第60話 ハルトの告白

 ティリアリアは岬から『リーン』での戦いを見届けていた。

 最後は竜機兵専用武器であるエーテルカリバーンを装備した<サイフィード>が<エイブラム>を圧倒して終わった。

 その白い竜機兵は飛竜の姿となってスベリア湖の上空を飛び彼女のもとへ向かっている。

 その見慣れた白い竜が無事であることを確認しティリアリアは安堵していた。あの白い竜が戦うのはいつも強大な敵ばかりだ。

 

 <サイフィード>の初陣からその戦いを見てきた彼女は、その白い竜機兵と操者が常に重荷を背負わされている事を知っている。

 いつも激しい戦いに身を投じ、戦いに勝利し皆の希望になっていったことを知っている。

 そんな戦いから帰って来た彼が疲れ切って、泥のように眠る事を知っている。

 彼は今までも、そしてこれからも皆を守るために戦い続けるのだろうということを彼女は分かっていた。

 ハルト・シュガーバインという人物は、出会ってから今までずっとその姿勢を違えたことはなかったから。

 

 ティリアリアが今までのハルトとの事を思い出し、目を開けると岬の下から白い飛竜が姿を現した。

 翼が巻き起こす風で花畑から花びらが舞い上がり、ティリアリアを包み込む。その幻想的な風景の中、<サイフィード>は人型に戻り花畑の近くに下り立った。

 ティリアリアの前で片膝をつき胸部ハッチが開放され、中からハルトが姿を現す。

 その姿を見てティリアリアは自然と表情がほころんでしまうが、それに気が付くと慌てて元の凛とした姿勢を取り繕った。

 ハルトは<サイフィード>から降り、花畑の中にいるティリアリアのところへ歩いて来て、彼女の目の前で立ち止まった。


「ハルト、急いで来てくれてありがとう。あなたのおかげで最悪の事態にならずに済んだわ。……それじゃあ、『第一ドグマ』に急いで帰りましょう。ここを襲った本隊があっちに向かっているのでしょう?」


「うん、急いで戻ろう。でも、その前に少しだけ俺に時間をくれないか?」


 ハルトの真剣な様子に、ティリアリアはどうしたのだろうと小首をかしげる。


「ええ、構わないけど。どうかしたの?」


「――――ティア、俺は君が好きだ!」


「ふぇ!?」


 ハルトは間髪入れずにティリアリアに告白した。何の前振りもない直球ストレートに、ティリアリアは驚いて変な声が出てしまった。

 驚きの余りに数秒間思考が停止するティリアリアだが、思考が再起動しハルトの言動の内容を理解すると顔が赤らんでいく。


「ちょ、ハルト今は緊急事態なのよ! そういう事はもっと落ち着いている時とかに――」


「こういう時だから、ちゃんと伝えておきたかったんだ。戦いはどんどん激化している。今、『第一ドグマ』に向かっている敵戦力もかなりのものだ。次の戦いで生き残れるかどうかなんて分からない。だからこそ、俺の気持ちを君に伝えておきたかった。いきなりでごめん」


「ハルト……」


 ティリアリアの頬はますます赤くなり、目は潤んでいた。


「そのっ、返事は後でもらえると助かる。今は皆のところに早く帰らないといけないし」


「うん、分かった。ちゃんと考えて返事をするわ」


「ありがとう、ティア」


 ひとしきり笑い合った後、ハルトとティリアリアは<サイフィード>に搭乗し『リーン』を後にした。



「それじゃ、スキルで速度を上げて『第一ドグマ』に向かうから、ティアはしっかり掴まっててくれ」


「もしかして、『リーン』に来る時もスキルを使用してきたの?」


「そうだよ。『韋駄天』を連続で使ってきたんだけど、それがどうかした?」


 とんでもない事を平然と話すハルトにティリアリアは頭を抱えた。


「ハルト、スキルを連続で使用しすぎると身体への反動が大きいのは知っているでしょう? 体内のマナが急激に減ったりすると、下手をすれば命にかかわる問題になるのよ!」


「そんなこと知ってるよ。装機兵操者にとって基礎中の基礎の知識だからね。……それでもやらなければ間に合わないと思ってさ」


 ティリアリアはそれ以上何も言うことは出来なかった。

 ハルトの言うようにスキルを連続で使うという選択をしなければ、<サイフィード>は間に合わず『リーン』は全滅していた可能性が高かったからである。

 そして、今度も仲間のために彼は無茶をするだろうという事もよく分かっていた。


「分かったわ、ハルト。それなら私も、今自分にできることをするわ」


 ティリアリアは操縦桿を握るハルトの手の上に自分の手を添えた。すると彼女の手から淡い光が発生し、それがハルトの手に伝わっていった。


「これは……すごく暖かい。それに気分が楽になっていくような感じがする」


「今、私のマナをあなたに送っているの。これで消費したマナを回復できるわ。だから、遠慮なくスキルを使って大丈夫よ」


「けど、これってティアは大丈夫なのか? マナが少なくなったら君が体調を崩すんじゃ?」


「それなら大丈夫。私は体内のマナが常人よりもかなり多いから、少しハルトに分けても問題ないの。こういう体質もあって聖女になったんだけどね。まっ、とりあえず今は急いで皆のところに帰りましょう!」


「分かった! それじゃ、ティアのマナを使わせてもらうよ。連続で『韋駄天』を使って、速攻で行く!」


「ええ、行きましょう!」

  

 ティリアリアのマナがハルトに伝わり、その生命力を動員して魔法とも言えるスキルが発動される。

 その力を持って飛竜形態の<サイフィード>は、『第一ドグマ』を目指して一気に加速し大空を翔けて行くのであった。

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