第56話 リーン市街地戦①

 爆風が止んだ後、俺は<サイフィード>を振り向かせ、近くにいた残り一機の<ガズ>を正面に捉える。

 そいつは槍先を突き出したまま、エーテルスラスターを全開にして突っ込んで来た。

 その攻撃をエーテルブレードで切り払い、<ガズ>の腹部を蹴り飛ばし後退させる。岬からさらに離れた今がチャンスだ。


「沈めえぇぇぇぇ!」


 突撃を敢行し<ガズ>のコックピットをエーテルブレードで突き刺し、敵は完全に沈黙した。

 剣を引き抜いて、後方に跳び上がると<ガズ>は前のめりに湖に倒れ込んで爆散した。

 二機目を撃破した後、俺は<サイフィード>を岬に向かわせて奥から姿を見せたティリアリアを確認した。


「そんな所で何をやってるんだよ、ティア! 危ないだろ! 早く避難するんだ!」


『そうはいかないわ! 今私はここの騎士団の指揮を執っているの。指揮官が逃げるわけにはいかないでしょう?』


「なっ! またそんな厄介事を引き受けたのか!? 仕方がないなぁ……それじゃ俺はどう動けばいい? ティア、指示を頼むよ!」


 モニター越しに映るティリアリアは頷くと、市街地の方を指さしながらエーテル通信用の端末で俺に指示する。


『敵の主力は市街地に集中しているわ。今、『リーン』の装機兵部隊が迎撃しているけど戦力が違いすぎる。ハルトは彼らと合流して敵部隊の殲滅をお願い!』


「了解した! とっとと終わらせて迎えに来るから、ティアはここで待っててくれ。一緒に皆の所に帰ろう」


 俺がそう言うと、ティリアリアは少し頬を赤らめて目が潤んでいる様に見えた。


『――はい。ここで待っています。あなたが迎えに来てくれるのを』


 後ろに跳び退いてティリアリアから距離を取り、<サイフィード>を飛竜形態に変形させる。

 <サイフィード>は湖の上を再び飛翔し最短ルートで市街地へと向かった。モニターには五機の<アルガス>が倍以上の数の敵装機兵に追いやられている姿が映る。

 味方は多少ダメージを受けてはいるようだが、大破した機体はいない。この状況で、味方の操者たちが健在なのは恐らくティリアリアの采配によるものだろう。

 彼女のことだから、俺が来ると分かった瞬間に味方に無茶をさせないように作戦を考えたに違いない。


「それじゃあ、あいつの考えた作戦通りにここから反撃と行きますか!!」


 市街地到着と同時に<サイフィード>を人型に変形させ、滑空しながらワイヤーブレードを装備する。

 複数の敵を同時に相手取るには、やはりこの武器で戦うのがやりやすい。


「<アルガス>部隊は後方に下がれ! 敵部隊は<サイフィード>が相手をする!」


 俺が味方装機兵部隊に指示を送ると、即座に全機が後退した。咄嗟の出来事にもすぐに対応できるあたり、かなり練度が高いチームなのだろう。

 惜しむらくは<アルガス>の性能が低いことだ。あの<ガズ>と同じかそれより性能が低いのでは、正直話にならない。

 

「この距離なら一気に潰せる! くらえぇぇぇぇぇ!」


 俺は地面に着地後、減速しつつワイヤーブレードの刀身を伸ばし鞭のようにしならせながら複数の<ガズ>を斬りつけた。

 ある機体は腕が斬り飛ばされ、その他には胴体に直撃し上半身と下半身がおさらばして爆発するものもいた。

 突然の乱入者に<ガズ>部隊の動きが鈍る。奇襲は敵が混乱しているこの数秒が大事だ。この数秒の間に一気に敵の数を減らす。

 <ガズ>は装甲もHPも低いため、攻撃力が高くはないワイヤーブレードだけでも十分な殺傷能力がある。

 瞬く間に市街地に侵入していた機体はスクラップになった。


「あとは後方に待機している残存部隊だけだ! <アルガス>部隊はエレメンタルキャノンで牽制をお願いします!」


『了解しました!』


 俺は<サイフィード>を市街地の外にいる敵集団に向けて走らせる。それと同時に<アルガス>部隊がエレメンタルキャノンを放ち敵の侵攻を妨げる。

 前方には各種武器を装備した<ヴァジュラ>数機とその護衛である<ガズ>が数機。

 普通に考えれば驚異的な戦力だが、フル強化が済んでチート級の性能になった<サイフィード>と俺なら問題ない。

 ワイヤーブレードと同時にエーテルブレードを装備して二刀流で敵部隊に攻撃を仕掛ける。


「これ以上街は破壊させない! ここで殲滅するぞ<サイフィード>!」


 <ガズ>の集団が横一列に並んで<サイフィード>に向けてエレメントキャノンを一斉に放ってくる。

 俺はそれらを鞭状にしたワイヤーブレードで斬り落とした。その後も続けて放たれるエレメンタルキャノンも同様に叩き落とす。

 俺が近づいてきたことで接近戦に移ろうとする<ガズ>の部隊をワイヤブレードの横薙ぎで破壊した。


「性懲りもなく、そんな横一列になるからそう言う目に遭うんだよ! ちったあ、学習しろ!」


 今度は<ヴァジュラ>の部隊が動き出した。こっちの蛇腹状になる剣を警戒して散開して向かって来る。

 俺はバトルスキル『超反応』で命中精度と回避能力を底上げする。さらに『蹂躙じゅうりん』で一定時間攻撃力を上昇させる。

 攻撃は最大の防御、加えて回避能力も上げているから守りは鉄壁だ。


 一機目が正面から俺に突っ込んで来る。それに対しこっちも真っ正面から迎撃する。<ヴァジュラ>の剣と<サイフィード>のエーテルブレードがぶつかり合う。

 刀身を形成する高密度のエーテルが干渉し合い、激しい火花を散らす。

 <サイフィード>はオーバーホール時に各駆動系が最新のものに変更されているため、以前<ヴァジュラ>とパワー勝負をした時よりも余裕がある。


「これならいける! 叩き伏せる!」


 敵の剣を切り払い、ワイヤーブレードで<ヴァジュラ>の胴体に斬撃を加える。ダメージでよろめいたところへ追撃の一太刀を浴びせて敵機は機能を停止し間もなく爆発した。

 

「まずは一機目! 次っ!!」

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