第32話 大金持ち? ハルト・シュガーバイン
「ティア、これは違うんだ! シオンが、ゴスロリになっちゃったんだよ!!」
「そんなことは知っています!」
「ええっ! 何で知ってんの!?」
「その子のメイクをしたのは私とフレイアだからです!」
「なん……だと……!?」
こいつはいきなりとんでもないことを言った。天使をこの地に召喚したのは聖女だったらしい。
「どうして、こんなことをしたんだ?」
「それは、僕が頼んだんです。……ハルトさんと仲直りがしたかったから。多分これが一番良い解決方法になるだろうって思って」
どいつもこいつもめちゃくちゃなことを言い始め、現場はカオスと化した。 そのような中、ティリアリアたちが順を追って説明をしてくれた。
まず、ティリアリアとフレイアはシオンと面識があり、以前彼に女装をさせたという。
その部分からして話がおかしかったが、一々ツッコんでいたら先に進まないのでとりあえず黙っておく。
女装後、シオンの中で何かのスイッチが入ったらしく、その時はしおらしい乙女のような性格になってしまうらしい。
普段のツンツンした性格ではいつまで経っても、俺との仲が修復されないと思い女装時であれば素直な性格になるのでイケると思ったとのこと。
そんなシオンの考えに賛同した聖女とドMがメイク役を買って出たという流れだ。
しかし、驚いた。シオンに女装癖があるなんて設定はゲームにはなかった。おまけに、ティリアリアとフレイがシオンと知り合いというのも初耳だ。
ゲームでは語られなかった人間関係が色々とあるのだろう。そんなこんなで、俺とシオンは昨日の件はこれで手打ちとすることにしたのである。
しかし、微妙に納得のいっていない方がいた。
「仲直りしたのは良いと思いますけどね、昨日の件で色々と台無しになったのよ! もう!」
ティリアリアは、少し頬を膨らませて〝ちょっとご立腹モード〟だった。シオンはそんなティリアリアに何度も謝っている。
「ティア、台無しって言うけどさ、何か計画していたことでもあったのか?」
「えっ!? それは……その……別に……何も……」
ティリアリアは急に歯切れが悪くなり、両手の指を組んでモジモジし始めた。
「ティリアリア様、もしかしてハルトと〝あんなこと〟や〝こんなこと〟をしようとしてました?」
「フレイア! そ、そんなこと私が考えているわけないでしょ!? 〝あんなこと〟や〝こんなこと〟や、〝そんなこと〟なんてっ!」
誰も〝そんなこと〟なんて言っていないのだが、彼女はいったい何を考えていたのだろうか?
ティリアリアたちがわいわい騒ぐ中、俺は昨日マドック爺さんに話せなかった<ベルゼルファー>との戦いの件を話した。
その名を聞いた爺さんは最初驚いていたが、戦いの経緯を話していくと深刻な表情になっていった。
「そうか、あれが動いたか。すまんのう、ハルト。<ベルゼルファー>のことは事前にお前さんに話しておくべきじゃった」
「いや、そこらへんはもういいよ。他にも『ドルゼーバ帝国』に奪われた機体ってあるの?」
「奪われたのは<ベルゼルファー>のみじゃ。しかし、あれがハルトの言うような性能を発揮しているということは、帝国は竜機兵について研究をかなり進めていると見ていいじゃろう」
「それって、帝国側も竜機兵を造れるってこと? 量産されでもしたらまずいじゃないか!」
「恐らく、それは難しいと思う。ドラゴニック・エーテル永久機関にしろドラグエナジスタルにしろ、いくら『ドルゼーバ帝国』でもおいそれと作り出すことは不可能じゃ。特にドラグエナジスタルは数年単位の時間をかけなければ作れんからの。即戦力を求める帝国は竜機兵を造ることはない」
「それなら一安心か」
「ただ、ドラグエナジスタルに代わるような強力なエナジスタルがあれば、竜機兵に近い性能を持つ装機兵を造り出すことは可能じゃろう。ドラゴニック・エーテル永久機関であれば少数程度なら造れるからの」
マドック爺さんの言葉に、ゲーム内で出てきた強力な装機兵たちの姿が思い出される。
