第31話 ゴスロリメイド姿の男の娘はお好きですか?
野生動物による縄張り争いの如く、知性の乏しいぶつかり合いをした俺とシオンは皆に取り押さえられた後、反省房に入れられた。
シオンはその後もしつこく俺をスパイと思い込んでいたようだが、マドック爺さんから俺の今までの戦いぶりや人となりを説明され、俺がスパイではないと理解した様子だった。
俺はと言うと、正直恥ずかしかった。現在ハルト・シュガーバインとしての俺は十八歳なのだが、中身は二十三歳の社会人だ。
それが、たかが高校一年生になりたてぐらいの少年の挑発に乗って、取っ組み合いの喧嘩をしたのだ。
「……情けない。恥ずかしい。何であんなことしちゃったんだろ? 皆と顔を合わせるのが怖いよぉ」
あの時は完全に頭にきていて周囲の反応は気にならなかったのだが、冷静になってみると皆の驚いたり呆れたりしていた表情がフラッシュバックする。
こんなはずじゃなかった。『第四ドグマ』に<サイフィード>と共に残り、あの大部隊や<ベルゼルファー>との戦いに勝利し、華々しく<ロシナンテ>に帰還して皆と無事に生き残れた喜びを分かち合うはずだった。
ティリアリアとも何かいい雰囲気になっていたし、俺が帰って来た時にもすごく嬉しそうにしていた。
そのまま行けば、あの後二人でいい感じになり、もしかしたらもしかしちゃったりしたかもしれない。
その全てを台無しにしたのが、あの名探偵気取りのクソガキだったのだ。そもそも、あいつは今回何をした?
救援に来たと言ってはいたが、<ロシナンテ>と<ウインディア>だけで追ってきた帝国の飛空艇は何とか出来ていたらしいし、『第四ドグマ』での撤退戦は俺が頑張って何とかした。
あいつ、特に何もしてないじゃん! なのに、何であんな偉そうなの? 何であんなドヤ顔できるの? バカなの? 死ぬの?
……いかん、いかん! ティリアリアの口癖が移った。
「シ~オ~ン~、この恨みはらさでおくべきか~」
結局、俺の中でシオンへの憎しみは変わらないのであった。
一晩反省房で過ごした後、俺は解放された。シャバの空気はうまかった。皆の反応が怖い俺は、びくびくしながら格納庫に向かう。
どのみち、俺の居場所はあそこだけなのだ。それに、迷惑をかけたのだから皆に謝らねばならない。
だが、シオンと顔を合わせた時、冷静でいられるかどうかが問題だ。あの生意気なドヤ顔を思い出すと腹が立つ。
まったく、親の顔が見てみたいものだ。いや、お母さん超美人で聡明でエロいんだよな~。
どうしてあんなできた母親に育てられて、あれだけ生意気な性格になったのか謎だ。
シオンを思い出しては怒り、母親のシェリンドンさんを思い出しては顔が緩む。そんな、情緒不安定な状況の中、俺はついに格納庫に到着した。
気分は高校入学直後の自己紹介みたいなものだろうか? 不安と恥ずかしさでいっぱいいっぱいだ。
格納庫の隅から様子を窺っていると、誰かにいきなり背中を叩かれた。
「こんなところで何をしているんじゃ、ハルト?」
「はうあっ!! あ、マドック爺さん!? びっくりしたじゃないか! 寿命が縮まったよ!」
その後、マドック爺さんに連れられていった俺は、皆の前で土下座した。
「昨日は、大変ご迷惑をかけてしまい申し訳ありませんでした! 今後はあのような失態を起こさぬよう、気を付けて行く所存であります!」
その後の皆の対応は優しかった。マドック爺さんから事の真相を聞いていたらしく、皆は同情的に接してくれた。
マドック爺さんも孫が失礼したと何度も平謝りをしてくれた。
この船で一番偉く、ご年配のマドック爺さんが一生懸命謝罪する姿を見て、俺は何だか泣きそうになった。
二ヶ月一緒にいて、いつの間にか爺さんを本当の祖父のように思っていたからだ。
スケベでどうしようもない爺さんだが、尊敬するこの人物にここまでの行動をさせた元凶に再び怒りが湧いてくる。
そう言えば、シオンの姿をまだ見ていない。どこに雲隠れしたんだ、あいつは?
