第35話 竜が集う日

 『第二ドグマ』は、王都にある『第一ドグマ』よりもやや海側にあり、二つのドグマはそれほど距離があるわけではない。

 つまり、今回『第二ドグマ』を襲撃している敵部隊は、王都の近くに出現したということになる。


『まさか、王都のこんな近くに敵の接近を許すとは……』


「帝国の神出鬼没っぷりにはいつも驚かされるな。けど、こっちに探知されないってことは、大規模編成じゃないってことだ。それなら、こっちも少数精鋭部隊で対処ができる」


『その部隊が竜機兵ということか』


「そういうこと。だから、一機でも欠けたら大幅な戦力ダウンになる。急ぐぞ、シオン。『韋駄天』を使って一気に速度を上げよう!」


『了解した』


 移動速度を上げるバトルスキル『韋駄天』を使用して、二機の竜機兵は加速し『第二ドグマ』を目指す。

 その間俺は<シルフィード>とシオンのステータスを確認していた。


【シルフィード】

HP3900 EP450 火力3500 装甲2500 運動性能275

属性:風

武装:エーテルブレード、エーテルダガー、エーテルブーメラン

術式兵装:エレメンタルキャノン(風)、リアクタースラッシュ、アジ・ダハーカ


【シオン・エメラルド】  

年齢:15歳  性別:男

Lv:30   

近接攻撃:220  遠距離攻撃:202  防御:198  反応:255

技術:225  マナ:270

【バトルスキル】

韋駄天  超反応  富豪 

【パッシブスキル】

天才肌  インファイター(Lv3)  カウンター  


 シオンはフレイアと同様に接近戦と回避に強いアタッカーだ。

 彼女と比べて近接攻撃力はやや劣るが、その分遠距離攻撃が少し高くなっており遠距離戦闘において融通が利くオールラウンダーなステータスを持っている。

 固有パッシブスキルの『天才肌』は、『操者各ステータス+20%、火力+100、運動性能+70』という、バランスのいいスキルである。

 特に機体の運動性能がかなり向上するので、<シルフィード>はゲーム内でとにかく避けまくる機体だった。

 現在の<シルフィード>の運動性能は275なのでスキル込みで345。

 ちょっとやそっとじゃ、この風の竜機兵に攻撃を当てることは不可能だろう。これで竜機兵チームの斬り込み隊長の完成である。


 『韋駄天』の連続使用により、短時間で俺たちは『第二ドグマ』のエリアに到達できた。すると前方にいくつもの黒煙が空まで上がっている様子が目に入る。


「あれは、もしかして!?」


『くそっ! 『第二ドグマ』の方角だ!』


 再び『韋駄天』を使用して俺たちは、戦場と化した工場区へ急ぐ。すると、モニターに音声のみであるが、女性二人の会話が流れ込んで来た。


『パメラ、そちらは大丈夫ですか?』


『大丈夫……と言いたいとこだけど、さすがにヤバい。<グランディーネ>も、もう限界みたい。次に一斉攻撃が来たら持たないと思う。マナもすっからかんだしね。クリスはどう?』


『わたくしも、マナはほとんど残ってはいませんわ。<アクアヴェイル>もここまでよく持ってくれましたけど、もうさすがに……』


『そっか……ならクリスだけでも撤退して。ちょっとだけなら時間稼ぎしてみせるから』


『それは出来ませんわ。『第二ドグマ』の方々の避難が済んではおりませんし、何よりあなただけをここに残してはいけません。わたくしもお供しますわ』


『泣かせること言ってくれるじゃない。私が男だったら、そんなこと言われた日にゃあ、一晩中エロいこと頑張っちゃうね。その巨乳を堪能させてもらう』


『お下品ですわよ、パメラ』


『っと、そろそろ来るみたいよ。せめてシオンがいてくれたら何とかなったかな?』

 

