第57話 リーン市街地戦②

 <サイフィード>の後ろに回り込もうとしていた他の<ヴァジュラ>は、後方支援をしている<アルガス>部隊の攻撃を受けてバランスを崩す。

 そこにワイヤーブレードの切っ先を向けて刀身を射出し、敵の肩関節を斬り飛ばした。

 左腕が肩から無くなった<ヴァジュラ>はよろめき、そこにエーテルブレードの横一文字で止めを刺した。


「二機目撃破! 残りは!?」


 残りの<ヴァジュラ>は三機。


 二刀流で三機目を十字に切り裂き、四機目は空中戦を繰り広げ幾度もの鍔迫り合いの末に上空からの斬撃で切り伏せ破壊した。

 

「残り……一機!!」


 最後の<ヴァジュラ>に目を向けると、そいつの剣に緑色のエーテルが集中しているのが見える。


「あれは、風属性のエレメントソードか!?」


 その直後、敵は近距離用の術式兵装で<サイフィード>に襲い掛かった。強力な風の斬撃を<サイフィード>の二本の剣で受け止める。

 刀身は受け止めたが、そこから放たれる風の刃は<サイフィード>の白い装甲を傷つけていく。

 脚部のエーテルスラスターを最大にして後方に一旦緊急離脱する。


「くっ! そんな攻撃でやられるかよ! 術式解凍、コールブランド!!」


 エーテルブレードに超高密度のエーテルが集中し刀身が光り輝く。その光の刃で<ヴァジュラ>を切り裂き破壊した。

 

「周辺にいた敵はこれで全滅したか。それならあとは――」


 俺がそう言いかけた時、湖の方から強力なエーテル反応が察知される。この反応は以前『第二ドグマ』の戦いで記録されたものと同じだ。

 通常の装機兵とは段違いのパワーが感じられる。そいつは湖から勢いよく空中に飛び出し、ホバリングしながら俺の前方に着地した。


 <サイフィード>を見下ろす二十五メートル級の大型である重装機兵<エイブラム>がその姿を現した。

 ファンタジー物で言うところのミノタウロスをロボットにしてみました、的な外見をしている巨体は相変わらず存在感が半端じゃない。



【エイブラム】

HP90000 EP320 火力2500 装甲3300 運動性能110

属性:大地

武器:タックル、エーテルハルバード

術式兵装:エレメンタルキャノン(大地)、エレメンタルバスター(大地)、パワークラッシュ


「くそっ、こんなヤツまで積み込んであったのか。たかが避暑地に攻め込むのに戦力を出しすぎだろ!? それに以前戦ったヤツより地味にHP高くなってるし!!」


 『第二ドグマ』で戦った<エイブラム>はHPは八万だったので、今回の個体はHPが一万増加している。

 この刻んだ感じで倒しにくくなるのが何ともいやらしい。強くするのなら思い切ってHP倍にするとかしてみなさいよ。

 ――ごめんなさい。嘘です。そんな事されたらマジでどうしようもなくなります。いきなりのインフレは勘弁してください。


 俺が一人でインフレ談議をしていると<エイブラム>がエーテルハルバードを構えて<サイフィード>に向けて走って来る。

 重装甲故に動きが鈍重だ。ドッカンドッカン無駄に騒々しい音を立てて、のろくさ近づいてくる。


 動きは遅いがこんなデカブツが市街地に入ってくると、益々建物が崩壊してしまう。ヤツを街の外に誘い出そうと<サイフィード>を移動させ始めた直後だった。

 <エイブラム>の背部で強烈な閃光がほとばしる。それは、エーテルスラスターから大出力のエーテルが放出された際の光だ。

 すると、さっきまで亀のような速度で動いていた<エイブラム>はロケットブースターをぶっ放したかのように、猛スピードで突撃してきた。


「なっ!? ちいいいいいい!!」


 驚きの直後に機体に襲い掛かる猛烈な衝撃波に、俺は思わず舌打ちをしてしまう。

<エイブラム>の突撃攻撃がかすめた<サイフィード>は、そのパワーにふっ飛ばされて、崩壊寸前の建物に叩き付けられた。


「くそっ、今のは何だったんだ?」


 瓦礫がれきを押しのけて立ち上がると、<エイブラム>が猛スピードで通過した地面が抉れていた。


「なんだ……これ? 地面が抉れている? さっきの突撃でこうなったのか?」


 この状況を引き起こした重装機兵の背部を見ると背中、肩後部、脚後部に大型のエーテルスラスターが設置されている。

 通常、装機兵背部のメインエーテルスラスターはエーテルマントの形状を取り、浮力を持つエーテルの力場を形成して機体の運動性を高める。

 だが、こいつはエーテルマントを装備していない。そのため、通常の機動性は非常に低い。

 その代わりに、さっきのように背部に設置してある全てのエーテルスラスターを一気に稼働させることで、短時間だが爆発的に直進速度が向上するのだろう。

 

「そう言えば、ゲームだとパワークラッシュって言う突撃型の術式兵装を使ってたな。一撃で竜機兵を破壊していたとんでもない技だったけど、さっきの攻撃がそれか。まともにくらえば、いくら<サイフィード>でもワンパンされかねない!」


 先程の攻撃を思い出し、頬を冷や汗が伝っていく。そんな中、<エイブラム>がゆっくりと向きを変え<サイフィード>を正面に捉える。

 こいつと向き合うと、再びさっきの攻撃がくる可能性が高い。とにかく動き回って敵を翻弄する戦法でいく。

 咄嗟に<エイブラム>の正面から<サイフィード>を外すように移動する。


「<エイブラム>は直進の突貫攻撃時は、とんでもないスピードだけどそれ以外は動きが鈍い。運動性の高い<サイフィード>なら翻弄できるはずだ!」


 敵の側面に高速移動し二刀流で斬りつける。手応えはあるしダメージを与えてはいるのだが、その高HPと分厚い装甲故にあまりダメージが稼げない。

 おまけにダメージを与えても、敵にはたじろぐ様子もない。こっちの攻撃中にもお構いなしに反撃をしてくる。

 並みの装機兵一機分の長さはあるエーテルハルバードを振り回す度に、周囲の建物や地面が破壊されていく。

 他人ひとんちの国だからってぶっ壊すのに遠慮が無さすぎだ。このままじゃ『リーン』は完全に廃墟と化してしまう。


「くそっ、このデカブツがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 横薙ぎのエーテルハルバードをジャンプで躱すと同時に、上空からの落下速度とエーテルスラスターの加速を加えた二刀の斬撃を<エイブラム>の両肩に叩き付ける。

 その衝撃でヤツの足は地面にめり込み一瞬動きが止まった。

 だが、<サイフィード>のコックピットモニターに映るヤツのHPは大して減ってはいない。

 こいつはまだ……健在だ!

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