第102話 ハルトとシリウス
――数分後、俺とシリウスは彼の希望通りに一対一の話し合いのため二人で船内の会議室にいた。
テーブルにはセバスさんが淹れてくれた紅茶とお菓子が置いてあり、俺とシリウスは向かい合うようにして席に座っている。
俺がどう切り出したらいいか悩んでいると向こうが口火を切って来た。
「まずは今回の会談の申し出を受けてくれてありがとう。それとかなり強引な手を使ってしまって申し訳なかった。それを謝らせてほしい」
シリウスは俺に頭を下げて謝罪した。まさかの展開に俺が面食らっていると彼は続けて話し続けた。
「僕が君の存在を初めて知ったのは『第四ドグマ』に大部隊で攻め込んだ時だ。<ベルゼルファー>との戦いにおける君とアインの会話は<フリングホルニ>にも流れてきていた。あの時、君がハルト・シュガーバインと名乗った時には本当に驚いたよ」
「――うん? ちょっと待った! あなたは俺がアバター専用機である<サイフィード>の操者だから転生者だと思ったんじゃないのか?」
「確かに「竜機大戦」の追加ダウンロードでは、<サイフィード>はアバター専用の機体ということだったけど、この転生後の世界では必ずしもその通りになるとは限らない。少なくとも僕はそう思っている。この世界は僕たちがプレイしていたゲームとは別物だからね。それは君もよく分かっているんじゃないかな?」
確かにこいつの言う通りだ。それにしても何だろう? この男の話し方には既視感がある。
「そもそも僕たちの知っているゲームの内容と違っていて当然なんだよ。僕たちが知っているのはあくまで追加ダウンロード実装前の話。けれど、この世界は追加ダウンロード実装後の仕様が反映されている。<サイフィード>が存在しているのがいい例だね。それに新しく追加されたのはそれだけじゃない。君たちが乗って来た飛空艇<ニーズヘッグ>もその一つだよ」
「<ニーズヘッグ>が追加ダウンロードの仕様の一つ? 俺はそんなの知らないんだけど」
「事前には公表されてなかったからね。それが知らされたのは追加ダウンロードがあった日に行われた「竜機大戦」のゲームイベント会場。そこでプロデューサーがいくつかネタばらししてたんだよ。当日は僕もその会場に足を運んでいて、それで知っていたという訳です」
「――なるほど」
やっぱりなんか変な感じだ。非常に話しやすい。それにこのシリウスの雰囲気は嫌な感じがせず、逆に好感が持てる。
「話が少し脱線したね。僕が君の名前を聞いて驚いたのは生前そのアバターを知っていたからなんだ。だからもしかしたら、君の中身が僕の知人かもしれない。そう思ったら居ても立っても居られなくなって、どうしても君と会って話をしたいと思ったんだよ」
「俺がハルト・シュガーバインの名前でアバターを作っていたことを知ってるヤツなんて一人しかいないぞ。それを知ってるのは同期の――」
そこまで言って俺は気が付いた。このシリウスの雰囲気や話し方に何処か懐かしさを感じていた。
この男は俺の会社の同期であり親友のあいつと同じ感じがするのだ。
「もしかして、お前――――黒山?」
「そう!」
「俺と同じ会社の同期でオタク友達で親友の――――
「そう!!」
シリウスは今にも泣き出しそうな顔で俺を見つめている。
いやいやいやいや、ちょっと待て! そんなご都合主義な展開そうそうあってたまるか!
ゲーム世界に転生するなんて通常あり得ない出来事なのに、友人同士で転生するとかそんなんある?
俺は改めて目の前にいる金髪イケメンの顔を見る。その表情が黒山の顔とダブって見えた。
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