第38話 エイブラムの咆哮
「まずは一撃目!! くらえっ!!」
<エイブラム>の背面側に急速降下しながらエーテルブレードで背面に
バランスを崩しながら敵がこっちに方向転換しようとするが、その間に俺は敵の正面に入らないように動き回る。
<エイブラム>の操者からすればいつまでたっても、<サイフィード>を正面に捉えることが出来ないのでストレス溜まるだろうなあ。
『すごいですわ。まさか、こんな一方的な戦いになるなんて……』
『私ら二人がかりで全く歯が立たなかった化け物を圧倒するなんて、ホント何者なのあいつ?』
クリスティーナとパメラの驚く音声が聞こえるが、こっちは敵に集中。攻撃力は侮れないので、細心の注意は払わなければならない。
そのため、距離を取りながらワイヤーブレードで敵背中に攻撃を与え続ける。
<シルフィード>も遠距離からエレメンタルキャノンで攻撃を継続し、<エイブラム>のHPは順調に削られていき五万を下回った。
「よしっ! このまま行けば倒せる!」
『こちらも問題ない。いけるぞ!』
すると、さっきまで<サイフィード>を真正面に捉えようとグルグル動き回っていた<エイブラム>が突然動きを止めた。
『何だ? 動きが止まった?』
その瞬間、俺は何故か敵操者の〝味方を見殺しにする残忍さと狡猾さ〟という特徴を思い出した。
それと同時に嫌な予感がだんだん強くなっていく。
<エイブラム>は再び動き出し、俺とシオンを無視して『第二ドグマ』の方を正面に据えた。
そして、両掌を前方に掲げエーテルを集中していく。
嫌な予感が的中した。こいつはまともにやっても俺たちに勝てないと考え、狙いを『第二ドグマ』に絞ったのだ。
「くそっ!
『この距離なら、大した被害は出ないんじゃないのか!?』
「<エイブラム>の術式兵装エレメンタルバスターなら、この距離でも『第二ドグマ』に大打撃を与えられる!! くそっ! あの操者が危険なヤツだって分かっていたのにっ!!」
油断していたわけではない。だが、ゲームでは戦闘中に戦っている相手を無視して拠点に直接攻撃をするなんていうことはなかった。
そのゲームと現実の戦いの差、CPUと人間の思考の差。完全にそこを突かれてしまった俺のミスだ。
追い詰められた人間は何をするか分からない。狡猾な者であればなおさらだ。俺が戦っているのはコンピューターじゃない、生身の人間なのだ。
戦いに慣れていく中で、そんな基本的で大事なことを忘れてしまっていた。いや、もしかしたら無意識に考えないようにしていたのかもしれない。
自分が戦いの度に人を殺しているという現実から目を背けるようにしていたのだと、この状況になって思い知らされた。
既に<エイブラム>の術式兵装は臨界まで達している。攻撃を中断させることは難しい。
「くそっ! どうすればいい!?」
焦る俺の視界では『第二ドグマ』を背にして立ちふさがる<アクアヴェイル>と<グランディーネ>の姿があった。
『クリス、パメラ、何をやっているんだ! そこから離れろ!!』
『シオン、それは出来ませんわ。このままでは『第二ドグマ』に大きな被害が出ます。中にいる人たちを傷つけさせるわけにはいきません。竜機兵操者として『アルヴィス王国』王家の一人として、わたくしには民を守る義務があります!』
『<グランディーネ>は皆を守る盾として造られたからね。今その役目を果たさなくて、いつ果たすのよ! シオンは絶対こっち来るんじゃないわよ! 装甲の薄い<シルフィード>じゃ、一瞬でぶっ飛ばされるからね!』
『くそっ!!』
クリスティーナとパメラは自分たちが盾になって『第二ドグマ』を守る気だ。
でも、ダメージが回復していない状態では、防御しても<エイブラム>の術式兵装に耐えることは出来ない。
俺は急いで<サイフィード>を二機の竜機兵の前に滑り込ませた。
「よし! 間に合った! スキル『
一度だけダメージを無効化する『絶対防御』、一定時間ダメージを三分の一に抑える『竜鱗』で攻撃に備える。
ゲームではこれらのスキルでダメージを軽減したり無効化したり出来るのだが、<エイブラム>のエレメンタルバスターに果たして耐えられるのか分からない。
それなので、念には念を入れてこの二つのスキルを同時掛けする。
直後、前方で光が爆ぜる。<エイブラム>がエレメンタルバスターを放った。膨大な水属性のエーテル波動が<サイフィード>に直撃した。
機体表面を覆う光の衣がエレメンタルバスターから守ってくれている。
衝撃で後方に少しずつ押し込まれはするものの<サイフィード>自体はダメージを受けてはいない。
しっかり足を踏ん張って吹き飛ばされないように耐える。
そして、しばらくして<エイブラム>のエレメンタルバスターは終了した。この攻撃による味方の被害は0だった。
スキル効果で<サイフィード>も無傷で済んだ。あれだけの攻撃をノーダメージでやり過ごした事実に自分自身驚く。
『ハルトさん大丈夫ですか!? 怪我をしてはいませんか!?』
クリスティーナが心配そうに声をかけてくれた。さすがは『竜機大戦』のメインヒロインだけのことはある。
金髪碧眼の巨乳美人姫様に真剣に心配されたらコロッと惚れそうになる。その手法によって何人の男たちが彼女の虜になったのだろうか?
一時期は俺もその一員だったのだから人ごとじゃなかったな。
『ちょっと何でダメージ0なの!? あんた防御系スキルが得意なの!? それじゃ私と同類だね、よろ~!』
一方、パメラの反応はこれだ。ノリが軽く貞淑さが皆無でついでに胸部がまっ平だ。
こういった女性キャラはささるヤツにはささるのだろうが、俺の琴線には触れなかった。
そう思っていると<グランディーネ>との通信ウインドウが再び開いた。
『今、私の胸が平地だとかぺったんこだとか思わなかった?』
「思っていません」
こいつは、自分の胸部にコンプレックスを抱いており、平だとか平地だとかぺったんこというワードに過剰反応し、キレるという性質を持っている。
今頭の中で思っただけなのに、それに勘づくってエスパーの領域ではないだろうか?
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