第五章 集う竜機兵

第30話 風の竜機兵

 俺は、先に撤退した<ロシナンテ>との合流を目指して合流ポイントに向かった。

 先の戦闘で一隻飛空艇の侵攻を許していたため、それが気がかりだった。

 飛空艇<ロシナンテ>には、<ウインディア>に乗ったフレイアが護衛についているから大丈夫だと思うが、飛空艇同士のエレメンタルキャノンの撃ち合いにでもなれば危険が伴う。

 だが、それは杞憂であったことをこの後すぐに知ることになるのであった。

 <ロシナンテ>との合流ポイントに到着した俺が見たのは、地上に落下し炎上する『ドルゼーバ帝国』所属の飛空艇<カローン>の姿だった。


「<カローン>が沈んでいる。フレイアがやったのか? フレイア、応答してくれ!」


 だが、この周囲にフレイアはおろか<ロシナンテ>の姿もなかった。


「いったいどうなってる? 誰がこれをやったんだ?」


 その時、視界の隅で何かが光った。直後コックピットの警報も鳴り敵の攻撃に備える。


「こんなところに敵が? いつの間に侵入を許したんだ!?」


 <ベルゼルファー>との戦闘で、<サイフィード>のEPはほとんど残っていない。

 できれば戦闘は避けたいと思っていた時に、その機体は雲の切れ間から姿を現した。

 天空でライトグリーンの装甲に太陽光が反射し、神秘的な雰囲気を感じさせる騎士が一体。


「あれは……間違いない。風の竜機兵<シルフィード>だ! でもどうしてあの機体がここに? 『アルヴィス王国』北側で敵の侵攻を食い止めているんじゃなかったっけ?」


『それなら残った連中に任せてきた。竜機兵が一機いなくなった程度ですぐにどうにかなるわけではないからな』


 いつの間にか互いの通信が繋がっていたらしい。冷静かつ中性的な声が聞こえてきた。さらに言えば少し生意気な感じが混じっている。


「シオン・エメラルドか?」


『よく知っているな。竜機兵操者についてはトップシークレットになっているはずだが、あの爺さんが教えたのか?』


 <サイフィード>のモニターに中性的な少年の姿が映し出される。もし、この少年を初対面の人が見たら、恐らく彼が男性なのか女性なのか判別を付けるのは難しいだろう。

 どちらの性別にしろ、〝美しい〟という表現が似合う外見をしている。特徴的な白髪は短く揃えられており、目は切れ長で体格は小柄で華奢だ。

 そういった外見であるからして、シオンは男女合わせたキャラクターの中でも一、二位を争う人気を誇っていた。

 俺も男性キャラではシオンがお気に入りのキャラだった。最初こそ小生意気なヤツだったが、ストーリーが進むごとに仲間思いの面が強くなり、大変人間味のあるキャラへと成長したのである。

 どこかの、中身が終始成長しない主人公に爪の垢を煎じて飲ませてやりたいほどだ。


「確か、お前はマドック爺さんの孫だったよな? あんまり似ていないね」


『マドックは父方の祖父だ。僕は母親似らしいからな』


 そう、このシオンのお母さん。ゲーム内ではマドック爺さんの弟子である錬金技師であり、さらには竜機兵チームが乗り込む飛空艇の船長を兼任するのだが、これがめちゃくちゃ美人なのだ。

 旦那さん、つまりマドック爺さんの息子でありシオンの父親は故人であり、母親のシェリンドンさんは女手一つでシオンを育てた。

 二人が並んだ姿は、もはや母子ではなく、姉弟といった感じになる。


 恥ずかしながら、『竜機大戦』においてティリアリアの次にお気に入りの女性キャラがこのシェリンドンさんだったりする。

 あの美貌と母性はもはや凶器以外の何ものでもない。ストーリーでも登場場面は多々あるので、一般的にもかなり人気があるキャラだ。

 

『……おい! 何をにやけている? 大丈夫か、お前?』


 おっと危ない! 頭の中でシェリンドンさんとのイベントが再生されて一瞬トリップしていた。

 ちなみに、シェリンドンさんは特定のイベントを起こすことで攻略対象になる隠れヒロインだった。

 彼女のイベント内容は、非常に甘々でエロかった。ゲームの年齢制限は大丈夫なのかと何度思ったことか。


「俺は大丈夫だ。ところでお母さんは元気?」


『どうして、僕の母親の話が出てくる?』


 やはり、今の俺は大丈夫ではないようだ。激戦の後で疲れているのもあるが、既に頭の中がシェリンドンさんのエロイベント関連で埋め尽くされている。

 早く帰って寝よう! そうしよう!