『あの装甲の厚い敵が相手では<シルフィード>がいても状況は変わらなかったでしょう。むしろ、シオンが南方の部隊へ救援に行ってくれていて良かったですわ』


『そうだね、後はあいつに頑張ってもらいますか!』


 <サイフィード>と<シルフィード>は高度を落としながら『第二ドグマ』の工場区前を目指す。

 そこに竜機兵<アクアヴェイル>と<グランディーネ>の反応がある。二体とも残りHPは三割をきっており非常に危険な状況だ。

 そんな手負いの竜に近づく三体の<ヴァジュラ>の姿が遠目に見える。減速しながら現場を目指していては間に合わない。


「シオン! このままのスピードで突っ込むぞ! 接触するタイミングに気を付けろ!」


『分かっている! もとよりそのつもりだ! お前の方こそ間違って二人に突撃するなよ!?』


「そんなヘマしないっつーの! 行くぞっ!!」


 地上すれすれを高速で飛行する白と緑の竜機兵はそれぞれ武器を構えて、特攻の準備を整える。

 モニターには青色とオレンジ色の竜機兵と、その目の前にまで来たマッシブな三機の巨大騎士の姿が映っている。


『くそ、こいつら一気に飛びかかってくるつもりね。乙女二人相手になんて野蛮なこと考えてるのよ!』


『そろそろ、仕掛けてきますわね。……え? ちょっと待ってください、パメラ! 何かが凄いスピードで近づいてきますわ!』


「よしっ! 間に合ったぁぁぁぁぁぁ!!」


『二人から離れろ!』


 急激な減速をしながら、一触即発の五機の間に割って入る二つの影。

 <シルフィード>はエーテルブレードで一機に刺突攻撃をくらわせ、<サイフィード>は飛竜形態のまま、左爪で把持したワイヤーブレードを伸ばして蛇腹の刃で二機をまとめて薙ぎ払った。


『ええっ!? なになに!? <シルフィード>!? シオンが来てくれたの!?』


『それに、この白い竜はもしかして南方で戦っていた<サイフィード>ですの!?』


「二人は後方に下がれ! この三機は俺とシオンがやる!」


 俺の指示に二人が反応し、バックステップで後ろに距離を取った。俺は<サイフィード>を人型に変形させて、地面に両足を接触させて減速する。

 それと同時にエーテルマントと両脚部のエーテルスラスターを全開にして、今度はさっきの二機の<ヴァジュラ>目がけて飛び込みながら蛇腹剣を振う。


「さっきのダメージから立ち直っていない!? なら、追撃する!」


 勝利を確信して油断していたのだろうか? 奇襲を受けた<ヴァジュラ>二機は、なかなか戦闘態勢を整えられず動きが緩慢だ。

 この隙を逃す手はない。ワイヤーブレードを鞭のように何度も振るい二機の<ヴァジュラ>はあっという間に虫の息になった。

 その内の一機が近くで戦っている<シルフィード>に右手をかざす。


「エレメンタルキャノンを使う気か!? させるかっ!」


 蛇腹状に伸ばした刃をそいつの右肘に巻き付け思い切り引っ張ると、その関節を破壊し敵の右前腕が吹っ飛んだ。

 敵が怯んだ隙にワイヤーブレードを元の状態に戻しながら接近し、そのまま刃を胴体に突き立てる。

 その敵が機能停止したのを確認しながら、俺の後ろに回り込もうとしていたもう一機に意識を向けた。


「見えてるんだよ!」


 ワイヤーブレードを引き抜き、振り向きざまに剣先をもう一体の<ヴァジュラ>に向け、蛇腹モードオン。

 如意棒にょいぼうの如く伸びた剣は敵の顔面に直撃し、頭部を吹き飛ばした。ところが、それでも敵はお構いなしに突撃してくる。

 

「まだ来る! ならさっ!」


 <サイフィード>の左肩のアークエナジスタルが輝き、そこからエーテルブレードを引き抜いた。

 頭のないマッシブな巨大騎士が、剣を構えて突撃してくる姿は何ともシュールだと思いながら、その剣をエーテルブレードで受け止める。

 

「パワーはこっちの方がずっと上なんだよ! 圧倒させてもらう!」


 そのまま、切り払って敵は後ろにのけぞった。俺は元の状態に戻したワイヤーブレードとエーテルブレードでそいつを十文字に斬り裂いた。

 この二刀流の戦い方はフレイアから教わったものだ。彼女の流派の奥義は二刀流だそうで、特別にそれを教えてもらっていたのだ。


「こっちは片付いたぞ。シオンは!?」


 <シルフィード>に目を向けると、丁度ライトグリーンの竜機兵が<ヴァジュラ>を真っ二つにする姿が映った。

 どうやら向こうも片付いたようだ。

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