第63話 帝国の新型装機兵シュラ

 炎の中から姿を現したのは、彼女たちが今まで見た事のない機体であった。


「なに……こいつら? 見た事のない装機兵だけど、<ヴァジュラ>に少し似てる?」


 パメラの視線の先にいる装機兵の集団――『ドルゼーバ帝国』の新型装機兵<シュラ>は<ヴァジュラ>を改良して造られた機体であり、対竜機兵を想定した高性能機である。

 通常機は灰色を基調としたカラーリングをしているが、その中に血のように赤い色の機体が一機いた。

 赤い<シュラ>の左腕から火炎放射のように紅蓮の炎が撒かれ周囲の建物を燃やしていく。


『ふふふふ、あはははははははははは! よく燃えるじゃないか!! 最高の気分だ!!』


 クリスティーナたちのコックピットに中性的な少年の声が響きわたる。そのあまりのはしゃぎように声の主の正気を疑ってしまう。


「火の手が回るのを見て喜ぶなんて正気じゃないですわ!」


『ええ、ヤツはいかれています。こんな危険人物を放っておいたら『第一ドグマ』の全てが燃やされてしまう! クリスティーナ様、パメラ、ヤツは私が叩きます!』


『了解! 残りの敵は私とクリスで何とかする! やるよ!!』


 女性三人で頷き合い、敵の集団に対して動き出す。最初に動いたのはクリスティーナだ。


「まずはわたくしが仕掛けます! 行きますわよ、<アクアヴェイル>! エーテル集中――ダリアフラッシュ!!」


 <アクアヴェイル>のエーテルアローから空に向かって高出力の水属性のエーテル矢が放たれる。

 その矢は敵集団の真上で弾けると、雨のように地上目がけて降り注いだ。

 複数の敵に同時に攻撃できるこの術式兵装は、初手で敵に大打撃を与えられるため<アクアヴェイル>の主力技である。

 広範囲にわたる攻撃であるため非常に回避し難い。その上、敵は密集しているため余計に回避行動をとることが困難な状況だ。

 

 確実に敵に当たる――三人の女性操者がそう思っていた矢先、敵の新型装機兵の背部にあるエーテルマントが身体を覆うように展開した。

 空から降り注ぐ無数の水の矢は盾と化したエーテルマントに直撃した。

 矢の雨が終わると<シュラ>の集団はエーテルマントを通常に戻し、何事もなかったかのように前進を再開する。


「そ、そんな……ダリアフラッシュが効かないなんて……」


 敵を一機も落とせないどころか、まともにダメージを与えられていない現実を前にクリスティーナはショックを受けていた。

 すると、彼女を嘲笑するかのように先程の少年の笑い声が再び聞こえてくる。


『はははははははは! ダメだよぉ~、そんな攻撃じゃ。この機体<シュラ>はねぇ、君たち竜機兵との戦闘を考慮して<ヴァジュラ>を改良した機体なんだよ。当然今までの君たちの戦法への対処も施されている。特にさっきの矢の雨は、これまでよく使われてきた攻撃方法だからね、対策はバッチリさ』


 バカにされた態度に悔しさからクリスティーナは唇を噛みしめる。同時に焦りも強かった。

 敵は本格的に対竜機兵の強力な機体を投入してきたのだ。

 ただでさえ少数の戦力で多数の敵を相手にしなければならないのに、量に加えて敵の質が上がるのは由々しき問題だ。


『さーて、せっかくこっちの機体の情報をあげたんだ。それを考慮して頑張って戦ってもらわないと、こんな所まで来た甲斐がない。死に物狂いで抵抗して、僕を楽しませてよ!!』


 そう言い捨てながら赤い<シュラ>が猛スピードで<アクアヴェイル>目がけて走り出した。

 それと同時に赤い機体を援護するように、他の灰色の<シュラ>たちが左腕から属性に応じたエレメンタルキャノンを放ってくる。

 パメラは後ろにいる二人を守るように<グランディーネ>のエーテルシールドで防御に徹した。


「くっ! やってくれるじゃないのよ! フレイア、その赤いヤツは任せた!」


『任せろ! 他の敵は頼む!』


「合点承知!!」


『パメラ、援護しますわ! 敵が今までのわたくしたちの戦い方を研究しているのなら、新しい力で対抗しましょう』


「了解、背中は任せたよ!」


 コックピットのモニター越しに掛け合いをして三人は互いの敵に向かって行った。

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