第61話 水と大地の竜機兵の奮戦

 ハルトたちが『リーン』を出発した頃、王都近郊にまで『ドルゼーバ帝国』の飛空艇編隊が迫っていた。

 迎撃に出た王都騎士団もまた飛空艇を発進させ、王都の外側では飛空艇同士による砲撃戦が行われている。

 そして、その下――地上にある『第一ドグマ』の工場区では装機兵による激しい戦いが行われていた。

 工場区にある建物の幾つかは破壊され、火の手が回り煙が立ち込めている。

 その付近では『アルヴィス王国』と『ドルゼーバ帝国』両国の装機兵が何体も大破し横たわっている。

 そんな機械仕掛けの騎士の死屍累々の中、戦いはまだ続いていた。


 重装甲の山吹色の竜機兵が左右の腕に装備されたエーテルシールドで防御しながら敵に突撃していく。


「前方に<ガズ>が二体か。行くよ、<グランディーネ>! シールドバッシュ!!」


 <グランディーネ>は脚部のエーテルスラスターを稼働させ、猛スピードで突撃する。

 そして進路上にいた<ガズ>をエーテルシールドによる体当たりでバラバラに弾き飛ばした。


「よし、あと一機! きゃっ!」

 

 もう一機の<ガズ>が剣で斬りかかって来るが、パメラは咄嗟にエーテルシールドで防御する。


「こっの! 危ないじゃないのよ! 倍にして返す!!」


 左腕のエーテルシールドで敵の剣を弾きながら、パメラは<グランディーネ>の右腕にエーテルを集中させると、前腕部の内側に装備されたナックルガードが起動し拳を守るように固定される

 

「これでダウンよ! インパクトナックル!!」


 <グランディーネ>の拳が<ガズ>の腹部にめり込み、そのまま敵を持ち上げた。

 そして、右前腕に集中したエーテルが衝撃波となって敵機に打ち込まれ、敵機はバラバラに四散した。


「ふぅ~、一丁上がり! それにしても倒しても倒してもわいて出てくる。これじゃきりがないわね」


 パメラが愚痴っていると、コックピットのモニターにクリスティーナの顔が映った。


『パメラ、そちらに敵が五機向かっていますわ』


「参ったわね。人気者はつらいわ~。野獣の如き連中が次から次へと私を求めてくるわ」


 パメラはやれやれと言った様子で操縦桿を握りしめる。現状では自分がやるしかないということを経験上、彼女はよく分かっていた。

 王都騎士団の装機兵部隊もまた、王都への敵侵入を食い止めるために王都周辺で戦っている。

 そのため『第一ドグマ』へ援軍を送る余裕はない。ここを守りきるには竜機兵部隊が一丸となって戦うしかないのだ。


『パメラは一度わたくしの所へ戻ってください。敵五機はわたくしが倒しますわ』


「了解! 野獣共は頼んだよ!」


 撤退していく<グランディーネ>の姿を見て好機と考えた<ガズ>五機は、背中を見せる山吹色の機体を追って来る。


 その様子を工場区の建物の上から見ていたクリスティーナは、細身の青い竜機兵<アクアヴェイル>の左腕に装備したエーテルアローに、エーテルを送り込む。

 同時に右腕にもエーテルを集中させると、水色のエネルギーの矢が出現しそれをエーテルアローにセットした。

 <アクアヴェイル>のコックピットモニターに拡大された五体の敵の姿が映し出される。

 クリスティーナはその敵たちに狙いを定めて、集中させたエーテルの矢を解き放った。


「捉えましたわ! ダリアフラッシュ!!」


 五体の<ガズ>に向けて放たれた高密度の水属性の矢は途中で弾けるように分裂し、無数の矢の奔流となって敵に襲い掛かった。

 回避が間に合わない<ガズ>の集団は、水の矢に撃ち抜かれて全機が機能停止し間もなく爆発した。


『お見事! さすが、姫騎士クリスティーナ様だね』


 <アクアヴェイル>のモニターにパメラの笑顔が映し出される。

 モニターの別の部位には付近まで戻って来た<グランディーネ>の姿が見え、クリスティーナはそこまで<アクアヴェイル>を跳ばせた。

 着地をするとすぐに<グランディーネ>の修復作業に入る。

 <アクアヴェイル>の術式兵装〝ヒール〟は、装機兵のダメージを修復することが出来る機能を持つ。

 長期戦になるほど、装機兵のダメージは蓄積されるのでこの能力は重宝されるのだ。


『大してダメージは受けていないし、修復するにはまだ早いんじゃない?』


「そうは言っていられませんわ。今は敵の攻撃が断続的になっていますが、これからどのように攻められるか予想がつきません。回復出来るときにしておいた方がいいでしょう」


『そっか。確かに、敵さんはまだまだやる気みたいだしね。そう言えばシオンは? 姿が見えないけど?』


「現在、フレイアと一緒に別の区画の敵部隊と交戦中ですわ。向こうも間もなく戦いが終わりますから、一旦合流して機体の修復作業に入ります。パメラはその間護衛をお願いします」


『了解! ――『リーン』に向かったハルトは無事かな? 敵がこれだけの戦力を持ってきているとなると、あっちにもかなり強力な装機兵が送り込まれたんじゃないかな?』


「それでしたらご心配なく。既にハルトさんは『リーン』の敵を殲滅して、ティリアリアと一緒にこちらに戻っている途中だそうですわ」


 クリスティーナから吉報を聞いてパメラは安堵していた。

 以前、『第二ドグマ』における<サイフィード>の八面六臂はちめんろっぴの活躍を見て、今ではとても頼りにしているのである。


『ハルトには余り負担を掛けちゃいけないとは思ってるんだけど、やっぱりいてもらった方が安心するからね』


「そうですわね。彼の強さは何というか、わたくしたちとは根本的にレベルが違う感じですから。とても頼りになります」


 微笑むクリスティーナの顔をモニター越しに見ているパメラがニヤニヤしていた。


『クリスってさ、何気にハルトのこと結構気に入ってるでしょ?』


「いきなり何を言っているんですか、パメラ!? 今は戦闘中ですよ!」


『いや、私としては良い傾向だなって思ってさ。ハルトと会うまで、クリスは思いつめてる顔をしていることが多かったから。何やかんやでクリスは真面目だからね』


 パメラに言われてクリスティーナは自分の悩みが仲間に伝わっていたことを少し恥じていた。


「仲間を不安にさせてしまうなんて、わたくしはまだまだですわね。そう言えば、パメラはいつもわたくしに声を掛けてくれましたわね。ありがとう」


『へへへっ、私らは仲間なんだから悩みがあったら遠慮せず言ってよ。でも、今度は恋愛面での悩みを聞くことになるのかな?』


「はいはい、そういう時が来たらたくさん聞いてもらいますわ。――<グランディーネ>の修復が終わりましたわ。シオンたちと合流しましょう」


『あいよ!』


 二人は別の場所で戦っているシオンとフレイアと合流すべく移動を開始した。

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