第40話 四人の竜機兵操者
王都『アルヴィス』から騎士団の装機兵部隊が救援に駆けつけたが、既に敵は俺たちが倒した後だったので、彼らは戦闘後の後始末をやってくれていた。
幸いにも『第二ドグマ』の被害は軽く、装機兵の組み立てを行っている工場区が少し破損した程度で、奇跡的に死者はいなかったらしい。
<アクアヴェイル>と<グランディーネ>が盾になって敵の攻撃から『第二ドグマ』を守っていたおかげだろう。
戦闘後、現場に到着した<ロシナンテ>は『第二ドグマ』に入港し、ボロボロになっていた竜機兵二機は『第二ドグマ』の格納庫でダメージの修復を行っていた。
一方、俺はティリアリア、フレイアと一緒に竜機兵チームの操者たちと対面していた。
クリスティーナとパメラのことは『竜機大戦』のメインキャラでもあるし、その素性などはちゃんと分かってはいる。
だが、この転生世界ではティリアリアが女子高生、フレイアがドM、シオンが女装癖という、ゲームを知っている俺からすればキャラ崩壊とも言える変化があったため、クリスティーナたちにも同様の変化があってもおかしくない。
変化があれば「やっぱりか」と思う反面、変化が無ければ物足りなさを感じるだろう。
そんな矛盾だらけの俺は今、パンドラの箱を開ける気分で彼女たちと顔合わせをしていた。
さてさて、箱の中から出てくるのは災厄か、それとも希望なのか?
「先の戦いでは助けていただきありがとうございます。わたくしは、竜機兵<アクアヴェイル>の操者を務めさせていただいております、クリスティーナ・エイル・アルヴィスと申します。シオンたちからはクリスと呼ばれています。よろしければハルトさんもクリスと呼んでください。あと、わたくしたちには、くだけた感じで接してください、竜機兵の操者仲間ですし」
「次は私の番ね。竜機兵<グランディーネ>の操者パメラ・ミューズよ、よろしく! 皆からはパメラさんって呼ばれているわ、だからあんたも私のことをちゃんとパメラさんって呼ぶのよ!」
「俺は竜機兵<サイフィード>の操者ハルト・シュガーバインです。二人ともよろしく。それじゃ、お言葉に甘えてクリスとパメラって呼ばせてもらうよ」
「ちょっと待ちなさいよ! どうして私は問答無用で呼び捨てになるのよ! 竜機兵チームの先輩よ!? 敬ってよ! ほんの少しでいいから!」
「見苦しいぞ、パメラ。初対面の人間に堂々と嘘をつくな。お前に敬称をつけて呼んだことなど僕はないぞ。それに竜機兵に初めて搭乗した時期はハルトの方が先だし、戦闘経験もこいつの方が上だ」
「ぐぬぬぬぬ! そう言えば忘れてたけど、シオンって私より年下だったわよね? なのに、どうして最初からため口だったの?」
「僕は敬うべき相手には、それに相応しい態度で接している。パメラ、お前はそうではなかったというだけだ。理解したか?」
「表出ろ! このクソガキィーーーーー!!」
普通に挨拶をしようと思っただけなのだが、パメラとシオンの口喧嘩が勃発した。ゲームでもこの二人はしょっちゅう言い合いをする仲だったので、これが平常運転なのだろう。
俺が喧嘩をする二人を眺めていると、金髪碧眼姫様のクリスティーナが申し訳なさそうな表情で近くまでやって来た。
「申し訳ありません、ハルトさん。この二人はいつもこのような調子でして。ですのであまり気にしないでください」
「大丈夫、特に気にしてないよ」
現在俺は平静を装ってはいるが、内心は心臓バクバクだ。至近距離で見るクリスティーナは超美人で、彼女より身長が高い俺の目線からは彼女の豊かな胸の谷間がよーく見えるのだ。
如何にも清楚な女性なのに、どうしてこんな胸元がはだけた服を着ているのだろうか?
冷静に考えれば、『男性ユーザーの目線を考慮したキャラクターデザインだから』という答えが出てくるのだろうが、それはそれで素晴らしい眺めだ。
「ハルトさん? どうかされましたか?」
「いや、何でもないです」
「ふふふ、変なハルトさん」
口元に手を添えて上品に笑うクリスティーナを見て俺は思った。「あれ? これは俺の好みどストライクの巨乳上品お嬢様じゃね?」と。
思い出してみれば、俺が『竜機大戦』を知るきっかけになったのは、ネットで見かけた彼女が映るゲームの宣伝映像だった。
とても美麗なキャラだったから、てっきり恋愛ゲームものかと思えば俺好みのシミュレーションRPGだったので、かなり驚いたのを覚えている。
クリスティーナと「あはは」、「うふふ」と笑い合っていると、突然後ろからものすごい殺気を感じた。
急いで振り向くと、そこにはニコニコ顔のティリアリアが小首を傾げながら「なぁに? ハルトさん、どうしたの? 楽しそうね?」と言っている。
これはあれだ。めちゃくちゃ怒っている時の表情だ。きっと俺だけ自己紹介して放っておかれたから怒っているに違いない。
「ええっと……クリス、紹介するよ。こちらは――」
「存じております」
「はい?」
クリスティーナにティリアリアとフレイアを紹介しようとしたところ、金髪美人さんは銀髪聖女たちを知っているという。
ゲームでは特に絡みは無かった二人だったので、これは意外な発見だ。俺が驚いているとティリアリアがクリスティーナの目の前まで笑顔のままやって来た。
笑顔で対面する二人を見て、俺は背筋がゾクゾクした。この震えは武者震いとか、そんな前向きなものではない。純粋な恐怖由来のものだ。
「お久しぶり、クリス。元気そうで何よりですわ」
「うふふ、ティリアリアも健康そのもので安心しましたわ。あなたが訪れていた『第六ドグマ』が急襲されたという話を聞いた時には、心配で胸が張り裂けそうな気分でしたわ」
お嬢様口調で話すティリアリア。互いが無事であったことを確認し、安堵する二人。会話の内容だけを見れば誰もがそう思うだろう。
だが、笑顔で会話する二人の本心は全く異なる。彼女たちの間に渦巻くこのオーラは敵意そのものだった。
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