第37話 アジ・ダハーカ

 <シルフィード>がアジ・ダハーカ使用のために機体の出力を上げる中、俺はまっすぐ敵陣に向かって行った。

 <サイフィード>が接近してくるのを確認すると、五機の<ヴァジュラ>が散開し、こちらを囲むような布陣で待ち構える。


「このままの状況だと一網打尽には出来ないな。それじゃあ、おびき寄せるとしますか!」


 五機の<ヴァジュラ>が各々エレメンタルキャノンを<サイフィード>目がけて放つ。

 だが、運動性能が飛躍的に向上した愛機からすれば、それらのスピードは遅く余裕で躱すことが出来た。

 回避直後、俺はワイヤーブレードを蛇腹状に伸ばし鞭の如く敵に叩き付ける。変則的な動きで斬り込んで来る刃を回避出来ず、五機にクリーンヒットした。

 その後も連中はしつこく遠距離攻撃を続けたが、こっちは余裕で全て回避した。すると業を煮やした機体が槍を装備し、<サイフィード>に接近を開始する。

 一人が接近戦を選ぶと他の連中も同じことを考えていたのか、全員が武器を装備し突撃してきた。


「かかった! もう少し近づいて来い!」


 <ヴァジュラ>五機と適度な距離を保ちつつ、ワイヤーブレードでダメージを与えていき敵のHPが半分をきった。


「シオン、いけるかっ!?」


『ああ、準備は出来ている。お前は巻き込まれないように下がっていろ』


 俺は<サイフィード>をその場から急速離脱させると、攻撃目標を見失った敵部隊は呆気に取られたように動きを止めた。


『前方に五機が密集している。理想的な配置だ。行くぞっ! アジ・ダハーカ!!』


 <シルフィード>の周囲を風の障壁が覆い、ライトグリーンの竜機兵は高速飛行で前方に集中している<ヴァジュラ>部隊に突撃した。

 それは一瞬の出来事だった。風の障壁に接触した機体は粉々に破壊されていき、<シルフィード>が通過した場所には、五機の<ヴァジュラ>が原型を留めない状態で四散していた。

 これが風の竜機兵<シルフィード>専用であり、竜の名を冠する術式兵装〝アジ・ダハーカ〟。

 機体の周囲に風のバリアを展開突撃し、進路上の敵をまとめて破壊する術式兵装。

 機体周囲にいる広範囲の敵を一気に攻撃できるので、ゲームでは敵撃破時の資金を二倍にするバトルスキル『富豪』を併用して資金稼ぎをするのが鉄板の運用方法だった。

 機体の早急な強化が必要とされる現状では、シオンにはこのやり方で稼ぎ頭になっていただこう。


『すごいですわ! 本当にたった二機で、この戦力差を覆してしまいましたわ!』


『うん、本当に驚いたよ。<サイフィード>のパワーや、あのハルトって操者の実力もすごいけど。なにより、この戦術を一瞬で考えついたのがすごい。まるで<シルフィード>の能力を完全に把握しているみたいな』


 パメラの言葉にちょっとドキッとしてしまう。

 そりゃあ、ゲームでは各機体の性能をフルに発揮しないとクリア出来なかったので、自然と竜機兵全機の特徴と操者の皆さんの得手不得手は分かるようになっております。


『よし、<ヴァジュラ>は全機倒した。残るは……』


「<エイブラム>だけだ。シオン、手筈通りに遠距離から支援を頼む」


『了解した』


 残り一機となった敵機<エイブラム>は、味方が全滅したというのに現在地から一歩も動いていない。完全に待ちの姿勢だ。

 その理由として考えられるのは、恐らくヤツが水属性のエナジスタルを搭載しているからだろう。

 エナジスタルは構成されているマナに関連のある場所では、大気中からのマナの吸収率が上昇する。

 あの<エイブラム>は水属性なので、海辺から水のマナを効率的に吸収しエネルギーを蓄えていると見て間違いない。

 

「味方がやられているのに、あいつは全く動く素振りすら見せなかった。操者は狡猾な性格をしている可能性が高い。注意しよう」


 自分に言い聞かせながら、俺は<エイブラム>の左側から回り込むように接近する。あの重装機兵は機体の前方に火力が集中するようになっている。

 ヤツと戦うなら側面か背面から攻めるのがセオリーだ。動きも鈍重なので<サイフィード>の素早い動きには対応できないはずだ。


「やっぱり浅瀬から上がって来ないみたいだな。マナの吸収率は良くても動きがより鈍くなるはず! 行けるかっ!?」


 海に入る瞬間に<サイフィード>のエーテルスラスターを稼働させ<エイブラム>目がけて突き進む。

 海上を低空飛行しながら高速で接近する白い竜機兵に驚いたのか、重装機兵は慌ててこっちに正面を向けようとする。

 しかし、ただでさえ鈍重な足回りは水抵抗でさらに動きが悪くなっており、思うように方向転換できないようだ。


「そうなると思ったよ! そんな動きじゃ<サイフィード>には指一本触れられないぞ!」


 <エイブラム>は右手に持ったエーテルハルバードを横薙ぎにしながら、接近する<サイフィード>に思いきり振るう。

 エーテルハルバードの動きを追うようにして、水面が激しく水しぶきを上げながらこっちに襲い掛かってくる。

 ヤツの武器が当たる直前で、俺はエーテルスラスターを全開にして<サイフィード>は直上に飛んだ。

 回避困難な横一文字の斬撃を躱されて、その巨体は驚いたように空を仰ぐ。

 さあ、驚け驚けこのヤロウ。ゲームでは散々蹂躙され驚かされた分、ここでそのかりを返してやる。


 フル強化が済んだ現在の<サイフィード>の運動性能は275。俺のパッシブスキルの補正を加えると405になる。

 このレベルになると、機体の動きはかなり軽くなりエーテルスラスターの出力と持続時間も大幅にアップした。

 今の<サイフィード>なら一定時間<シルフィード>並みに人型のまま空中戦をすることも可能だ。

 そんな愛機であれば、少し海面すれすれを飛行してからの更なる急上昇などお茶の子さいさいなのである。

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