第36話 重装の怪物

「やったな」


『ああ。しかし驚いた。<シルフィード>の動きがすごく軽い。機体強化によってここまで勝手が違うのか』


「今の<シルフィード>に攻撃を当てられるヤツはそうはいないだろうな。でも、油断するなよ。俺達の前方にいるあの新型は特に危険だ。直撃を受ければ装甲の薄い機体は一発でやられるかもしれない」


『分かっている。慢心してやられるなど愚の骨頂だ』


 どうやらシオンに油断はないようなのでひとまず安心だ。いくら運動性能を最大まで上げたと言っても、あの重装甲の新型装機兵は分が悪すぎる。


「本来ストーリーの中盤から登場する<フレスベルグ>が出てきたから、ある程度は覚悟していたけど、こうして目の当たりにすると圧巻だな」


 前方にいる巨大な新型機――重装機兵<エイブラム>は全高約二十五メートルという、通常の装機兵より十メートル近くも巨大な怪物だ。

 ゲームでは<フレスベルグ>と同時期に現れる中ボスのような存在で、頭部にある巨大な二本の角と武器である巨大なハルバードが特徴だ。

 高いHPと分厚い装甲、高い攻撃力を備えており、ゲームで初めて戦った時にはその圧倒的な強さから敗北イベントかと思ったが、全滅後普通にゲームオーバーになり身体が震えたのを覚えている。

 対竜機兵用に造られた機体で、火、水、風、大地の四種類の属性の機体がある。

 重装甲ゆえに動きは鈍重だが、ハルバードの一撃は重く中途半端に強化した機体では一撃で瀕死もしくは破壊された。


【エイブラム】

HP80000 EP320 火力2500 装甲3300 運動性能110

属性:水

武器:タックル、エーテルハルバード

術式兵装:エレメンタルキャノン(水)、エレメンタルバスター(水)、パワークラッシュ


 『鑑定』でステータスを確認したらこのありさまだ。HPが十万に近い上に装甲が三千三百ときた。

 こんな敵が相手では、竜機兵チームの防壁役の<グランディーネ>と回復兼遠距離支援役の<アクアヴェイル>では歯が立たなかったはずだ。

 本来なら竜機兵チームの全機が揃い、操者のレベルが軒並み五十を超え、機体の強化もかなり進んだ頃に戦うような相手だ。

 それでさえ初戦はボコボコにされたのだ。そんなヤツにたった二体でよくここまで粘れたものだ。純粋に凄いと思う。


『<ヴァジュラ>をこうも簡単に倒すなんて凄いね。でも、あの新型のデカブツは桁が違うよ。『第二ドグマ』の避難が終わったら逃げた方がいい』


『わたくしもそう思いますわ。あの機体にはこちらの攻撃がまともに通りません。逆にあちらの攻撃はとてつもない威力です。最初は海辺で戦っていたのですが、あの新型機のパワーでここまで後退せざるを得ませんでしたわ』


 パメラとクリスティーナは敵の強さを痛感し、まともに戦うのは危険すぎるという結論に達しているようだ。

 正直、その判断は正しいと思う。

 俺は『鑑定』で確認した<エイブラム>のステータス情報を他の竜機兵に送った。それを見た三人は絶句しているようだ。

 無理もない。こんなバカみたいなステータスの機体とは本来ならば、もっと後で戦うはずだ。

 操者も機体も準備が出来ていない現状ではなぶり殺しに遭うのが関の山だろう。


『……確かに二人の言う通りだな。ハルト、あの新型と戦うのは危険だ。ここは――』


『シオン、まずは残り五体の<ヴァジュラ>を片付けるぞ。そしたら、お前は遠距離から援護してくれ、あの新型機<エイブラム>は俺が叩く!』


 一瞬三人が静かになる。そこから堰を切ったように喋り出した。


『ちょ! あんた正気!? あんな化け物みたいな敵にどうやって勝つっていうの? 言っとくけど私の<グランディーネ>とクリスの<アクアヴェイル>は戦力にならないわよ!?』


『ええ、パメラの言う通りですわ。わたくしたちのマナはもう残り少ない状況で、術式兵装すら満足に使用できない状況ですわ。<シルフィード>とその機体だけでは……』


『……策はあるのか?』


『ちょっと、シオン!?』


 パメラとクリスティーナが、正気の沙汰じゃないと非難する中、シオンは二人とは違うようだった。


「もちろんだ。まず俺が先に行って<ヴァジュラ>五機にダメージを与えながら俺の近くにおびき寄せる。そしたらシオンは〝アジ・ダハーカ〟でヤツらを一気に倒す。その際には『富豪』を使って倒してくれ。そしたら、結構いい額の資金が手に入る」


『なるほど~、それでお金ががっぽがっぽでウハウハなのね、って違う! 問題はあのデカブツをどう倒すのかってことでしょ!?』


 さすが竜機兵チームのムードメーカー、パメラ・ミューズ。ボケとツッコミを一人でこなすとは……できる!


「ああ、あいつ? 確かに危険であることには変わりないんだけど、油断しなけりゃ問題ないよ。パメラとクリスティーナさんは危ないから、このまま後方で待機。以上!」


『了解した。<ヴァジュラ>破壊後、僕は遠距離支援に回ればいいんだな?』


「ああ、それで頼む。それにそろそろあいつがやって来る頃だ。問題ない、やるぞ!」


『分かった。こっちはアジ・ダハーカの準備に入る』


『……ところでクリスは〝さん付け〟なのに、どうして私は呼びすてなの?』


 パメラが何かを言っていたが、俺とシオンはそれを無視して戦闘準備に入った。

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