの設定を行い、<ニーズヘッグ>に装備されている砲塔の発射口に赤と黄色の魔法陣が次々展開されていく。
「雷撃戦用意。――エレメンタルキャノン全砲門発射!」
シェリンドンの命令により赤い魔法陣からは炎の砲弾が、黄色い魔法陣からは雷の砲弾が敵飛空艇に向けて発射された。
同時に敵もエレメンタルキャノンを撃ってくるが、操舵手のハンダーは舵を巧みに操り攻撃を回避していく。
数発程<ニーズヘッグ>に当たるが、それらは展開したエーテルの防御層に弾かれダメージには至らなかった。
一方、<ニーズヘッグ>が放ったエレメンタルキャノンは<イカロス>三隻に着弾、装甲を貫き炎上させた。
「本船の攻撃成功。敵飛空艇に有効打を確認しましたわ」
「良い出だしね。<ニーズヘッグ>の被害はどう?」
「三発程被弾しましたが、全てエーテルシールドにより無効化されています。本船の被害無し」
オペレーターのステラとアメリから一戦目の良好な結果が報告され、シェリンドンは「ふぅー」と息を吐きながら安堵する。
「予想以上ね。ハンダー君、回避ありがとう。操舵に問題はなさそうね」
「ありがとうございます、主任。<ニーズヘッグ>の機動性は予想以上です。これならある程度接近しても十分回避行動を取れます」
「分かったわ。これより本船は左側から回り込んで砲撃戦をしかけ、敵船隊をサウザーン大陸側に後退させます。その後、戦いは装機兵による地上戦に移るはず。竜機兵チームはそのまま指示あるまでカタパルトデッキにて待機。――仕掛けるわよ!」
「「「了解」」」
シェリンドンの両隣の席に座っているティリアリアとシリウスは勇ましくも美しい船長の采配を尊敬の眼差しで見ている。
<ニーズヘッグ>は後部のエーテルスラスターを全開にし、船体の左右から放出されるエーテルの翼を大きく羽ばたかせると一気に加速し<イカロス>編隊に接近した。
「取りつかせるな。撃てぇ、撃てぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
急接近する群青色の大型飛空艇に<イカロス>三隻のエレメンタルキャノンが撃ち込まれるが、標的は左右に伸びる白い翼を優雅に羽ばたかせながら回避していく。
飛空艇とは思えない美しい所作に『シャムシール王国』の軍人たちは見惚れると同時に恐怖を覚える。
「ダメです。こちらの砲撃効果ありません。ほぼ回避されるか、当たってもエーテルの障壁に防がれています」
「こちらの飛空艇の倍以上の大きさで、どうしてあんな動きが出来るんだ。おまけに砲撃が当たってもダメージが無いとは――『アルヴィス王国』の飛空艇は化物か!?」
<ニーズヘッグ>の性能を前にして狼狽していると飛空艇が大きな衝撃に襲われる。状況を確認するとエレメンタルキャノンを受けて船体のあらゆる部分が炎上していた。
不幸中の幸いだったのは装機兵の格納庫は無事であったことだ。
それを確認した<イカロス>の船長は、ウェスタリア大陸に上陸することを断念しサウザーン大陸側に退却を始めた。
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