第59話 エーテルカリバーン

「すごい! たった一撃で<エイブラム>の重装甲を斬り裂くなんて……こいつは……強力過ぎる!」


 そこから立て続けに重装甲に斬りつけ、敵のHPが面白いように減っていく。さっきまで苦戦していたのが嘘のようだ。

 エーテルハルバードによる一撃も軽くいなし、カウンターの斬撃で<エイブラム>の胴体を斬り、追撃で左腕の関節を斬り敵の左前腕が離れた場所まで吹き飛んだ。

 <サイフィード>より十メートルも巨大な敵が恐れおののいたように後ずさりする。

 今までまともなダメージを与えられなかった<エイブラム>に、確実なダメージを与えた事実に俺は驚き、喜び、そして恐怖を感じた。


「これはヤバいな……気を抜くと力に溺れそうになる。使いどころを間違えれば自分を見失いそうだ」


 この武器の威力は控えめに言ってもチート級だ。チートは楽だ。ゲームの裏技などでチートな何かが手に入ると難易度が一気に変わったりする。

 今まで苦戦していた敵キャラが雑魚キャラになってしまうなんて言うのはざらだ。

 その圧倒的な強さに酔いしれ、何も考えないままそのチート能力を使い続けゲームをクリアした事もある。

 単純にゲームを楽しんだりするのであれば、そう言うのは別に構わないだろう。だが、これはリアルな命のやり取りだ。

 その中で、このチート級の力を何も考えずに使い続ければ、下手をすれば破壊する事を楽しむだけの機械のようになってしまうかもしれない。

 この武器を使う時は、しっかり自分の心の手綱を握っていなければならない。これにはそれだけの力が宿っている。

 

 その時、コックピットのモニターに映る<エイブラム>が後方に跳んで距離を取った。一見押され続けたことで体勢を整えたように見える。

 だがそれは起死回生の一撃を狙っての行動だった。ヤツの背部で閃光が走る。


「まずいっ! またパワークラッシュを使うつもりか!?」


 俺の後方には小破した<アルガス>部隊と避難区域がある。この位置でヤツにフルブーストの体当たりをされれば、俺の後ろにあるもの全てが吹き飛ぶ。


「やらせるかよっ!! 間に合えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 俺は<サイフィード>を<エイブラム>に向かって走らせた。全エーテルスラスターを最大にして正面から突撃する。

 脚部後部のスラスターから大出力の青い色のエーテルが噴射される。

 エーテルマントも最大出力によりエーテル光の青い輝きを見せ、<サイフィード>は一瞬で敵に肉薄した。


「おおおおおおおおおおおおおおりゃあああああああああああああああああ!!!」


 <エイブラム>が動き出すよりも早く、<サイフィード>は敵の胴体部にエーテルカリバーンの黄金に輝く刃を突き立て、そのまま市街地から押し出していく。


「ここじゃ爆発させられない! もっと、街の中心部から遠ざけないと! いっけえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 人間で言えば大人と子供ほどの体格差があるにも関わらず、<サイフィード>のフルパワーで<エイブラム>を市街地から突き出し、そのままスベリア湖の真上まで飛翔した。

 

「よし、ここなら大丈夫なはずだ! 悪かったな、こんな所まで付き合わせて! これで終わりだぁぁぁぁぁぁ!!」


 俺は<エイブラム>の胴体部に突き刺したままのエーテルカリバーンを斬り上げた。分厚い装甲が嘘のように簡単に分断できた。

 装機兵のコックピットは通常は機体の胸腹部にあるので、今の攻撃で敵の操者は確実に絶命したはずだ。

 そして、主を失いボロボロになった重装甲の巨大な敵は湖に沈んだと同時に大爆発を起こした。

 その衝撃は<ガズ>のものとは段違いの破壊力だ。


 爆発で巻き上げられた湖水が雨のように街に降り注ぐ。マジで街中で爆発させなくてよかった。

 一歩間違えば『リーン』は人が住めないような土地に変わり果てていたかもしれない。

 周囲にはもう敵の反応はなく、今度こそ敵は全滅したようだ。

 俺は「ふう~!」と大きく息を吐いてから静かに息を吸い込み<サイフィード>を市街地に戻した。


 戦闘で傷つきながらも全機無事であった<アルガス>部隊が俺を迎えてくれた。


『お見事な戦いでした。白い竜機兵の雄姿、噂以上でした!』


 部隊の隊長と思われる人物が少し興奮した様子でモニターに映る。見るからに、如何にも叩き上げと言う感じの真面目そうな男性だ。


「そんな、恐縮です。俺の方こそあなた方のおかげで命拾いしました。俺はすぐに『第一ドグマ』に戻らなければなりません。先程の部隊の本体が向かっているようなんです。後の事はお願いします」


『了解しました。ご武運を』


「ありがとうございます。では、俺はティリアリアを連れて戻ります」


 <サイフィード>を飛竜形態にして、俺はティリアリアが待つ岬へと向かった。

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