第六章 決戦第一ドグマ
第49話 ハルトとフレイアの心配
ノルド国王との面会から一週間が経過していた。
現在、俺ハルト・シュガーバインは『第一ドグマ』地下工場区にてオーバーホールが完了した愛機<サイフィード>の最終調整を行っていた。
「ドラゴニックエーテル永久機関、正常作動を確認。エーテルマント展開完了」
一通りの起動時チェックを行い、不具合が無いか確認を行うがそんな兆候は見られない。それどころか機体の各関節部の動きが以前よりも滑らかになっている気がする。
『どう、ハルト君? オーバーホール前と比べてどこか違和感はあるかしら?』
コックピットモニターに映るシェリンドンさんが少し不安そうな顔を見せている。俺は今しがた感じた関節の動きについて尋ねてみた。
「シェリンドンさん、<サイフィード>の各関節が以前よりも良くなっている気がするんですけど、何か変わりました?」
するとシェリンドンさんの目が「よくぞ訊いてくれました」と言わんばかりにらんらんと輝いている。
「さすが<サイフィード>の操者さんね、気付いてもらえて嬉しいわ。実は、今まで<サイフィード>の関節部に使われていた機構は少し古いものだったの。そこで、最新の竜機兵に採用されている最新の関節部に変更したの。これで以前よりも操者のイメージに、より近い感覚で動かせるし関節部の強度も上がっているわ。黙っててごめんなさいね」
「最新の関節ですか!? そいつはすごいや!」
<サイフィード>のステータスに変化はなかったが、確実に以前よりも動かしやすくなっている。
これなら、敵との戦いにおいてもっと緻密な戦い方が出来るし、<エイブラム>のような強敵相手にもいいパワー勝負ができそうだ。
起動実験後、俺は格納庫のコンテナに座ってぼんやりと<サイフィード>を見上げていた。
現在『第一ドグマ』にティリアリアはいない。『アルヴィス王国』の北側にあるスベリア湖に面した町『リーン』にお見合いのため行っている。
『リーン』は貴族御用達の避暑地で有名であり、俺のような平民には敷居が高い土地だ。
ノルド国王との面会以降、結局俺は今回のお見合いについてティリアリアと話をすることが出来なかった。
というか、この一週間まともに会話すら出来なかった。何回か顔を合わせるものの、かける言葉が見つからずそのまますれ違う一週間だった。
「はぁ~あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
この一週間を思い出し、自分の情けなさにため息が出てしまう。
「今のすごいため息だったわねぇ。大丈夫? ハルト君」
俺の情けない声に驚いたシェリンドンさんが心配して来てくれた。彼女はここで竜機兵の整備チームを率いており、この一週間オーバーホール中の<サイフィード>につきっきりだった。
そのため<サイフィード>の操者である俺とも機体整備の件などで頻繁に話をしていたため、自然と打ち解けていた。
さらに、マドック爺さんを伴い俺が転生者であることやこの世界のことを彼女に話した。
爺さん曰くシェリンドンさんは、非常に観察眼が鋭いので黙っていてもすぐに何かしらに気付くだろうということだった。
それならば、先に彼女に全てを話した方が良いという結論に至ったのである。
その時のシェリンドンさんの反応は師匠であるマドック爺さんの時と同じで、俺の説明中は一切口を挟まず全て話し終えてから疑問に思ったところを質問するというものだった。
最終的に彼女は俺の話を信じてくれたようだ。彼女によれば「理解できない事象を頭ごなしに否定することはナンセンスであり、疑問を紐解いていき真実を究明することこそ錬金技師の本質」らしい。
「俺は大丈夫です。それよりもあっちの方が深刻ですよ」
俺とシェリンドンさんが視線を向けた先には、一人でため息をつきながら元気のないフレイアがいた。
「はぁ~あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
どこかで聞いたようなため息をもらしながらフレイアは格納庫の天井を見つめている。このまま放っておくのは少々まずいかもしれない。
シェリンドンさんも同じことを思ったのかフレイアの方に近づいて行った。
「フレイアさん、大丈夫? あなたも元気がないようだけれど」
声を掛けられてフレイアがびくっと身を震わせる。普段は常に周囲に気を配り隙の無い一流剣士の面影が全くない。これは相当重症だ。
「シェリンドンさんでしたか。ご心配をおかけしてすみません。ですが私は大丈夫です」
「大丈夫そうに見えないからシェリンドンさんが声をかけたんだよ。ティアに置いて行かれたのがそんなにショックなのか?」
フレイアは今回のティリアリアのお見合い現場には一緒に連れて行ってもらえなかった。
ティリアリア曰く、危険な場所に行くわけではないしフレイアには休息を取ってもらいたいということらしい。
だが、フレイア本人はティリアリアと離れ離れになっている状況にストレスを感じているようだ。
「ハルト、私はティリアリア様が心配だ」
「貴族とお見合いをするだけだろ? すぐに帰ってくるって」
本当はフレイアと同じくティリアリアを心配しているのに、自分のことは棚に上げて俺は何を言っているんだろう?
「メルフ家を始めとする貴族の多くはティリアリア様を支配したいと考えているのだろう? ならば、今回はその好機と考えられるじゃないか!」
フレイアはいきなり語気を強めて興奮し始めた。なんか雲行きが怪しくなってきたぞ。
「それはつまりどういうことなのかしら?」
シェリンドンさんが丁寧に合いの手を入れてしまい、フレイアの目が輝く。
「お見合いと言うのは方便で、実際は男連中が待ち受けていて力づくでティリアリア様にあられもないことをして、心も身体も支配しようとしているに違いない! 私はそう考えている! 帰って来た時に色気づいているような、そういう変化が合ったら確実に黒だ! そんな時どう接したらいいのか分からなくて……」
「まあ!」
「お前……まさかそんなくだらない事妄想してため息をついていたのか? ティアがその……えらい目に遭わされて、何かに目覚めた後の接し方で?」
「その通りだ! だがちょっと違うな、えらい目ではなくエロイ目だ! そこは重要だ!」
「バカかお前! 普通自分の主人でそんな変態妄想するか!? それに、それは立派な犯罪だ! 常識的に考えてそんなことしないだろ!」
やはりフレイアはフレイアだった。ティリアリアの身を案じているのかと思えばとんだ変態シチュエーションを妄想していた。
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