第80話 お見舞い

 帝国との休戦協定が結ばれ、その後数日間は帝国を手引きしていた一部の貴族の問題や騎士団の立て直しなどの件などでゴタゴタしていた。

 他にも対処しなければならない問題が山のようにあったが、そういった物事を解決するのは国のお偉いさんたちの役目なので俺たちのような平社員に出来ることは限られている。

 そのような中、俺は王都のとある病院を訪れていた。ここは騎士団が運営する病院で怪我をした騎士が治療に訪れたり入院したりしている。

 現在ここにフレイが入院しており、俺は彼のお見舞いにやってきたのである。

 フレイの怪我は命に別状はないとのことで、あと数日安静にしていれば退院となるらしい。

 その前に落ち着いた環境で二人で色々と話をしたかったのだ。

 

 病院の中は全体的に白で統一されている点や看護師さんたちの服装など、そう言ったところは前世のものとはそんなに変わりはなかった。

 怪我をした騎士だろうか、松葉杖を使いながら歩く男性の姿がちらほら見える。

 受付でフレイの同僚である事や俺の身元確認をしてから俺はフレイの部屋に向かった。

 現在フレイは個室で療養しているらしい。俺がドアをノックすると、中から「どうぞ」と男性の声がした。

 俺が中に入ると、ベッドには赤い髪と瞳の男性――フレイ・ベルジュが横たわっていた。

 入ってきたのが俺だと気が付くと身体を起こそうとしていた。


「横になったままでいいよ。まだ身体が辛いだろ、フレイ」


「すまん」


 部屋に備え付けてある椅子に俺が座るとフレイは再び身体を仰向けにしてベッドに横になった。

 頭に巻かれた包帯や頬を保護するガーゼ姿が痛々しい。

 そんな俺の視線に気が付いたのか、フレイは苦笑いをしている。


「傷口はもうそんなに痛まないし、火傷もそれほど大したわけじゃない。こんな個室まで用意してもらうなんて大袈裟なんだよ」


「確かお爺さん――ロムさんの希望だったんだっけ? 個室にしたの」


 自分の祖父の名前が出ると、フレイは申し訳なさそうな表情を見せる。


「爺さんは何だかんだで俺やフレイアに甘いところがあるからな。俺が家を出た後も執事に頼んで自分からだと気付かれないように俺の生活を援助してくれていたしな。――また、迷惑をかけちまった」


「へえ~、あのおっかなそうな爺さんがねえ。意外だ」


 ロム・ベルジュは御年六十過ぎの強面のお爺さんだが、年齢を感じさせない気迫を常に纏っている。

 そんな騎士の中の騎士とも言うべき人物が孫を溺愛している姿はどうにも想像しにくい。

 俺がそんな事を考えていると、フレイが俺に尋ねてきた。


「ところで今日はどうしたんだよ? 今は帝国との戦争の後始末やらで色々忙しいんじゃないのか?」


「そう言うのはお偉いさんたちの仕事だよ。俺たちのような下っ端が出来るようなことはひと段落した感じだな」


「そうか」


 フレイは安心した表情になり、天井をジッと眺めていた。そんな彼に俺は現在の国の状況を伝えた。

 帝国を手引きしていた一部の貴族が排除されたこと。それにより騎士団が再編され、これまでより動きが良くなるだろうということ。

 ベルジュ家やズンガーラ家を中心とした貴族が一丸となって国や騎士団のサポートを始めたこと。

 そして俺たち竜機兵チームは、今後聖女であるティリアリアの指揮下で『聖竜部隊』として名を改め活動するということだ。

 俺が一通り話すと、フレイは静かに口を開いた。


「そいつは忙しくなりそうだな。そう言えばフレイアはどうしてる?」


「今は<ヴァンフレア>に少しでも慣れたいって言って機体の慣熟訓練をしてる。機体との相性はいいみたいだし、すぐに乗りこなせるようになるだろうな」


「そうか、良かった。実は一昨日あいつが見舞いに来てさ……兄妹でゆっくり話すなんて何年ぶりかだったな」


 フレイの表情は穏やかだった。ただ、その一方で少し寂しそうにも感じる。俺は、気になっていたことをフレイに聞いてみることにした。


「なあ、フレイ。お前本当は<ヴァンフレア>の操者になりたかったんじゃないのか?」


 俺の質問にフレイは一瞬目を丸くすると、少し考えてから答えてくれた。


「そう……だな。<ヴァンフレア>の組み立てには俺も関わっていたし、思い入れが強いのは認めるよ。でも、俺が乗りたいとは考えなかったな。だれか、こいつに相応しいヤツが乗ってくれたらいいなとは思っていた。――だから、妹のフレイアが<ヴァンフレア>に乗り込んで動かした時には嬉しくてたまらなかったぜ」


 フレイは本当に嬉しそうに笑っていた。他意はないのだろう。俺も戦闘中の<ヴァンフレア>の戦いぶりをフレイに熱く語ってしまった。

 新しい機体に乗って早々に術式兵装を使いこなすフレイアは本当にすごいと思った。それを聞いてフレイは「俺の妹だからな」と自慢げに言っていた。

 こいつがこんなに妹思いだとは知らなかった。ゲームでは見られなかった一面に俺は驚いたが、今まで経験したギャップとは違って綺麗な内容だったので清々しい思いがする。

 だって今までは、清楚だと思っていた聖女が女子高のギャルっぽかったり、同じく清楚な姫様だと思っていたらサディスティックプリンセスだったりと散々なものだったんだ。

 そしてフレイよ。お前には言えないが、君の自慢の妹は――真正のドMだ。

 嬉しそうに妹自慢をするフレイに対して居たたまれない気持ちになったのは言うまでもないだろう。

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