第47話 聖騎士の責務
クリスティーナは、積もり積もった愚痴を言いたかっただけのようだ。一通り不満をぶちまけクリスティーナが落ち着くと、ノルド国王は俺の方に視線を向ける。
「……さて、君が噂の竜機兵<サイフィード>の操者、ハルト・シュガーバイン君だね?」
「はい、お初にお目にかかります。ハルト・シュガーバインと申します。
国王に会うということで、対面時の挨拶を練習してきたのだが、多分これなら失礼はないはず。第一印象って大事だから慎重に行かねば。
社会人になりたての頃も挨拶は基本だから大事にしろって先輩が教えてくれたっけ。
「ははは、そんなにかしこまらなくても大丈夫だよ。リラックスしてくれていいよ」
さっきまではクリスティーナのサンドバッグと化し苦笑いをしていたノルド国王だったが、俺が緊張しているのを見越してか気さくに接してくれる。
でも相手は王様なので、いきなりフランクに接することは出来ないし、普通はやらないだろう。
「ハルト君。娘から聞いているかもしれないが、君には正式に竜機兵チームに加入してもらう」
「はい。承りました」
国王直々の命令が下り、この瞬間俺は竜機兵チームの一員となった。『竜機大戦』の追加ダウンロードの仕様であった、アバターのメインストーリー参加がこのような形で現実になった。
感慨深すぎてちょっと泣きそう。
「それと、今までの君の戦績を加味して君には竜機兵チームの隊長に就任してもらいたい」
俺は正直驚いた。今までチームを引っ張ってきたクリスティーナから隊長になって欲しいとは言われたが、まさか国王からも同じように言われるとは思わなかった。
「実はクリスティーナ様からも同じことを言われました。ですが国王陛下は何を持って私を竜機兵チームの隊長に推薦してくださったのですか?」
「この二ヶ月間友軍の戦力が少ない中、君は常に最前線で戦い味方に犠牲が出ないように尽力してきたと報告を受けている。その際の敵戦力を確認させてもらったが、本来ならば味方にかなりの被害が出ていてもおかしくない内容だった。それに『第四ドグマ』における撤退戦の件だ。三年前に『ドルゼーバ帝国』に奪取された竜機兵<ベルゼルファー>や数多くの敵勢力を、君はたった一機で撃退して見せた。これはここ百年における『アルヴィス王国』の歴史においても類を見ない戦績だ。一つの部隊を任せるのにこれ以上の理由はない」
なんかめちゃくちゃ褒められている。こそばゆい感じだが、悪くない気分だ。いけないと思いつつも、つい頬が緩んでしまう。
「それ故に私は君に〝聖騎士〟の称号を授与したいと考えている」
「へ? 聖騎士……ですか?」
知らないワードが出てきた。ゲームでは聖女はいたが、聖騎士なんていうものが出てきた記憶はない。
呆けている俺にクリスティーナが説明をしてくれる。
「ハルトさん、聖騎士と言うのは騎士の中の特別階級です。一般的な騎士とは異なり、如何なる命令にも拘束されず独自の判断で行動する権限が与えられますわ」
「それって、つまり誰の命令にも従わなくていいってこと?」
「その通りだ。王である私や騎士団長であろうと聖騎士の行動を決定づけることは出来ない」
それはとんでもない話だ。自由であること、何人にも束縛されないことは一見とても魅力的だ。
けれど、それは裏を返せば自分の行動の責任は全て自分にかかってくるということだ。
誰にも俺の行動を止める権限がないのなら、自分を止められるのは自分だけということになる。
悩む俺を見て、ノルド国王はさらに付け加えた。
「ちなみに一度聖騎士に任命されれば、その称号を剥奪されることはない。仮に君がこの国において有害な行いをしたとしてもだ」
俺の考えは甘かった。今ノルド国王が言ったことが本当なら、俺がバカなことをすればそれは俺を聖騎士に任命した国王の責任問題にもなる。
常識的に考えれば、ノルド国王にとって俺を聖騎士に任命することはリスクが高すぎる。
それでも敢えてそうしたのは、俺がそんな愚かな行動を取らないという確信もしくは希望があるからなのだろう。
聖騎士という強大な権力を得る以上、そこには多大な責務が発生する。俺はその責任を全うしていかなければならない。
「分かりました、ノルド国王。ハルト・シュガーバイン、聖騎士の称号を謹んで承ります」
こうして俺は、竜機兵チームの隊長になるだけでなく、もっと責任のある聖騎士という立場になったのである。
何だか胃がきりきりしてきた。後で胃薬を買いに行こう。
「さて、今度はティリアリアだね」
「はい、国王陛下」
「まずは南方での戦いにおいて、騎士たちを支えてくれてありがとう。君がいなければ二ヶ月も南方の戦線を維持することは出来なかっただろう」
「いえ、私は何もしてはいません。皆が頑張ってくれたおかげです」
ティリアリアは頬を染めて少し恥ずかしそうにしている。よく分かるぞ、国王に褒められるとかどうにも照れくさい。
「そんなことはない。人をまとめ上げる力が君にあったからこそだ。それでなんだがね、今国内は『ドルゼーバ帝国』による侵略で明るいニュースがない。それ故、民の心は疲弊の一途を辿っている。そこでだ! ティリアリア、お見合いしてみないか?」
「はい?」
ティリアリアだけでなく周囲にいる俺たちも国王の突然の申し出に驚いてしまう。いくら何でも脈絡が無さすぎだろ!
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