既に戦った鳥型の装機兵<フレスベルグ>もその中の一体だったわけだが、その他にも明らかに竜機兵を超える機体は複数存在した。
そんなことを考えながら、ふとティリアリアを見てしまう。
ゲームの聖女ルートで彼女が搭乗した機体<オーベロン>は、作中屈指の性能を持っていた。
戦闘中に<オーベロン>の弱体化イベントが発生しなければ、正攻法で破壊するのは不可能と思える化け物だった。
もしも、あんなモンスター級の装機兵が現れたら、竜機兵でも倒すのは困難を極めるだろう。
仮に倒すことが出来たとしても、味方に被害が出る可能性は高い。
ゲームでは味方が倒されたとしてもコンティニューで何度もやり直すことが出来た。でも、これはゲームじゃない。
コンティニューなんて出来ないし、敵に倒されれば死亡する可能性だって高い。戦いは基本一発勝負なのだ。
そうなってくると、竜機兵の強化は必須だ。
それに<ベルゼルファー>のエーテルアロンダイトのような、普段使いできる強力な武器があればかなりの戦力アップが期待できるのだが、そんなに世の中上手くはいかないよなー。
「そう言えば、昨日の戦闘で得られた資金が来ておるぞ」
マドック爺さんが唐突に言ってきた。相変わらず、戦闘後の資金の回収方法が不明だ。
戦力アップ方法を色々考え中の俺は、ぼんやりと爺さんの話を聞いていた。
「今回の入手金額はすごいぞー。なんと! 百万ゴールドじゃ!!」
「ふーん、百万かー。百万って言ったら、十万の十倍じゃないか。十万あればEPならフル強化出来そうだねー。………………ん? ひゃく……まん……?」
「そうじゃ、百万ゴールド」
ここで頭の中がクリアーになっていく。適当に聞き流していた金額が尋常ではないと、認識し始めていた。
「ひゃ、ひゃ、ひゃ、ひゃ、……百万!? ちょ、マドック爺さん! 金額の桁間違ってない!?」
「いんや、確かに百万じゃよ。ほれ!」
今回の戦闘での入手金額が記載された小切手を皆で確認する。何度見ても、爺さんが言ったように百万ゴールドと書かれている。
「どうして、こんな高額が? 飛空艇八隻と<ベルゼルファー>を倒しただけなのに!」
その疑問に対する答えを知っている者はいない。ただ確かなのは、現在の所持金が百万ゴールド以上あるということだ。
使い道を色々考えてみるが、真っ先にこれが浮かんだ。
「マドック爺さん! <サイフィード>の残りの強化に必要な金額っていくら!?」
「ちょっと待っておれ。えーと、三十万ゴールドといったところじゃな」
「それじゃ、それで。<サイフィード>のフル強化よろしくお願いします」
「分かった。早速強化に取り掛かるかの。『第四ドグマ』から持ってきた資材で十分足りるじゃろ」
き、気持ちぃ~!! 今まで、ちまちま少しずつ強化していたというのに、今回は違う!
お店で「ここからあそこまでの物を全部いただくわ」と話す大金持ちにでもなった気分だ!
「それとな、ハルト。今回、ドグマの技術レベル最大値が七に更新されたんじゃが、支援はどうする?」
「もちろん、支援します」
「まだ金額を言っておらんのじゃが、いいのか?」
「構いませんよ。やってください、マドック錬金技師長」
気持ちいい、めっちゃ気持ちいい! 金額を聞かずに資金援助をするなんて、今までの懐事情では考えられなかったことだ。
お金を持っていると、言葉遣いも自然と上品になってしまいますな! まるで貴族にでもなった気分だ。こりゃたまらん!
「これでドグマの技術レベルは七になったぞ。残りの金額は四十万じゃ」
どうやら、今回技術レベルを一つ上げるのに三十万ゴールドかかったらしい。予想以上に高額ではあったが、必要な出費なのだから仕方がない。
それに残り四十万ゴールドもある。貴族ではないにしても、一般家庭の富裕層クラス程度はキープ出来ているだろう。
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