第104話 転生したら物語序盤で処される敵貴族だった件
「セバスさんが淹れてくれた紅茶だよ。美味しいよ」
「ありがとう、白河」
俺たち二人はひとしきり泣いた後、セバスさんが用意してくれたお茶やお菓子を頬張りながらお互いの転生した経緯や転生後の話をしていた。
それによると黒山は「竜機大戦」のイベント帰りにその内容を俺に報告しようとしていたところ、信号無視をしたトラックの暴走に巻き込まれたらしい。
そして、この世界で『ドルゼーバ帝国』貴族のシリウス・ルートヴィッヒとして転生したのだが、黒山修としての意識が覚醒したのは三年前とのことだった。
転生する原因がベタだなと思ったが、黒山に悪いのでそれは黙っておく。多分本人が一番そう思っているだろう。
自分がシリウスに転生したと理解した黒山は、バッドエンドを回避すべく迅速に行動を起こした。
ゲームにおいてシリウスは『アルヴィス王国』第一次侵攻の総司令に抜擢される。
当初は優勢に事を進めるが、竜機兵の登場によって戦況を覆され大敗を喫し母国に逃げ帰るも、その責任を負わされ処刑されてしまうのだ。
ゲーム序盤に出て来る典型的な噛ませ犬ポジション。それがシリウス・ルートヴィッヒなのである。
黒山の話によると、彼がまず行ったのは戦争が起きないように水面下で動くというものだった。
『ドルゼーバ帝国』が他国への侵略戦争を始めた理由の一つが食料問題だ。帝国がある北の大陸ノーザンノクスは寒冷地帯で作物が育ちにくい。
そのため昔から食料は輸入に頼っている状況であり貧しい国だった。その一方で北の大地の鉱山からは装機兵開発に欠かせないレアメタルが大量に掘り出されていた。
それら希少金属は長い間食料と交換されていたのだが、その条件は帝国にとって不利なものばかりであり、他国に対し憎悪を抱くようになっていった。
やがて帝国は自国の装機兵開発技術を発展させ、十数年前に装機兵の大量生産ラインが確立されたのをきっかけに侵略戦争に踏み切ったのである。
そのため黒山は食料問題解決のために農業に力を入れた。寒い地域でも栽培可能な作物を育てたり、温暖な気候で育つものに関しては施設を作りその中で育てたりした。
それらは短期間で功を成し、国内の食料問題は改善しつつあるらしい。
けれど帝国は戦争を止めようとはしなかった。空腹が満たされる程度では長い歴史で植え付けられた憎しみを止めることは出来なかったのである。
その後も黒山は戦争を止めるために様々な活動をしたのだが、その結果国家反逆罪の罪に問われ爵位や領地を剥奪され、食料問題解決の立役者としての功績も無かったものにされた。
その上、何度も暗殺されそうになったというのだから救われない。
『アルヴィス王国』の以前の貴族たちもろくでもないのが多かったが、『ドルゼーバ帝国』の方も中々にクソだった。
俺もそんな貴族の一員になっちゃったんですけどね。民主主義だった日本が懐かしい。
爵位を剥奪された黒山もといシリウスは『アルヴィス王国』侵攻の際、五隻ある飛空要塞<フリングホルニ>のうちの一隻を預けられ、海上から王国の南側に回り込み南方の戦力を壊滅させるように命令された。
さらに南大陸サウザーンの『シャムシール王国』が戦争に乗じて『アルヴィス王国』に進行するのを防ぐ役割も与えられていたという。
飛空要塞は圧倒的な存在感を持っているが、それでもたった一隻で二つの国の相手をしろと言うのは無茶な話だ。
つまり帝国は黒山に「死んで来い」と言って送り出したようなものなのである。
自身の死亡フラグをへし折れなかった黒山はそれでも腐ることなく、戦場において死者を最小限に抑えるために避難勧告をしてから『アルヴィス王国』施設への攻撃を行った。
唯一奇襲が行われた『第六ドグマ』に関しては、竜機兵<サイフィード>がそこに保管されているという情報を得た一部の部隊が命令違反して行ったそうだ。
黒山が俺の存在に気が付いたのは、俺が<ベルゼルファー>と戦った時だ。その時の俺とアインのやり取りで俺の名を聞き、それ以降ずっと俺と会う方法を考えていた。
そんな中、飛空要塞を偵察していた『アルヴィス王国』の部隊と接触しメッセンジャーになってもらい、今回の会談に繋がったのである。
「それで黒山はこれからどうするんだ? 帝国は一旦この国から引いたけど、この要塞はここに留まっている。その真意を教えてほしいんだけど」
黒山はテーブルの上で両手を組んで俺の目をまっすぐに見つめて言った。
「この<フリングホルニ>に残っているのは、僕と同じく『アルヴィス王国』との戦争に反対し捨て駒とし送られた者ばかりだ。それに皆、帝国の圧政で家族も戻るべき故郷もない。だからこそ僕たちは亡命を希望している」
「――そうか」
これまでの黒山の話と行動から考えてそうではないかと予想はしていた。俺としては前世の親友である黒山と戦わずに済むので願ったりかなったりだ。
『アルヴィス王国』にしても飛空要塞という移動拠点が無条件で手に入るので、これを拒む理由はないはずだ。
「黒山の考えは分かった。俺個人としては大歓迎だよ。俺から皆やノルド国王に黒山たちの亡命を相談してみるよ」
「ありがとう、白河。恩に着るよ」
黒山は心底安心している様子だった。こうしてよく見るとやつれていて相当疲労が溜まっているのだと思う。
この国の人間になれば、立場上すぐ自由にはなれないだろうが命を脅かされていた以前の生活とは異なり枕を高くして寝れるだろう。
親友が落ち着いて生活できるように全力でサポートしたいと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます