第101話 ハルトの決心
<サイフィード>と<シルフィード>は出撃後、<ニーズヘッグ>の前方を飛翔し万が一の事態に備えていた。
<シルフィード>は背部のメインエーテルスラスターを白い翼に変形して空を飛んでおり、優雅に空を舞う姿は美しいの一言に尽きる。
ふと思い出したけど<サイフィード>って<シルフィード>の初期稿をリデザインしたものだったっけか。
そう言う事もあって、この二機は所々似ている部分がある。前世でそういったオタク話を一緒にしていた会社の同期がいたっけなー。
あいつも俺同様かなりのオタクで「竜機大戦ヴァンフレア」を結構気に入って一緒にイベントとかに行っていた。
確かゲームに<サイフィード>の追加ダウンロードがあった日、俺は有給を取ってゲームをやろうとしていたけど、あいつも有給取って「竜機大戦」のイベントに足を運んでいたはずだ。
あの日俺は死んじゃったんだろうから、オタク仲間がいなくなったことであいつも少しは悲しんだのだろうか。
『ハルト、さっきからぼーっとしているけど大丈夫? 体調悪い?』
俺が物思いに耽っていると、ティリアリアが心配そうな表情をしていた。プラチナブロンドの長い髪と大きな目の可愛いらしい顔が不安げに俺を見ている。
彼女はゲームにおいて俺の一番推しの女性キャラだった。原作では出番があまりなかったが、今ではこうして『聖竜部隊』の責任者として俺と行動を共にしている。
それでもって俺の第一夫人になってしまった。この事実をあの同期が知ったら、もの凄く驚くだろう。
「俺は大丈夫だよ。ちょっと考え事をしていただけだから」
『そうだったのね。確かにこれから飛空要塞の責任者と話し合いをするんですもの、緊張するわよね』
「まあね」
そう、確かに俺は今緊張している。
何と言ってもこれから俺が話し合おうとしているシリウス・ルートヴィッヒは、自称転生者であり俺と話をしたいと言ってきた人物だ。
その真意は定かではないが、もしかしたら突然起こった転生現象について何か知っているかもしれないし、それ以外にも何かしら重要な情報を持っている可能性がある。
――そして、俺が緊張している理由は他にもある。
それは、今回のシリウスとの話し合いを契機に俺が転生者である事を皆に打ち明けようと思っていることだ。
現在、俺が転生者である事を知っているのは、マドック爺さん、シェリンドン、それにノルド国王の三人だ。
先日ノルド国王と謁見した時、俺が転生者である事実はしばらくしてから皆に打ち明けるのが良いだろうと言う結論に至った。
けれど、俺は今回のタイミングが良いだろうと考えた。
そもそも飛空要塞<フリングホルニ>の責任者であるシリウスと装機兵操者である俺が会談をするという事自体がおかしな話なのだ。
常識で考えればもっと責任ある立場の人間が対応するのが妥当だろう。それにシリウスが転生者である事は遅かれ早かれ知られるはず。
そうなればヤツが興味を持った俺もまた転生者だと思われるのは当然の流れだ。
そんな状況になる前に事実を打ち明けた方が良いと俺は考え、事前に俺の事を知っている三人にも相談し、彼らも分かってくれた。
そして俺の妻四人と竜機兵チームの皆にもシリウスとの会談で大事な話をすることを伝えてある。
この世界が元々ゲームの世界で俺はそれで遊んでいた人間だと言われたら、皆は戸惑うだろうし、その真実を受け入れられない人もいるだろう。
俺に対しネガティブな感情を抱き、今後の付き合い方を改めることも十分考えられる。
そうなったら正直結構堪えるけど、こればっかりはいつまでも黙っていていい問題じゃない。
俺が気持ちの整理をしていると、何やら<ニーズヘッグ>のブリッジが慌ただしくなっている事に気が付く。
「ブリッジ、何かあったのか?」
するとティリアリアが俺に状況を説明してくれた。
『今、<ニーズヘッグ>のエーテルレーダーに反応があったのよ。私たちの進行方向から小型飛空艇が近づいているみたいなの。エーテルパターンからすると『ドルゼーバ帝国』の飛空艇らしいわ』
「もしかして……シリウス・ルートヴィッヒか!?」
わざわざ向こうから出向いて来たっていうのか? 俺たちからすれば敵のテリトリー内で話し合いをするのは居心地が悪い。
その気持ちを汲んで俺たちのテリトリー内での会談に臨むということなのだろうか?
それから間もなくして小型飛空艇からエーテル通信が入った。
予想通りシリウス・ルートヴィッヒが搭乗しており、会談は<ニーズヘッグ>内で行いたいとのことらしい。
シェリンドンとティリアリアはそれを承諾し、俺とシオンが警戒する中、帝国の船が<ニーズヘッグ>に接舷した。
すぐに俺とシオンは<ニーズヘッグ>に戻り、帝国の飛空艇と接舷した通路に向かった。
船内に敵が侵入した際の戦闘要員である騎士たちや竜機兵チームの面々、それにシェリンドンやティリアリアの姿もある。
俺とシオンが合流すると間もなく接舷部の扉が開く。
そこから姿を現したのは金髪色白でスリムな体型のイケメンだった。――誰だコイツ?
そのイケメンの隣にはメイド姿の女性が立っているのみで他には誰もいない。
太っちょ貴族のシリウスの姿が無い。どういうことだ?
「あのー、シリウス・ルートヴィッヒさんはいらっしゃらないんですか?」
堪りかねて俺が質問すると、近くにいたティリアリアが呆れた顔をしていた。
「何を言ってるのよ。あそこにいる男性がシリウス・ルートヴィッヒその人よ」
それを聞いてもう一度シリウスを見る。
俺が知っているシリウスは、ぽっちゃり体型で常に何かを食べている無能キャラである。
それに対し、目の前にいる男はやせ形で甘いマスクで白い歯をキラリと見せており、まるでイケメン俳優みたいな男である。なんか仕事できそうな雰囲気を纏っている。
共通しているのは金髪という点のみだ。
「――――太ってないじゃん」
思わずぽつりとこぼすとシリウスが笑みを浮かべて俺に近づいて来た。
俺も前に出て手を伸ばせばお互いに触れられる位置まで接近する。その周りには護衛の騎士たちがいつでも飛びかかれる位置に待機している。
「君がハルト・シュガーバインだね。僕はシリウス・ルートヴィッヒだ。今日をとても楽しみにしていたんだ。よろしく頼む」
シリウスは他意のない笑顔を見せながら俺に握手を求め、俺はそれに応じた。
転生者であるこの男との邂逅が俺に何をもたらすのか、不安と興奮が入り混じるのであった。
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