第50話 深紅の竜機兵

 俺が呆れていると、ここで思わぬ伏兵が現れる。


「ハルト君、それは分からないわよ。世の中何が起こるか分からない。特に貴族社会では常識では考えられないようなアブノーマルなプ……出来事が起こるものなのよ!」


 シェリンドンさんが頬を赤くして少し興奮している。おい、ちょっと待ってくれ。そういうことなのか? この人もそっち方面が大好物な人なのか!?


「……シェリンドンさん。今、〝プレイ〟って言おうとしませんでした? もしかして、フレイアと同じようにそういう内容に興味津々なんですか!?」


「ちっ! 違います! 私はあくまで可能性として話しただけです! 決してそういう漫画や小説を読んでいて色々妄想していたとか、そんなんじゃありません!」


「黒じゃん! ティアじゃなく、こっちが真っ黒じゃん!」


「ハルト君、どうして今日の私の下着の色を知っているの!? もしかしてあの時覗いたの?」


「あの時って何時いつですか!? 俺には思い当たる節がないですよ! それに大きな声で物騒なこと言わないでください!」


 なんてこった。一児の母親として正常だと思っていたシェリンドンさんだが、フレイアと同類とは。

 それに黒かー。こんなおっとりした美人が今日身に付けているのが黒かー。その意外性に何だかドキドキする。

 いやいや、いかんいかん! いくら同年代に見えるといっても相手はシオンの母親、リアルママだぞ! 仲間の母親をこれ以上、そういう目で見るのはまずいって! 


「ハルト君。ちなみに下は紐パンよ」


「なん……だと!?」


「分かります。私も紐派です。紐だと自分で調整して肌への刺激が少なくできて良いし、種類もカワイイ系からセクシー系まで豊富にあっていいんですよね。ちなみにティリアリア様も紐派です。結構攻めたデザインを持っているんですよ」


 今度は二人でランジェリー談議が始まってしまった。俺は興味の無いふりをして<サイフィード>の方に目を向けるが、心の目と耳は全力で彼女たちの会話を傍受している。


「でも紐って大変な時もあるわよね。いつの間にか紐が緩んで慌てるし、集中している時なんて気がついたら紐がほどけて下が無くなっていたなんてこともよくあるし」


「分かります。紐あるあるですね」


 俺はとんでもないことを聞いてしまった。驚きのあまりについつい会話に乱入してしまう。


「マジか! そんな……紐だと下が行方不明になるなんて日常茶飯事なの!? そんなことが俺の周囲で頻発してるの!? 紐パンが落ちてるなんて、俺見た事ないよ!」


 言ってから気が付いた。二人が俺を見てニンマリと笑っている状況に。


「「今のはウソよ」」


「なっ!? くそぉぉぉぉぉ、騙された!」


「ハルト君ったらエッチね。興味がないふりしてしっかり私たちの会話を聞いているなんて」


「ちなみに紐が緩むことはあまりないぞ。それにずれ落ちそうならさすがに気が付く」


 シェリンドンさんはくすくす笑い、フレイアは何故か勝ち誇ったような笑みを見せている。

 完全に二人に弄ばれたようだ。でも何だろう? 何だかとても楽しかったから全然嫌な気はしない。


「良かった。二人とも元気が出てきたみたいね」


 母性溢れる笑顔を俺たちに向けるシェリンドンさん。彼女に心配をかけていたのだと思い、俺もフレイアも申し訳ない気持ちになる。


「そうだわ! いい機会だし、とっておきの場所に連れて行ってあげる」


「とっておきの場所? それはいったいどういう?」


「それはまだ秘密。言ってしまったらつまらないでしょ? ただ、そうねぇ~。特にハルト君は喜ぶと思うわよ」


 俺が質問するとシェリンドンさんは悪戯っぽい笑みを見せて、工場区の奥に進んで行く。

 途中で『この先関係者以外の立ち入り禁止』と書かれた看板があった。

 いったいこの先にどんな面白いものがあるというのだろう? 俺の隣を歩くフレイアは周囲を警戒しているようで真剣な表情をしている。

 そして、数分間歩き進めた先で行き止まりになった。


「シェリンドンさん、この先行き止まりのようですけど――」


 フレイアが言いかけた時、シェリンドンさんは壁の一部に手を当てた。すると彼女が触れた箇所が光り、壁の一部が開いて人が通れる大きさの通路が出現した。


「この通路は登録された人間に反応して現れるの。目的地はこの先よ。さあ行きましょう」


 これだけ厳重なセキュリティが施された先に何があるというのだろうか? 否が応でも期待が膨らんでいく。

 そして通路の終着点が見え、やたらと明るい場所が広がっていた。そこは広い空間になっていて、数人の錬金技師がせっせと動き回っている。

 そして、俺とフレイアはそこに佇む巨人に目を奪われていた。全身が深紅で統一され、腕や膝には攻撃性を感じさせる刃のようなパーツがある。

 頭部には一本のブレードアンテナが象徴として装備されており、全身が深紅である一方で青いデュアルアイが際立っている。

 『竜機大戦』の主人公機にして竜機兵最後の機体がそこにいた。


「竜機兵<ヴァンフレア>……ここにいたのか!」

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