第92話 キャタピラの重厚感が割と好き

 俺が満足気に頷いているとフレイが納得のいっていない様子で訊いてきた。


「俺が訊きたいのは名前がどうこうじゃなくて、どうして下半身が戦車みたいになっているかと言う事なんだが――」


 俺も転生してから知ったのだが、このテラガイアという世界にも大昔に戦車があったらしい。

 それこそ装機兵のような人型二足歩行の兵器が歴史に現れる前は、エレメンタルキャノンを放つ移動砲台――つまり戦車が主力だった。

 ちなみに術式兵装の標準武装とも言えるエレメンタルキャノンの名前の由来は、戦車の武装だったところから来ている。

 砲塔は必要なくなったが、凝縮したエーテルの弾を放つという内容は一緒なので、この名が採用されたらしい。


 やがて兵器のエンジンであるエーテル永久機関の高性能化やエーテルの増幅器であるエナジスタルが開発された事で、兵器事業は革新を迎えた。

 そこで生み出されたのが装機兵だ。

 様々な地形に対応出来る二足歩行を有した人型の兵器で、あらゆる用途の武器を装備することが可能な人型の手を有しているのが特徴だ。

 怪物的進化を続ける装機兵の前では、戦車のような移動砲台は鈍重な的にしかならず、戦場の主役が交代するのは必然だった。

 装機兵の操者にしてみれば、どうして大昔の兵器を今更持ち出したのかと言いたくなるのだろう。

 

 でもね、それは大昔の技術で造った戦車の話だ。今の技術で造り上げた無限軌道の性能は当時とは比べ物にならない位上がっている。

 さすがにエーテルスラスターを駆使した立体機動は再現できないが、こいつに機動性は最初から期待してはいない。

 この戦車型の下肢最大の特徴は、その圧倒的な積載限界値だ。

 二足歩行は地形への柔軟性や機動力に優れる分、重武装の重みに耐えられない。もし出来たとしても動きは鈍重になり、装機兵最大の長所を殺すことになる。

 一方、戦車型であれば積載値に余裕があるため、かなりの重武装が可能だ。


 そこで重装甲の装機兵の上半身を載せて、遠距離攻撃用の武装を施したら――あら、どうでしょう。とんでもない後方支援機の完成です。

 そのコンセプトで開発したのがドラゴンタンク、もといドラタンクなのだ。

俺は前世で『竜機大戦』をプレイしていた時から常々思っていた。

 フレイのステータスやスキルを考えると、防御力と遠距離攻撃に特化した機体に乗せたら大化けするのではないか、と。

 そのため、<グランディーネ>並みの重装甲を施し、高出力のエレメンタルキャノンを放つキャノン砲を背中に二門設置、両腕にはストレージから種類が豊富な武器を装備する。

 さらには機体の下半身である無限軌道部の左右に一門ずつ大型レールガンを装備している。レールガンとは物体を電磁気力によって加速して撃ち出す装置だ。

 これらの武装で身を固めたドラタンクは、まさに動く武器庫と言えるだろう。

 

 ドラタンクの動力は竜機兵と同じくドラゴニックエーテル永久機関を採用している。

 搭載しているエナジスタルは、雷属性のアークエナジスタルを三つにエナジスタルを二つ。

 このアークエナジスタルは、以前ドラグエナジスタル錬成に失敗し保存していた物を流用したものらしい。

 ただし、その増幅性能や強度はアークエナジスタルの中でも高水準を誇るため、動力から伝達される膨大なエーテルにも耐えられるとのことだ。


 この機体の開発をマドック爺さんにお願いした時、あまりにも時代に逆行したコンセプトの機体であったため、最初は難色を示された。

 しかし話が進むにつれて動力とエナジスタルは最高級品が搭載され、武装もどんどん豊富になっていくなど様々なアイディアが盛り込まれ、当初予定されていたものとはかけ離れた機体になっていったのである。


 以上の事をフレイに説明したら、笑いながら「狂ってる」と言われた。

 フレイも『錬金工房ドグマ』に身を寄せていたから錬金技師たちが本気を出した時の凄さを知っているのだろう。


「そういう訳だから、フレイ。ドラタンクはマドック爺さんたちが趣味に走りまくったトンデモ機体になってるから覚悟しといてね」


「分かった。なら、俺はそれまでに怪我を完全に治すことに専念するぜ」


 そう言いつつ、フレイは作業の邪魔にならない所でドラタンクが組み上がっていく様子を喜々として眺めていた。

 何やかんやで自分専用機を気に入った様子だ。俺もドラタンクに非常に興味があるので、完成したら後で操縦させてもらおう。




 ――ついにこの日がやって来てしまった。

 『アルヴィス城』の一室を借りて、その中で俺は白い騎士服に着替えていた。

 その上に青いマントを着用し、自分の姿を大きな鏡で見てみると服がキラキラ輝いていて如何にも豪華である。

 その分自分のモブ風の顔が装いにマッチしておらず、まさに服に着られているという感じだ。

 

「本当にこの格好で大勢の人の前に出るの? 嘘でしょ? 嘘だと言ってよバー○ィ」


「バーニ○って誰だよ。そんな事より、ほら手袋忘れてるぞ。お前が主役の叙勲式なんだからもっとシャキッとしろ」


 フレイが俺に白い手袋を渡してくれた。全身白ずくめのこの衣装のコンセプトは、俺の愛機である<サイフィード>のカラーリングを意識したものらしい。

 それにしても憂鬱だ。とうとうやって来た聖騎士の叙勲式。そんでもって同時に男爵の爵位を得ることになる。

 正式に貴族の仲間入りになるのだが、未だに実感がない。


「ふふふ、馬子にも衣裳とはまさにこれの事だな。くふふっ!」


 めかし込んだ俺の姿を見て、シオンが腹を押さえながら笑っている。


「おい、シオン。父親の晴れ姿を見て笑うとは随分じゃないか。後で女性陣に頼んで、お前には豪華なゴスロリ衣装を着てもらおう。――楽しみに待ってなさい」


「ひぃっ! 卑怯だぞ、それが父親のすることか!」


 俺の脅しに対してシオンは顔を引きつらせながら抗議をしてくるが、ここで下に見られるわけにはいかないのだ。

 なぜなら俺は父親だから。子供にマウント取られてたまるか。


「お前も一緒に皆に笑われろ! 一緒に仲良く地獄に落ちようじゃないか!!」


 やけくそになって笑う俺と青ざめるシオンを見てフレイは呆れている様子だった。一度大きく溜息を吐いて俺たちを交互に見る。


「――お前ら、最低の親子だな」

 

 こうして俺の準備は整った。部屋から出て叙勲式が行われる広間まで移動する。通路は関係者以外立ち入り禁止になっているのでとても静かだ。

 これだけ人がいなければ脱走するのも簡単ではないだろうか。ちらりと後ろを向くと俺が逃げないようにフレイとシオンが目を光らせていた。

 二人とも式典用の騎士服に身を包んでおり輝いて見える。無駄に美形だからなこいつら。俺のように服に着られている感じが全くないのが腹立たしい。


「「――逃げるなよ」」


 二人でハモりながら釘をさしてくる。俺は大人しく広間目指してとぼとぼ歩いて行くのであった。

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