第62話 追い詰められる王都

 <アクアヴェイル>と<グランディーネ>が向かった先では、緑色を基調とした竜機兵<シルフィード>と<ウインディア>が敵を全滅させていた。

 二機とも大きな破損こそ見られなかったが、装甲のいたる所に細かいダメージが見られる。

 合流するとクリスティーナはすぐに二機の修復に入った。その間、三機は無防備になってしまうのでパメラ操る<グランディーネ>が周囲の監視と護衛を行っている。

 山吹色の竜機兵のコックピットモニターには、先程までひっきりなしに押し寄せていた敵機の姿は映らない。


「敵が一機もいない。もしかして、もう打ち止めになったのかな?」


 するとモニターの回線が開いて難しい顔をしたシオンの顔が映る。


『その可能性は低いだろう。帝国はあれだけの飛空艇を編成して王都を奇襲したんだ。この程度で終わるはずがない。まだまだ奥の手を隠し持っているとみて間違いない』


『そうでしょうね。この戦いは長期戦になることも考えておいた方がいいでしょう。だからこそ、機体のダメージにはいつも以上に気を配らないと』


 <シルフィード>と<ウインディア>の修復状況をチェックしながら、クリスティーナも会話に加わる。

 すると、状況を分析したフレイアが今後の戦術を提案した。


『そうなると、唯一装機兵の修復が可能な<アクアヴェイル>の存在が重要になりますね。クリスティーナ様は、後方からの援護に徹してください。今後予想される敵の増援は我々が対処します』


 モニターに映る三人の姿を見てパメラは頼もしく思っていた。

 今まで竜機兵チームは、クリスティーナ、パメラ、シオンの三人だけであり、チーム結成後はたった三人で多くの戦闘に身を投じてきた。

 孤立無援の状況が多かったので、仲間が一人増えただけでも心強いと思う。さらに、今この場にはいないが竜機兵チームにはもう一人仲間がいるのだ。


 その時モニターに四つ目の画面が開く。そこに表示されたのは『錬金工房ドグマ』の責任者である錬金技師長マドック・エメラルドだ。

 サングラスを掛けているマドックは目線からは表情が分かり難いが、感情表現豊かな好々爺こうこうやだ。

 そのマドックが慌ただしく最悪の情報を伝える。


『四人共、今王都騎士団から連絡が入った。王都の防衛に回っていた一個中隊が全滅したらしい。それをやってのけた装機兵部隊が『第一ドグマ』の工場区にむかったとのことじゃ』


 予想していたとはいえ、実際に敵の増援が向かっているということで四人の顔に緊張が走る。

 そこに更に衝撃の事実がマドックにより追加される。


『それとな、帝国の飛空艇から二機の<フレスベルグ>の出撃が報告されている。王都の防衛に回っている騎士団の飛空艇編隊が大打撃を受けているようじゃ』


 状況は最悪だった。『ドルゼーバ帝国』所属の飛行型装機兵<フレスベルグ>は、かつて『第四ドグマ』防衛戦にて<サイフィード>と死闘を繰り広げた機体だ。

 空中戦専用の<フレスベルグ>によって空中戦を余儀なくされ、<サイフィード>は絶体絶命にまで追い込まれた。

 その際には、使用可能になった飛竜形態を駆使して何とか逆転した経緯がある。

 つまり、この<フレスベルグ>と互角に戦うには空中戦が可能な機体をあてがうのが最低条件になる。

 だが、装機兵という人型のロボット兵器は基本的に空を飛ぶことは出来ない。

 一定時間空中戦をすることは可能だが、途中でエーテルスラスターの連続使用限界に達すれば一方的に蹂躙されるだけだ。


 現状、『アルヴィス王国』側が所有する戦力のうちで空を飛べるのは二機だけだ。

 そのうち一機は飛竜形態の<サイフィード>で、もう一機は風の竜機兵である<シルフィード>である。

 <サイフィード>は、今この場所に向かって戻っている途中なので、現状空中戦をまともに出来るのは<シルフィード>のみだ。

 操者であるシオンもその事実を瞬時に察したのか、修復中の機体を立ち上がらせた。


 <シルフィード>のコックピットでは、シオンが機体の状況をチェックしながら背部のメインエーテルスラスターを変形させ、二基の翼が形成される。

 この機構は竜機兵の試作機である<サイフィード>の飛竜への変形機能を流用したものだ。

 <サイフィード>の竜型の翼とは異なり、天使の翼を彷彿させる白く美しい形状をしている。

 出撃体勢を整える<シルフィード>を見てクリスティーナが驚き、通信を繋げた。


『シオン、<シルフィード>はまだ修復中ですわよ!』


「機体の状態は八十パーセント以上のパフォーマンスを維持している。これだけ回復していれば十分だ。それに、今すぐ行かなければ騎士団の飛空艇は一隻残らず落とされるぞ。それはクリスもよく分かっているだろ」


 シオンの言っていることはもっともだった。しかし、強力な敵が待ち受けていると分かっている戦場に仲間を一人だけ行かせるのには抵抗があったのだ。


「僕と<シルフィード>なら大丈夫だ。空中戦で負けるつもりはないさ。それにもうすぐあいつも帰ってくる」


 シオンの言う、あいつ――ハルトの姿を思い出し、クリスティーナは安心感を得る。彼と一緒であればどのような窮地でも覆すことが出来ると思えるのだ。


「それじゃ行って来る。お前たちも敵の増援部隊には気を付けろ。何しろ一個中隊を潰した連中だ。かなりの手練れとみて間違いない」


『分かりましたわ。お互い頑張りましょう!』


 クリスティーナの言葉に全員が頷く。<シルフィード>は背部の翼を羽ばたかせて、飛空艇が艦対戦をしている空域に飛んでいった。

 間もなく、その場に残った三機のコックピットに敵接近の警報音が鳴り響く。エーテルレーダーには十機以上のエーテル反応が確認できる。


「敵反応は三時方向からか。いっちょやりますか!」


 パメラが気合いを入れると右手方向の建物群が突然炎上した。その炎の中に巨大な人型のシルエットがいくつも現れる。

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