第34話 襲撃の第二ドグマ
「『錬金工房ドグマ』では、竜機兵開発当初から専用武器の案はあったんじゃよ。竜機兵自体の開発が難航して、そっちの方は遅々として進んでおらんかったがの。じゃが、竜機兵も順次開発が終わり実戦データも増えてきた。さらにドグマの技術レベルも上がってきたことで、専用武器開発に着手できたんじゃ。そこに、<ベルゼルファー>が使用していたエーテルアロンダイトの話を聞いて、<サイフィード>の専用武器のイメージも大体固まったんじゃよ」
「<サイフィード>の専用武器!? それならエーテルアロンダイトとやり合えるの!?」
「<サイフィード>の記録を見てみたが、少なくともアレと互角以上の性能を持たせることは出来ると思う。使用時はEPやマナを少々使うだろうが、お前さんの膨大なマナとEP回復が付与された<サイフィード>であれば、大して問題にはならんじゃろ」
出てます……出てます……今、アドレナリンがばっしゃばっしゃ出ているのが分かります。
この興奮、この高揚感! ずっと待ちかねていた新作ゲームを発売当日朝一でゲットし、これからスタートボタンを押す。まさにその時のような感じだ。
「マドック爺さん、その<サイフィード>専用武器はどんなものになりそう?」
「うむ、イメージはもう完成しておるぞ。形状はエーテルブレードに近い剣で、名前はエーテルカリバーンじゃ」
「エーテルカリバーン……!」
さすが<サイフィード>に無理やり変形機能を持たせたロマンの申し子、マドック錬金技師長。
専用武器に、かの有名な騎士王の剣の名前を入れてくるとは、厨二心をくすぐってくれるじゃないですか。
「武器の製造は『第一ドグマ』で行うのがいいじゃろう。あそこの設備なら、数日で完成させることが出来るからの」
「ということは、だいたい一週間後には完成しているってことか。あー! 楽しみだなー!」
その後マドック爺さんは、『第一ドグマ』に到着したらすぐにエーテルカリバーンの製造に入れるよう準備に取り掛かっていた。
俺はホクホクしながら格納庫をうろうろしていたが、その一角で壁に額をつけてブツブツ独り言を言っているシオンの姿を見つけた。
どうやら、今日はゴスロリじゃなく普段の姿のようだ。
「あれは僕じゃない、あれは僕じゃない、あれは僕じゃない、あれは僕じゃない、あれは僕じゃない、あれは僕じゃない、あれは僕じゃない……あれは、僕じゃない!」
「大丈夫か、シオン?」
「あれは僕じゃあない!!」
どうやら、大丈夫ではないようだ。
昨日聞いてはいたが、あのゴスロリ状態の記憶はしっかり残っており、元の姿に戻った後はこうしてゴスロリ時の行動を思い出し後悔しているらしい。
「ハルト、昨日のことは忘れてくれ!」
「おい、事情を知らない人が聞いたら誤解を生むような発言はやめろ。それに、残念だけど、ゴスロリシオンちゃんを忘れることは出来ない! 俺の前であんな恰好をしたお前のミスだ。まあ、いいじゃないか。こうして普通に会話できる間柄になったわけなんだし」
「くっ! 何でこんなことになった!?」
「そりゃあ、あれだよ。あんな、意味不明な推理をしたのが良くなかったんだよ。今後は探偵役じゃなくて、第一発見者で『きゃあああ!』って叫ぶか、好奇心の赴くまま色んな発言して探偵にヒントを与えるポジションを目指すのがおすすめだよ」
俺の頭の中では、ゴスロリメイド姿のシオンが悲鳴を上げて、泣きながら「ひっ、人が倒れてますぅ!」と話す姿が再生されている。
普通、こういう時ってティアあたりが遺体発見者候補として最初にイメージされると思うのだが、そこにシオンが来るあたり俺は相当ゴスロリシオンにやられているのだろう。
とりあえず、こういう時は時間が経てば少しずつ気分は回復するだろうから、こいつは放っておいて問題ない。
それに近いうちに再び天使が降臨するかもしれない。そしたら、また<シルフィード>を強化して一緒に写真を撮ってもらうんだ!
