第58話 ドラゴニックウェポン
俺がそう確信した時、<エイブラム>の頭部が上を向き、そこにいる<サイフィード>を睨み付ける。
「くっ! まずい!!」
直後、<エイブラム>の左腕の打撃で<サイフィード>は地面に叩き付けられた。
コックピットを襲う衝撃に耐えながら急いで機体を立ち上がらせると、正面にエーテルハルバードを振り上げる敵の姿が映る。
逃げる間もなく振り下ろされた巨大な武器を、エーテルブレードとワイヤーブレードをハサミのように交差させて受け止めた。
そのあまりのパワーに、今度は<サイフィード>の足が地面にめり込む。これを好機と見てか目の前の重装機兵はエーテルハルバードにさらに力を入れた。
「ぐ……なんつーパワーだ! 少し……でも力を緩めれば……一気に持っていかれる!」
コックピットには<サイフィード>の各駆動部への過負荷を知らせる警報音が鳴り響く。
俺も一刻も早くこの状況から抜け出したいがパワーで押さえつけられ抜け出せない。
その時<エイブラム>の周囲に<アルガス>部隊が展開し、一斉にエーテルブレードで敵を斬りつけた。
『その武器をどけろ!』
<アルガス>部隊の操者が俺を助け出そうと何度も敵に攻撃する。
しかし、重装甲の怪物には大したダメージにはならず<エイブラム>の操者も彼らを無視している。
「あくまで狙いは<サイフィード>ってことか! くそっ!」
その後も<アルガス>部隊は攻撃を続ける。するとついにしびれを切らせた<エイブラム>が行動を起こした。
背部のエーテルスラスターを瞬間的に最大にして周囲に衝撃波を発生させたのだ。それにより<アルガス>部隊は吹き飛ばされ、建物や地面に次々と叩き付けられた。
だが、この一瞬<エイブラム>のパワーが低下した。
「今だ! うおおおおおおおおおああああああああ!!」
<サイフィード>の全エーテルスラスターを最大にして前方に突き進む。
エーテルハルバードの刃をハサミのようにして受け止めていた二刀の刀身を滑らせながら前進し、思い切り蹴りを入れる。
<エイブラム>がバランスを崩した隙を突いて、エーテルハルバードの圧死攻撃から何とか脱出した。
「はあ、はあ、はあ……何とか抜け出せたか。<アルガス>部隊は!?」
『我々は無事です。<サイフィード>は大丈夫ですか?』
「はい、こっちは問題ありません。助かりました」
『いえ、こちらの攻撃はあまり敵には効いていないようです。申し訳ない』
確かに<エイブラム>は装甲表面がダメージを受けた程度でありHPも大して減ってはいない。
本来なら複数の竜機兵による術式兵装の連続攻撃で倒すような敵なので通常の武器ではあまり効果的なダメージは与えられないようだ。
ここにいる竜機兵は<サイフィード>一機。ヤツを倒すには火力不足なのは否めない。
だが、それは過去の話だ。
今の<サイフィード>には、『第一ドグマ』で追加された竜機兵専用の武器〝ドラゴニックウェポン〟がある。
まだ、試験運用もしていないのでぶっつけ本番になってしまうが、そんな事は今に始まったことじゃない。やってみる!
「隊長さん。十秒ほど時間稼ぎをお願いできますか?」
『構いませんが、何か策でもあるのですか?』
「はい、とっておきのやつがあります!」
『分かりました。ならば、その十秒命を賭してお守りいたします!』
<エイブラム>に<アルガス>部隊が向かって行く。急がなければ全滅してしまう。
「やるぞ、<サイフィード>! ストレージアクセス!」
エーテルブレードとワイヤーブレードを武器庫であるストレージに戻し、その奥にある存在を呼び起こす。
<サイフィード>の両肩にあるエメラルドグリーンのアークエナジスタルが同時に淡い光を放つ。
<サイフィード>の両手を交差させる形でアークエナジスタルから出現したエーテルで構成された光玉を把持する。
膨大な術式を内包した光玉を両手に収め、それらを合わせようとするとお互い反発し合う。
それを<サイフィード>の両手で無理やり押し込み融合させた。すると二つの光玉内の術式が組み合わさり武器の構築を開始した。
「
一つになった光玉は、<サイフィード>の両手の中で一振りの剣となった。
通常の武器とは段違いの術式が内包された剣は、それ自体が術式兵装に近い存在だ。
それ故、通常の武器とは一線を画する破壊力を誇る……らしい。
マドック爺さんはそう説明してくれたのだが、なにせこれから初めて使うからどれ程の威力があるのか未知数だ。
ちなみにこの竜機兵専用武器は膨大な術式で構成されているため、ストレージには普通に格納することが出来ないらしい。
そのためストレージには二つの術式の塊の状態で収められているので、そこから出現させる際にはこのようなプロセスを踏まないといけない。
これこそマドック爺さんたちが開発してくれた竜機兵専用の武器〝ドラゴニックウェポン〟だ。
<サイフィード>の専用武器〝エーテルカリバーン〟は、
エーテルブレードと同程度のサイズであり、同じ感覚で扱えそうだ。剣にエーテルを流し込むと刀身が黄金に輝きだす。
「すごい! この光はまるでコールブランドと同じだ。それに剣から感じるこのパワーなら……いける!!」
戦闘準備が整い、俺は<サイフィード>を重装甲の怪物に向かって走らせた。
「<アルガス>部隊、ありがとうございました! あとは俺に任せてください!!」
『了解! 全機散開!』
<アルガス>部隊が敵から遠ざかる中、彼らと入れ替わる形で<エイブラム>に接近する。
敵はエーテルハルバードを振り下ろしてくるが、それをサイドステップで躱しエーテルカリバーンで袈裟掛けにぶった斬る。
響き渡る金属音、<サイフィード>を通して俺の手に伝わってくる今までとは違う確かな手応え。
それは敵の装甲表面を傷つけたのとは異なる〝斬り裂いた〟という感覚だった。
<エイブラム>の装甲を見るとエーテルカリバーンで斬りつけた箇所が破壊されていた。
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