第87話 人生初カノが出来たと思ったら妻四人①
「あのー、ティリアリアさん。今伴侶が複数とか側室がどうとか言った? 俺の聞き間違いだよね?」
俺がたどたどしく訊ねてみると、ティリアリアは「今さら何を言っているの?」と返してきたのだった。
その後、ショックで固まった俺の姿を見て彼女たちは溜息を吐いている。
特にティリアリアは恒例の頬を膨らませたぷんぷん顔で絶賛お怒り中だ。
「もしかして、聖騎士関連の特記事項読んでないの? 渡されたでしょ!?」
そう言われて思い出した。王都襲撃の数日前に確かにもらっていましたよ、用紙の束を。
それには聖騎士としての責務とか役割とかが記されており、「今と大してやること変わらないじゃん」と思って途中で読むのを止めていた。
「ごめんなさい。最後までちゃんと読んでいませんでした」
それを聞いてティリアリアはぷんぷん顔を継続中だ。
「もう! 本人がそんな事でどうするの? 私なんかもう何回も目を通してるわよ。聖騎士としての責務とか家庭をどういうふうに築いていったらいいかとか。それをちゃんと把握してから、今後の事を一緒に話していきたいと思っていたのに!」
今の会話で出てきた〝今後の事を一緒に〟という言葉に俺が素早く反応してティリアリアの顔をまじまじと見ると、彼女の頬が桜色に変化する。
「今何て?」
俺が訊くとティリアリアはますます頬を赤く染める。膨れていた頬はいつの間にか通常に戻っていた。
「今後の事を一緒に話したいと言いました」
「つまりそれって、あの答えはオッケーってことでいいの?」
ティリアリアは顔全体を真っ赤にしながら俺を上目遣いで見て、小さく「はい」と言った。
良かった。本当に良かった。前世のおふくろ様、あなたの息子は二度目の人生で初めて彼女が出来ました。
「末永くよろしくお願いします」
ティリアリアがかしこまって俺にお辞儀をする。俺も姿勢を正してお辞儀で返した。
「こちらこそよろしくお願いします」
お互いはにかんでいると、そこにサディスティックプリンセスの声が聞こえてきた。
「これで正妻が決まりましたわね。それでは側室はわたくしたちという形になりますわ。ティリアリアもそれでいいですか?」
「ええ、分かったわ」
ごく短い会話ではあったが、そこには俺の今後の人生を左右する情報が詰め込まれていた。
「え? 皆が側室? え?」
きっと今の俺は間抜けな顔をしているだろう。口を半開きにしてだらしなかったと思う。でもしょうがないじゃないですか。
今側室になると言ったのはこの国の第一王女で、他には子爵であるベルジュ家の娘さんと『錬金工房ドグマ』の誇る天才錬金技師が脇を固めているのだから。
俺のバカ面を見て四名の女性が微笑んでいる。ここでクリスティーナが説明を再開してくれた。
「先程、数多くの貴族からお見合いの話が来ていると話しましたが、そのほとんどはハルトさん個人ではなく聖騎士や爵位と言った地位に注目しているだけですわ。それで、これではまずいと思ってお父様がハルトさんに付き合っている女性、もしくは気になっている女性を訊ねたのです。その女性陣でハルトさんを囲ってしまうのが一番いいだろうという考えですわ」
「その結果、放心状態だった俺が言った女性があなた方だという事ですか……」
四人が頬を赤く染めながら同時に頷いた。
何てこった、控えめに言って俺最低じゃないか。つい先日ティリアリアに告白してその答えを待っている間に、気になっている女性が複数いると言うなんて。
ティリアリアからしたら、付き合う前から相手には浮気心がありますと言われている状況なわけで――その相手というのは俺なんだけども。
これ、怒ってるよね。怒っていない方が怖いよ。
身体を小刻みに震わせながら、俺はティリアリアの顔を恐る恐る見る。
するとどうでしょう。ティリアリアはごく普通に皆と会話をしていましたよ。これはいったどういう状況? 逆にその笑顔が怖い。
「どうしたの、ハルト? どうしてそんなに怯えた顔で私を見ているの?」
「え? いや――ティア、怒ってないの? 俺は君以外にも皆に気があると言ったんですが」
するとティリアリアは「ああ、そういうことか」と納得した様子だ。
「そりゃ、少しは思う所はあったけれど今までのハルトの交友関係を考えれば納得の人選だと思ったわ。それにあなたは責任ある立場になり爵位も授かるのだから、どのみちパートナーは複数になるわ。そう考えれば私としてもクリスやフレイア、シェリンドンさんが一緒になってくれるのは心強いしいいかなと思うの」
淡々と話すティリアリアだが、俺のこんなハーレム状態を普通に受け入れていることに驚きだ。
前世で視聴したアニメなんかじゃ、浮気しまくっていた主人公の男が最終話で浮気相手に〇されていたからなぁ。
救いようのない男だったからかわいそうとは思わなかったが。
ティリアリアを茫然と眺めていた俺に気が付いてか、今まで静かに紅茶を飲んでいたフレイアが口を開いた。
「ハルト、貴族の娘にとって結婚と言うのは家の存続が重要視されている。それはつまり、子を成すということだ。そのため、貴族社会では伴侶は正妻だけでなく側室が存在するのは当たり前のこと。私たちは幼少の頃からそういう教育を受けている」
「そうなのか。――知らなかったよ」
俺のような一般庶民と貴族では、お互いの常識にいくらかズレが生じるようだ。
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