第105話 難易度ベリーハードの世界で生き残る

 黒山の意思を確認し話がまとまったと思っていると、何かを思い出したように黒山が俺に話を振って来た。


「そう言えば、白河って他の転生者についてどれくらい知ってるの?」


「それが全然知らないんだよ。先日ノルド国王にお前のことを言われるまで他に転生者がいるなんて考えもしなかったし。――でも各国に転生者がいるらしいから、いずれは戦う可能性があるな」


「なるほどね。それじゃ、僕の知っている情報を教えるよ。――その前に白河、「竜機大戦ヴァンフレア」はメディアミックス作品だったのを覚えてる?」


「もちろん。ゲーム、小説、漫画、ホビーで同時展開されていたはずだ。俺はもっぱらゲームばっかりやっていたけど、その他もちゃんとかじってるよ。注目していたのはロボットのみですが」


 黒山は手を額に当てて呆れながら溜息を吐いていた。


「白河のことだからそんな感じだと思ってたよ。つまりゲームの主な舞台である『アルヴィス王国』以外の事情はあまり知らないってことだよね」


「すんません。存じ上げません。――もしかして、それって大事な話?」


「めっちゃ大事」


 これはヤバい。俺は「竜機大戦」に出て来る装機兵や飛空艇などメカに関してはゲーム、漫画、関係なしに造詣が深いと自負しているが、人間関係とかそういうのはからっきしだ。

 俺が青ざめていると黒山が得意そうに笑っている。これはよからぬことを企んでいる時の顔だ。


「僕はゲームとロボットに関する知識は白河に到底及ばない。でも、僕はその他のメディア作品の内容もしっかり覚えてる。小説や漫画は全巻買ったし、ネット配信している最新話も欠かさずに読んでいた。コミカライズ版の絵がすごく良かったんだよー」


 目の前にいる金髪イケメンが遠い目をしながら笑っている。俺も悦に浸っている時に気味悪い笑い方をしてしまうけど、他人の目から見るとこんなに不気味なのか。――自重しよう。

 

 そう言えば、俺と黒山は「竜機大戦」を同時期に購入し、情報交換をしながら高難易度だったこのゲームをクリアしたんだった。

 その後、俺は追加されたフリーモードのアバター育成にのめり込み、黒山はこの作品のメディアミックス作品にはまっていった。

 「竜機大戦」は、ゲーム、漫画、小説、ホビーと様々なメディアで展開された作品だ。

 ゲームでは西大陸ウェスタリアを治める『アルヴィス王国』の竜機兵チームを主軸とする話、漫画は南大陸サウザーンの『シャムシール王国』の話、小説は北大陸ノーザンノクスを支配する『ドルゼーバ帝国』の話、ホビー雑誌では東大陸イシスの大国『ワシュウ』の装機兵開発の話、という形で「竜機大戦」の物語は紡がれていた。


「そう言えばさっき、南大陸の『シャムシール王国』がどうとか言っていたよな。それが関係しているのか?」


「まさにそれだよ。各国に侵攻する『ドルゼーバ帝国』に対抗する為に、『シャムシール王国』と『ワシュウ』が同盟を結んだ」


「なんだって!?」


「おまけに同盟を結んだ二国は転生者で構成された部隊を組織したらしい。しかもそれを帝国じゃなく『アルヴィス王国』にぶつけるつもりだ」


「なっ、どうしてそうなる。『ドルゼーバ帝国』に対しての同盟なんだろ?」


 黒山は手を顎に当てて考え込んでいる。しばらくして深刻な表情で顔を上げた。


「これは僕の推測なんだけど、恐らくテストのつもりなんじゃないかな? 『ドルゼーバ帝国』の武力は圧倒的だ。だから、そことやりあう前に格下と見なした『アルヴィス王国』と戦わせて、転生者たちの実力の確認と実戦経験を積ませるのが目的なんだと思う」


「確かにそう言われると合点がいくな。俺もステータスが高いからと言って、最初から思うように戦えた訳じゃない。ある程度戦い慣れた頃から自分の能力を自覚できた感じがするもんなぁ」


「そう言えば、白河ってレベルいくつあるの? もしかして――」


「レベル九十、前にステ見せたろ? ――けど、他の転生者かぁ。俺みたいに自分で育てたアバターに転生したりしてんのかな。廃プレイヤーはレベルマックスの九十九でステータスカンストなんてざらなんだろうな。そんなのが敵だったら厄介だなぁ」