こうなってしまった以上、同じ竜機兵操者であってもヤツとの全面戦争は避けられそうにない。
昨日のような殴り合いはさすがにしないが、仲直りすることは不可能だろう。あいつが今さら謝ってきたところで、多分俺は心から許せそうにない。
「あ、あの、すみません!」
真剣に悩む俺を背後から呼ぶ声が聞こえた。俺が振り返るとそこには……天使がいた!
フリフリのゴスロリメイド服に身を包んだ小柄な少女。頭にヘッドドレスを着けており、ロングの白い髪を後ろで太めの三つ編みにしている。
うるうるした青い瞳で俺をまっすぐに見つめている。こんなゴスロリ天使を『竜機大戦』で見た記憶はない。
フーアーユー?
「ええっと、君はどなた?」
「僕は……シオンです。昨日は失礼なことをたくさん言ってしまって……ごめんなさい!」
自分をシオンと名乗る少女は、角度九十度の謝罪のお辞儀をした。その状態を二十秒ほどキープし、顔を上げた際には不安そうな上目遣いで俺を見ていた。
目の端には涙が溜まり、顔を上げ終わった瞬間に頬を一筋の涙が流れて行った。こんな完璧な謝罪会見を俺は見たことがない。
混乱する思考を一生懸命整理していく。
「え……? シ、シオン? あのシオン? <シルフィード>の操者のシオン?」
「はい、そうです」
これはいったいどういうことなのだろうか? あのミスタークソガキのシオンが、目の前でゴスロリ可憐な美少女になっている。
おまけに物腰も柔らかいようだ。というか、シオンは男だったはず。それが、何故ゴスロリ?
もしかして、俺は反省房で一晩寝ている間に、別の世界線に来てしまったのだろうか?
にわかには信じがたいことだが、ゲームのスタートボタンを押した瞬間にゲームの世界に転生した俺ならば、パラレルワールドに飛ばされたとしても不思議ではない。
もしかして、ここはシオンがゴスロリ美少女である世界なのかもしれない。
「そうか、シオンは女の子だったんだね」
「いいえ、僕は男ですよ?」
「……それじゃ、男でそのゴスロリメイド衣装を着ている……ということでいいの?」
「はい、そうです。やっぱり変ですよね。似合っていないでしょうし」
もしも、このゴスロリシオンが可愛くない、似合ってないというのならば、ゴスロリ衣装に身を包んだ者たちの約九割は可愛くないということになるだろう。
それだけの可憐さをこの少女? 少年? は持っているのだ。
「そんなことない。めちゃくちゃ似合っているし、めちゃ可愛いよ」
「本当ですかぁ!?」
ゴスロリ少女の表情がパァッと明るくなる。こいつぁヤバい。あのクソガキの面影が一切ない。
この可憐なボクッ娘のインパクトが凄すぎて、昨日こいつに何を言われたかなんて正直どうでもよくなってくる。
「シオン、俺はもう気にしてないよ。俺の方こそ怒っちゃってごめんね」
シオンは少し大げさな感じで顔を左右に振って「そんなことないです」と否定する。動きが小動物みたいで可愛すぎる。
神よ、何故この子を男子としてこの世に誕生させた? これは、どう見ても女性であったはずなのに余計なパーツをくっ付けて生まれてきちゃったでしょう?
「随分と上機嫌のようですわね、ハルトさん?」
再び俺を呼ぶ声がして振り返ると、そこにはティリアリアとフレイアがいた。
ティリアリアは上品な喋り方をしてはいるが、これは俺が最初に持っていた聖女イメージをワザと再現しているに過ぎない。
彼女が公式の場以外でこのような喋り方で話しかけてくる時は、相当怒っている時だ。今も、汚い物を見るような目で俺を見つめている。
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