第64話 水竜の術式兵装リヴァイアサン
パメラとクリスティーナは十機以上の<シュラ>と対峙する。
「さっきのエレメンタルキャノンの威力で分かった。こいつらは一機一機が強力だ。出し惜しみをしていたら……やられる! 持てる力を出し切って各個撃破していくしかない!」
<グランディーネ>の左肩にあるアークエナジスタルが輝き魔法陣が発生すると、そこから武器の柄が出現する。
右手でその柄を握りしめ魔法陣から引き出すと、続いて長い鎖が現れ最後には装機兵の頭部よりも大きい鉄球が出てきた。
鉄球にはいくつもの棘が付いており見るからに殺傷能力が高そうである。
「新しく追加された武器――チェーンハンマーの威力を見せてやるわ!!」
<グランディーネ>が装備した鎖で繋がれた鉄球の武器は厳密にはハンマーではない。
一般的に棘付き鉄球の武器はモーニングスターと呼ばれ、その中でも鎖で繋がれたものはフレイル型と呼ばれている。
だが、この手の武器はよく○○ハンマーという名称が付けられており、物理的破壊力を持ったロマン武器だ。
パメラは<グランディーネ>のパワーを活かして鎖付きの鉄球を振り回す。
時には思い切り敵機に叩きつけたり、時には左手で鎖を持ちハンマーの軌道を変化させて巧みに操っている。
その物理武器の威力を恐れてか<シュラ>部隊は慎重に間合いを取ってくる。
攻撃をしり込みする集団に向けて<アクアヴェイル>がエーテルアローを連射して、<グランディーネ>への攻撃を防いでいた。
水と大地の竜機兵のコンビによる攻撃は、数倍以上の数を持つ<シュラ>にプレッシャーを与えていた。
その戦いを横目で見ていた赤い<シュラ>の操者であるアグニ・スルードは舌打ちをする。
ただでさえ標的にしていた青い竜機兵ではなく、通常の装機兵に邪魔をされて彼は機嫌が悪かった。
『全く何をやっているんだ! 竜機兵と言えど相手はたった二機だ! こっちは数で圧倒しているんだから、それを利用するんだよ!! 誰か一人が盾にでもなって一気になだれ込め! それで戦況は有利に傾く! やれ!』
乱暴な口調でアグニは部下たちに命令する。その内容に彼と対峙しているフレイアは怒りを隠せなかった。
「貴様、正気か!? 部下に死ねという事か!?」
フレイアの言葉を聞いてアグニは薄ら笑いを浮かべていた。
『お前こそ正気かい? 敵の命を気にするなんて、アルヴィスの騎士は本当にぬるい連中ばかりだ。――僕はねぇ、そういうのが大嫌いなんだよぉ!!』
「ちぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
荒ぶるアグニが<シュラ>のエーテルファルシオンを<ウインディア>に振り下ろす。
フレイアはその斬撃をエーテルブレードで受け止め、擦れ合う刀身から火花が散る。
<シュラ>のパワーの前に<ウインディア>は押されていき、片膝をついてしまう。
「くっ! なんてパワーだ……押し返せない!」
『そんな機体で僕とまともに戦えると思ったのかい? 腕は悪くないようだけど、まだまだ甘いね。このまますり潰してあげるよ!』
フレイアは潰されまいと必死に耐えていた。
その一方でアグニの命を受けた一機の<シュラ>が、<グランディーネ>のチェーンハンマーを正面から受け止めていた。
棘付きの鉄球の直撃を受け、機体の胴体は激しく歪みコックピットが壊滅的な状態である事は明白だ。
それでもなお、その<シュラ>は鉄球を掴んで離そうとしない。
「なんてヤツなの!? あれだけダメージを受けているのに離そうとしないなんて!」
上官からの命令とは言え、自らの命を即座に投げ出す行動を躊躇なく実行する敵の執念にパメラは恐怖を覚えた。
敵は数だけでなく、その覚悟も尋常ではない。これを崩すにはその頑な精神を圧倒的なパワーで叩き折らなければならない。
「――悪いね、私も負けるわけにはいかないんだよ。これで潰す! 必殺! ミョルニルハンマー!!」
<グランディーネ>の両前腕に搭載されたエナジスタルが輝き、集中したエーテルが得物であるチェーンハンマーに伝わる。
無骨な質量兵器は淡い光を放ちながら先端の棘付き鉄球の部分が急速に回転を開始した。
ハンマーを抱えていた<シュラ>の上半身は一気に削られ四散した。
パメラは自由になったチェーンハンマーを、術式兵装を発動させた状態で振り回し接近していた敵機にぶち当てる。
「寄るんじゃないわよ、このスケベ共!! レディにお近づきになりたいのならもっと節度を持って来いっちゅーの!!」
高速回転しながら襲ってくる凶悪ハンマーをかいくぐって二機の<シュラ>が<アクアヴェイル>に向かって行った。
「クリス、ごめん! そっちに二機行った!」
『大丈夫ですわ、パメラ。こっちは準備が出来ていますわ』
焦るパメラとは対照的にクリスティーナの声は落ち着いていた。
<アクアヴェイル>の頭部に一つと両肩に一つずつ搭載されているアークエナジスタルが発光している。
両手を接近する敵に向けると掌の前方に幾重もの魔法陣が現れ、水色の輝きを灯す。
「先程の術式兵装は防がれてしまいましたが、今度はそうはいきませんわ! <アクアヴェイル>最大の術式兵装を受けていただきます!」
魔法陣の光が強まり、そこに膨大なエネルギーと化したエーテルが集中する。
「これならばどうです! 術式兵装、リヴァイアサン!!」
魔法陣から放たれたのは、超高水圧の砲撃だった。これが竜機兵<アクアヴェイル>が所有する竜の名を冠した術式兵装〝リヴァイアサン〟である。
凄まじいスピードで接近する水の奔流を避けるのは不可能と判断した<シュラ>が、エーテルマントを展開し防御の構えを取る。
リヴァイアサンは直撃すると盾となっていたエーテルマントを一瞬で食い破り、装甲を破壊し敵の身体をバラバラに吹き飛ばした。
一緒に接近していた機体は直撃こそ免れたが身体の半分を削り取られ、地面に激しく転倒し、行動が不可能になっていた。
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