第七章 もう一人の転生者

第79話 生まれ変わる王国

 『アルヴィス王国』と『ドルゼーバ帝国』との間に休戦協定が結ばれてから数日が経過していた。

 俺も後で知ったのだが、国家間で締結された休戦協定は最低でも三ヶ月間遵守しなければならないという取り決めがあるらしい。

 この三ヶ月という期間で『アルヴィス王国』は帝国との戦争で受けた被害からの迅速な復興を目指していた。

 それと同時に国内では変革とも言うべき事件が起きていた。

 今回の『ドルゼーバ帝国』との戦争において、帝国側に協力していた貴族がいくつもいたらしい。

 そんな行動を起こしていた貴族一派が一掃されたのだ。


 『アルヴィス王国』では、ここ数十年で貴族が力を持つようになっていった。その影響が顕著に表れたのが騎士団だ。

 貴族の人間が騎士団に入団し、その権力を笠に着て好き放題やり、そう言った連中は騎士団の中でとんとん拍子に階級が上がっていった。

 それによりますます貴族の権力が騎士団内で幅を利かせる事となり、その結果騎士団は貴族の傀儡となっていった。

 おまけに増長した貴族たちは、近年では王族をもその地位から引きずり下ろそうとする動きを起こし、『アルヴィス王国』に攻め入ろうとしていた『ドルゼーバ帝国』と手を結び暗躍していた。

 自分たちの地位向上を条件として王国を敗北させようとしていたというのだから本当に笑えない。

 戦争中に騎士団の動きがやたらと悪かったのは貴族たちのこういった事情が影響していたのである。

 王都や『第一ドグマ』を急襲した帝国の大部隊の侵攻を手引きしたのも彼らの所業だったらしい。全くこの国の貴族連中は控えめに言っても最低最悪だ。

 

 帝国との戦争前から、ノルド国王はそういった貴族たちの動向に目を光らせ、信頼のおける直属の部下たちにも監視をさせていた。

 そして今回の一件で帝国と密接な関係を持っていた貴族連中の爵位剥奪、お家取り潰しに踏み切った。

 その中でも特に悪質だった貴族は、厳罰に処された。それがどういう内容だったのかは想像に難くない。

 他にも騎士団に所属している貴族に関しては、帝国との戦争において敵前逃亡や職務放棄をした者は騎士団から永久追放となった。

 ちなみにティリアリアと見合いをした貴族メルフ家の三男坊カール・メルフは『リーン』での戦いにおいて全てを部下たちに任せて敵前逃亡したとして、この度めでたく騎士団をクビとなった。

 さらにメルフ家は帝国とも手を結んでいたとしてお家取り潰しになった。この家が表舞台に立つことは二度とないだろう。


 こうして、『アルヴィス王国』を裏切りおとしめていた一部の貴族は完全に権威を失った。まあ、因果応報というやつだ。

 現在騎士団は貴族の支配から解放されて、ジェイソン・マッカーニー騎士団長指揮のもと体勢を立て直そうと頑張っている。

 先日挨拶に行ったら、人手不足で大変そうではあったが長いこと騎士団を支配していた呪縛から解放されたためか皆生き生きしていた。

 そして、今騎士団には心強い助っ人が来ている。

 王国貴族において武を重んじる二強の貴族、ベルジュ家とズンガーラ家が重い腰を上げたのだ。

 

 『アルヴィス王国』の貴族において散々悪質だと言ってきたが、それは貴族全体の三割程度の連中だ。

 貴族として国や民を守ろうとする真っ当な家もちゃんといる。

 その筆頭に挙げられるのがベルジュ家とズンガーラ家なのだ。

 ベルジュ家はフレイとフレイアの実家であり爵位は子爵。現当主は二人の祖父であるロム・ベルジュである。

 ロム・ベルジュはかつて王国騎士団長を務めたこともあり、現騎士団長のジェイソン団長の師匠にあたる。

 既に六十歳過ぎの御年だが、まだまだ現役バリバリの剣豪だ。


 一方、ズンガーラ家だが爵位は伯爵、現当主はガガン・ズンガーラである。

 剣術を重んじるベルジュ家とは違ってズンガーラ家は格闘術やハンマーなどのパワー系の戦術を得意としている。

 ガガンはロムの次に王国騎士団長を務めた経験があり、彼とは幼馴染でライバルという関係だ。快活な性格をしておりパメラの師匠でもある。


 二人が騎士団長を務めていた頃は、彼らが貴族でありながら武芸を重んじる一流の騎士だったこともあり騎士団内における他の貴族の暴走は抑えられていた。

 だが、彼らが騎士団を辞め現役から遠ざかったのを機に一部の貴族が好き勝手をやり出したのだという。

 そんな二人が騎士団のサポートのため再び立ち上がったという事で、騎士団は今までにない位活気に満ちている。

 騎士団内の貴族の暴走を抑えきれなかったジェイソン騎士団長は、ロムとガガンの二人から叱られていたが爵位の関係上、男爵である彼が位の高い貴族連中を止めるのは現実的に難しかったということもあり、これからの頑張りに期待するということで手打ちとなった。


 そのためジェイソン騎士団長は現在、名誉挽回のため動き回っており、帝国との戦いで矢面に立っていた俺たち竜機兵チームや『錬金工房ドグマ』の関係者たちに謝罪に回っていた。

 このような仁徳者がトップとして動けるようになったのだから、今後の騎士団は心配ないだろう。

 それに現在ドグマでは、次期主力の装機兵<セスタス>の量産が本格的に始まり、これらの配備が進めば国内の戦力は大幅に上がるはずだ。

 今後俺たち『聖竜部隊』と騎士団は連携して動けるだろうし、かなり戦いやすくなるのは間違いない。

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