 不安がる俺を前にして黒山は複雑そうな顔で俺を見ていた。


「そのことなんだけどさ。実はいつか言おうと思って結局言いそびれていたんだけど、白河って「竜機大戦」のアバター評論のサイト知らないよね?」


「なんだそれ?」


「白河みたいにアバター育成をメインでやっていたプレイヤーたちが、自キャラのレベルやステータスを公表して格付けをしていたんだよ。アバター育成をしていた人の大半は、そこで自分のアバターを自慢する為にやっていたようなもんだよ。動画配信者とかがネタ作りで挑戦してた」


「ネタ作り? へ? 皆、「竜機大戦」が好きだからやってたんじゃないの?」


「そうだとしても、せいぜいレベル六十までかな。そこまで上がればアバター育成モードは敵に楽勝だったでしょ。それ以降はレベルアップに必要な経験値も爆上がりするし、完全に趣味の領域。実際、そのサイトで公表されていたトップ層は、レベル八十にも満たなかった。公式もそのサイトに注目していたけど、レベル七十八の人がトップだったって言ってたよ」


「公式認定の一番がレベル七十八? そんなはずないだろ。俺でさえレベル九十に出来たんだから。もっとやり込んでいる廃プレイヤーはレベルカンストしてるでしょ」


 俺が言い切ると黒山は心底呆れている様子で俺の肩に手を置いて話し始めた。


「自覚が無いようだから言うけどね。白河みたいに誰に公表することなく課金して、育成用アイテム大量購入してまでレベル上げにいそしんでいた人はほとんどいないよ。君は間違いなく超廃プレイヤーだから。異常なほどやり込んでいる層だから」


「そんな。俺はただ少しばかりお布施をしてただけだ。確かに発売当初はゲーム難易度が高すぎて色々言われたけど、その後はゲーム難易度ベリーイージーが実装されたし、有料無料含めてたくさんの追加要素も出してくれたし、開発チームはすごく頑張ってくれたと思うんだよ。その甲斐あってゲーム評価も見直されていたし、神ゲーまでもう一歩だったんだ」


「白河のその思考って、まるで地下アイドルをメジャーデビューさせるためにお金をつぎ込む本格派のファンみたいだね」


「その通り。ようやくメジャーデビューして武道館ライブをやるとこだったのに俺は転生しちゃったんだよ」


「落ち着いて、白河。あのゲームは最初からメジャーデビューしているから。武道館ライブが控えていたのは声を担当した人だから」


 ――数分後。落ち着きを取り戻した俺と黒山は今後について話を再開した。


「情報を整理すると、転生者は恐らく「竜機大戦」のプレイヤーだと思う。白河のように自身で育成したアバターとして転生するか、僕みたいに物語の登場人物に憑依するパターンに分けられる。この国に攻撃を仕掛けて来る転生者の部隊には高レベルのアバターがいる可能性が高い。それと彼らの本拠地は南にあるサウザーン大陸の『シャムシール王国』だから漫画版の話が絡んでくる」


「そうなって来ると、アバター評論をやっていたサイト情報と漫画版を熟知している黒山の知識が大いに役立つ訳だ」


「でも、それだけじゃ駄目だ。はっきり言って僕はステータスが低くて戦力にならない。高レベルの転生者と互角に戦える強力な操者と機体が必要不可欠」


 俺と黒山はお互いを見合って頷いた。


「このトンデモ難易度の世界を皆と生き抜くためには、強力な武力と情報に裏付けされた戦術が必要だな」


「僕たち二人と、この『聖竜部隊』の力ならやれるはずだよ」


 俺たちはお互い手を前に出して、固い握手を交わした。交差する眼光も真剣だ。すると、お互いに手が震えている事に気が付く。


「どうしたのさ、白河。手が震えてるよ」


「ただの武者震いだよ、気にすんな。そういうお前も震えてるじゃんか。――やるぞ、黒山。俺たちの全てを出し切って皆と生き残るぞ!」


「――ああ、その通りだ」


 この日、再会を果たした俺と黒山修改めシリウス・ルートヴィッヒは、この難易度ベリーハードの転生世界で力を合わせて皆と共に生き抜く誓いを立てた。

 そして、この後俺たちは『聖竜部隊』の皆に転生者のことを含む全てを話したのであった。

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