第88話 人生初カノが出来たと思ったら妻四人②

 すると、ここで一人の女性に意識が向かう。

 それはシェリンドンさんだ。彼女は貴族出身ではない。であれば、いきなり側室なんかにされるなんていい迷惑なはずだ。

 俺と目が合うとシェリンドンさんは申し訳なさそうな表情を見せていた。


「あの……ハルト君。私は皆とは違って年齢は三十半ばだし、子供もいるのよ。こんなおばさんに好意を持ってもらえたのは嬉しいけど、このお話はお断りさせてもらおうと思うの」


 そりゃそうなるよな。こんな滅茶苦茶な話、俺がシェリンドンさんの立場だったら迷惑に思う。


「シェリンドンさんはハルトが嫌いですか?」


 いきなりティリアリアがシェリンドンさんに直球ストレート球を投げつけた。

 ちょっと待て、ティリアリア。一般人を追い詰めるのはおやめなさいよ。

 

「そんな事はないわ。ハルト君といると、とても楽しいわよ。でも――」


 口ごもるシェリンドンさんと彼女を見守る王族貴族の三人娘。この重い雰囲気に俺の胃はきりきりしている。

 すると再びティリアリアが口を開くのだが、その内容に俺は複雑な気持ちになる。


「――では、今来ている例の申し出を受けるんですか?」


「何の話?」


 俺が合いの手を入れる形となり、シェリンドンさんがポツリと話し出した。


「実は今、とある貴族の方から妻になって欲しいというお誘いを受けているの」


 すると、ティリアリアが不快な顔をしながら続いて話す。


「好色で有名な伯爵よ。御年六十過ぎで既に十人以上の側室がいるの。そのエロジジイが随分前からシェリンドンさんに側室になれってしつこく付きまとっているのよ。政界に影響力を持っていて、ドグマにも少しばかり援助しているからそれをネタにしてゆすっているわけ。帝国との戦いの時には立場は一応王国側だったけど、もしも敗色が濃厚になっていたら王国を裏切っていたかもしれないと言われているわ。そういうグレーゾーンを行く卑怯な男なのよ」


 ティリアリアの頬が膨らんでいる。結構頭にきているようだ。一方でシェリンドンさんは表情が暗い。


「でも、良い条件なのは間違いないのよ。ドグマへの支出を増やしてくれると言ってくれているし、結婚したとしても基本的に私はここで仕事をしてもいいって話だし」


「ちょっと待ってください、シェリンドンさん。もしかして、そのエロ伯爵の側室になる気なんですか!?」


「それが全て丸く収まる最良の選択なのよ。そうすれば資金に余裕が出来て研究の幅も広がるわ」


 口ではそういうが、シェリンドンさんの暗い表情を見るにかなり嫌がっているように見える。

 ふとティリアリアたちを見ると、彼女たちは不敵な笑みを浮かべていた。そして口々に言うのだった。


「つまりはその話を断る大義名分があればいいのよ」


「例えば、今度特別な称号や特例で爵位を授けられる方の妻になるとなれば文句は言えないはずですわ」


「さらにそれが帝国を震え上がらせた白い竜機兵の操者であったならば、二度と自分の側室になれ等とふざけた事は言えないだろうな」


 ティリアリアたち三人娘が「さあ、どうする」という目で俺を見ている。シェリンドンさんも不安そうな表情で俺を見ていた。

 正直言って、俺もその脅迫エロ伯爵の話を聞いて不快感で一杯だ。そんなヤツに嫌がる彼女を渡す選択肢は俺にはない。

 シェリンドンさんは装機兵を造っているだけあって立派なロボットオタクだ。

 前世で培った俺のロボットアニメやゲームの話を目を輝かせていつも聞いてくれて、最近ではロボットについて熱く語り合う仲でもある。

 若くして夫が亡くなり苦労をしてきた彼女には絶対に幸せになって欲しいと思う。 

 だからこそ彼女が不幸になる結末なんて見たくない。


 それに幸せになって欲しいのは彼女だけじゃない。ティリアリアは勿論なのだが、クリスティーナやフレイアにも当然幸せになって欲しいと思う。

 そんな彼女たちが俺との結婚に前向きな姿勢でいることについて戸惑いこそ大きいものの本音を言えばすごく嬉しい。

 他者からここまで善意や好意を向けてもらって、それに気付かないふりをして誤魔化すのは失礼極まりないだろう。

 彼女たちがこうして話し合いの場を設けてくれたのも、自分たちは本気だという意思の表れだ。

 それならば俺がしたい事とすべき事は一致している。

 前世含めて四十年以上恋愛経験が皆無の俺だが、ここが男としての正念場である事は分かる。

 俺は立ち上がって、彼女たち一人一人と視線を合わせ深呼吸してから話し始める。


「ティア、クリス、フレイア、シェリンドンさん。――俺のお嫁さんになってください。皆を幸せに出来るよう精一杯頑張りますので、どうぞよろしくお願いします」


 俺がお辞儀をすると、彼女たちも椅子から立ち上がりお辞儀を返してくれた。


「「「「こちらこそ、末永くよろしくお願いします」」」」


 四人の美女が花が咲いたような笑顔を俺に見せてくれている。彼女たちを幸せにしたいと思う俺ではあるが、先に俺の方が幸福感で一杯になってしまうのであった。

 


 ――拝啓、前世のおふくろ様。

 先程俺は前世含めて初の彼女が出来たと報告しましたが、訂正します。

 この度、わたくし白河光樹あらためハルト・シュガーバインは妻を四人めとる運びになりましたことをご報告いたします。

 この話をあなた様が聞けば、「妻が複数って、将軍かよっ!?」と驚くことでしょう。当事者であるわたくしも大変驚いております。

 将軍でもなければアラブの石油王でもない小市民童貞の俺が四人の奥さん持ちですよ。

 生きていると何が起きるか分かりませんな。ではまた――。

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