第67話 シオンの戦い

 その頃『第一ドグマ』近郊の上空では、シオンの駆る<シルフィード>が帝国の飛行型装機兵<フレスベルグ>二機並びに飛空艇艦隊と激戦を繰り広げていた。

 シオンが王都騎士団の援護のためにこの空域に来た時には、騎士団の飛空艇艦隊は半数近くが落とされ十隻程度が戦線を維持していた。

 一方で『ドルゼーバ帝国』の飛空艇<カローン>の艦隊は当初七隻で王都を急襲したが、南方の飛空要塞から派遣された五隻の<カローン>が途中から現れ、合計十二隻の飛空艇艦隊を成していた。

 敵の戦力を見誤った王都騎士団は、二機の<フレスベルグ>の存在もあって瞬く間に戦力を削られていったのである。


「くそっ! 味方の飛空艇艦隊はまともな援護すらしない。敵は空戦用の大型装機兵が二機ある上に飛空艇が積極的にエレメンタルキャノンで援護をしてくる。全くふざけた話だ」


 風の竜機兵<シルフィード>のコックピット内でシオンは味方の飛空艇艦隊を苦々しい気持ちで見ていた。

 現在王都騎士団の飛空艇で無事なのは、戦闘開始時に後方に位置していたものばかりだ。そのような船には貴族出身の騎士たちが乗っている。

 今までの経験上、そういった連中は積極的に戦闘に加わるようなことはしない。

 直接的な戦いは平民出身の騎士や『錬金工房ドグマ』から派遣されている竜機兵チームに押し付けている。

 援護に来て現状を把握したシオンは、最初は仲間の元に戻ろうとした。

 だが、この飛空艇艦隊が全滅すれば王都の空は敵に制圧され、高高度からの一方的な攻撃によって街は火の海になってしまう。

 その結論に至ったシオンは、この期に及んでも散発的な援護しかしない貴族出身の騎士たちに憤りを覚えながらも孤軍奮闘していた。


「僕と<シルフィード>の全ての力を使えば、こいつらを確実に倒すことは出来るだろう。でもそうすれば『第一ドグマ』で戦っているパメラたちを援護する余力は残らない……どうすればいい?」


 <フレスベルグ>の本体から射出されるワイヤー付きの爪をエーテルブレードで切り払いながら、シオンはどうするべきか苦悩する。

 その迷いが機体の動きを鈍らせてしまう。

 もう一機の<フレスベルグ>が射出したワイヤークローが<シルフィード>の左脚を掴み、高度を上げながら機体を回転させ始めた。

 それはかつて『第四ドグマ』防衛戦にて<サイフィード>が受けた捕縛攻撃だった。

 シオンは敵の動きに引きずられまいと<シルフィード>の翼と各部エーテルスラスターの出力を上げて対抗する。

 片や回転をしようとする大鷲の装機兵、片やその場に留まろうとする風の竜機兵。 

 高高度で行われる綱引きの如きパワー勝負。

 拮抗する二機の間にもう一機の<フレスベルグ>が割り込み、<シルフィード>にわしの顔を模した機首を向ける。

 その先端に魔法陣が形成され、エレメンタルキャノンの発射準備を整えようとしていた。


「まずいっ! このままだと直撃を受ける!」


 シオンは<シルフィード>の両腕を交差させて防御の構えを取り、多少のダメージを覚悟した。

 その時、魔法陣を形成した<フレスベルグ>の顔面に上空から放たれた光弾が直撃しエレメンタルキャノンは不発に終わる。

 その状況に驚いたのか、<シルフィード>を捕縛しようとしていた側の<フレスベルグ>の動きが止まり、その隙にシオンはエーテルブレードでワイヤーを斬り裂き拘束から脱出した。

 敵から離れながらシオンは光弾が発射された方向に視線を向ける。すると、普段感情を露わにしない顔がふっとほころぶ。


「帰ってきたようだな」


 シオンが見る先には、雲の切れ目から急降下してくる白い飛竜の姿があった。

 すると、シオンのいるコックピットに男性の声が聞こえてくる。


『シオン、戻ったぞ! 大丈夫か!?』


 コックピットモニターに映る黒髪の男性は見るからに焦っている様子だ。傍らにいる銀髪の少女も心配の表情を見せている。


「随分帰ってくるのが早かったな。僕の計算では、まだ十分以上かかるはずだったんだが」


 すると、黒髪の男性――ハルト・シュガーバインは至極当然という感じで種明かしをする。


『スキルの『韋駄天』を使い続けてきたからね。倍速で帰ってまいりました!』


「スキルを連続使用したのか!? 本当に無茶をする。お前の方こそ身体は大丈夫なのか?」


 シオンが心配すると、モニターの向こう側にいる銀髪少女――ティリアリアが親指をグッと上げながら答えた。


『それなら大丈夫! 私がマナを回復し続けていたから、ハルトのマナは満タンよ!』


 しれっと、とんでもない発言をする聖女にシオンは頭を抱えた。


「こんな芸当が出来るのは、お前らぐらいだ。本当に常識外れなことをするコンビだな」


 スキルを連続で使い続ける男とマナを常時フル回復させる女。そんな二人だからこそ可能にした短時間の帰投。

 驚きを通り越して何故か笑いがこみ上げてくるのをシオンは感じていた。この二人がいれば、どんな困難も乗り越えられる。――そんな気にさせられるのだ。

 

「ハルト、お前は『第一ドグマ』にいるクリスたちの応援に行け! どうやら敵の強力な部隊が入り込んだらしい。ここよりも向こうの方が危ない!」


『分かった! それじゃ、ここは任せたぞシオン!』


『シオン、頑張ってね』


 激励の言葉を言い残し白い飛竜は『第一ドグマ』の地上工場区に猛スピードで下りて行った。

 この空域に残ったシオンは、前方にいる二機の<フレスベルグ>とその後方の敵飛空艇艦隊を見据える。

 

「僕は自分自身、相当ひねくれた性格だと思っていたが、あいつと会って少々ほだされたようだ。誰かが来てくれて安心するなんて、これまでにはなかったことだからな。――とにかく、あいつが戻ってきた以上クリスたちは大丈夫だろう。ならば、僕がすべきことはお前らを全力で叩き潰すことだけだ。覚悟するんだな!」


 その後<シルフィード>は風の障壁を纏って敵陣に突っ込んで行き、空中では次々と爆発が起きるのであった。

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