敵よ、はよ来い! そして金を落としていけ! さすれば俺は天使のご尊顔を拝することが出来るんだ!
もはや、俺は騎士と言うよりは山賊寄りの思考をしている。自覚はあるのだが、天使が喜ぶには資金が必要だ。だから俺は敵の身ぐるみを剥がすしかないのである。
こんな俺のくだらない願いが届いたのか格納庫に警報が響いた。
『『第二ドグマ』より救援要請! 現在、敵の襲撃を受けているとの報告あり。装機兵部隊発進準備、操者は機体搭乗後待機。繰り返す――』
格納庫にいた俺とシオンは、反射的にそれぞれ愛機のもとに走りコックピットに乗り込んだ。
遅れてフレイアも<ウインディア>に乗り込み、<サイフィード>のモニターにフレイアとシオンの姿が映る。
さらに<ロシナンテ>のブリッジとも映像が繋がり、そこにいたマドック爺さんが状況説明をしてくれた。
『さっきの放送でもあったように、現在『第二ドグマ』が敵の襲撃を受けておる。<ロシナンテ>は『第二ドグマ』に急行し、敵の殲滅に当たる。三人共いいかの?』
「了解!」
『現場には、運よく<アクアヴェイル>と<グランディーネ>がいたようじゃ。現在、二機が中心となって防衛に当たっているんじゃが、帝国側が新型の装機兵を導入してきたらしい。これが段違いの強さで苦戦を強いられておる』
「新型か……。それなら、俺が先行します。竜機兵でも二機だけじゃ危険かもしれない!」
『僕も行こう。操者のクリスとパメラと面識のある僕がいた方が連携が取りやすい』
『分かった。二人とも頼んだぞ』
「そういうわけだ。フレイアは<ロシナンテ>と来てくれ。俺たちは先に行く」
『また、私は留守番か』
見るからにフレイアは不服そうだった。『第四ドグマ』からの撤退戦でもほとんど活躍の場が無かったのを気にしていたので、再びお預けをくらって面白くないのだろう。
「フレイア、<ロシナンテ>が現場に到着しても戦闘が続いていたら空からの奇襲を頼む。お前の腕ならそれが可能だろ? それが上手くいけば敵に混乱を誘って、一気に俺たちが優位に立つ」
『……分かった。その役引き受けた!』
モニターからやる気満々になったフレイアの姿が消え、シオンが真顔で俺を見ている。
「どうした、シオン? 何か気になることでもあったか?」
『いや、味方をその気にさせるのが上手いと思ってな。指揮官としての訓練でも受けていたのか?』
「まさか! 俺は訓練校ではまともに装機兵を動かせずに辺境送りになった三流の装機兵操者だよ。<サイフィード>に乗ってからは必死に戦い続けてきただけさ」
『そうか……いや、『アルヴィス王国』南方の白い竜機兵の噂は、僕たち操者の間では有名でな。その戦績を見ると凄い活躍で信じられないものだった。だから、何かしら裏事情があると思い込んでいた』
「それで出た結論がスパイだったわけか。なるほどね……それなら今回の戦いで俺の戦いを直接その目で見てくれよ。『百聞は一見に如かず』っていうしさ」
『そうさせてもらう。それじゃ、行くぞ。ハルト!』
「ああ、行こうシオン!」
<ロシナンテ>の後部ハッチが開き、二体の竜が飛び降りた。俺は<サイフィード>を飛竜形態にして、水先案内人である<シルフィード>の後方に位置を取る。
飛翔する白と緑の竜は、襲撃を受けている『第二ドグマ』を目指して一気に加速し、<ロシナンテ>の前からあっという間に姿を消した。
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