「今のは忘れてくれ。ところで<ロシナンテ>の皆は無事なのか?」


『無事だ。僕が駆け付けた時にあの飛空艇と戦闘していたが、手を貸さずとも十分に対応出来ていた。面倒だったので僕が落としたがな』


「そうだったのか。ありがとう」


『<ロシナンテ>には先に進んでもらった。最初はここで待つと渋っていたが、敵を食い止めている無謀者を僕が助けに行くと言ったら、ようやく納得してくれたよ』


「その無謀者って、俺のこと?」


『お前以外に誰がいる?』


 もしも、これがシオンとの初対面だったのなら、俺はこの美少年に対し大人げなくキレていたかもしれない。

 でも、この生意気さこそがシオン・エメラルドの持ち味だと知っている俺は全く動じない。

 なぜなら俺は大人だから。小生意気なチャイルドの言うことに一々腹を立ててやるほど子供ではない。


「そうか、それじゃ無事に合流できたことだし<ロシナンテ>に向かおう」


『ちょっと待て』


「どうした? 何か気になることでもあるのか?」


『僕が聞いた話では敵戦力はかなり大規模だったはずだ。それをお前一人でどうにかしたのか? 実に信じられない話だ』


 あれ? おやおやぁ?


「それはどういう意味かな? シオン君?」


『分からないのか? ちゃんと頭が働いていないようだな』


 おっふ! これは、中々くるものがありますな。


「俺、結構疲れてるんだよね。早く仲間のところに連れて行ってくれないかな?」


『仲間……か。正直に話したらどうだ? お前は、本当は敵のスパイじゃないのか?』


 なるほどー、そうきたかぁ。そうか、そうかぁ。


「素晴らしい想像力だね、シオン君。的外れもいいとこだけどな。それじゃ、行こう」


『敵のスパイでもなければ、お前のような間の抜けたヤツに敵の大部隊をどうにかできるとは思えない。そう、間の抜けたヤツにはな!』


 例え大人と言えど、堪忍袋の緒が切れる瞬間はある。例えば、初対面の生意気なガキンチョに根拠がゆるゆるの疑いをかけられた時。

 それこそ、その間違いをこっちがやんわり伝えても、お構いなしにさらに追及してきた時。

 そういった行動を、こっちがめちゃくちゃ疲れている時にされれば尚更だ。その時の大人の行動が気になる方は次の流れを見てください。


「ふざけんじゃねーぞ! このクソガキ!! 俺がスパイ!? その根拠が、俺が間抜けに見えるから!? 何だそれ!? よくそんな、すっかすかのジェ○ガみたいなぐらついた推理で言えたな? どこぞの少年名探偵にでもなったつもりか? はっきり言って、お前は名探偵の方じゃないから! どっちかって言うと、麻酔針くらって眠っちゃう側の方だから! あとさりげなく間抜けって二回言いやがったな、このクソガキ!!」


 はい、こうなりました。これでも俺、我慢したんだよ。頑張って戦ってきた直後に、「お前は間抜けに見えるからスパイ確定!」と言われたら、そりゃブチギレるでしょうよ。


『痛いところをつかれて逆ギレしたか!』


「痛いのはお前の脳みそだ! お前、何が何でも俺をスパイにしなけりゃ気が済まないんだな!? お前みたいなバカが冤罪を作り出すんだよ! 一回ママの所に帰って、論理的思考ってものを学び直して来い! このバカガキ!!」


『さっきから、バカバカバカバカと語彙ごいがないな! この低脳が!』


「お前にだけは言われたくないわ!! 今時、小学生の方がもっとまともな推理ができるっちゅーの!!」


 その後、俺たちは互いをバカ呼ばわりしながら<ロシナンテ>と合流した。

 奇跡の生還を果たした俺を労おうと皆が駆け寄ってきてくれたが、頭に血が上っていた俺は<サイフィード>から降りてすぐに<シルフィード>から降りてきたシオンと取っ組み合いの喧嘩を始めた。

 最初涙ながらに駆け寄ってきてくれたティリアリアであったが、周囲の人々に取り押さえられる俺とシオンを見て冷めた表情になっていた。

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