第21話 白い騎士は飛竜となりて

 言っておくが、個人的にこれは〝変形〟と呼べる代物ではない。


 <サイフィード>は人型から飛竜形態に姿を変える際、機体各部の形状を変化させ、さらに部分的にパーツを交換しているのだ。

 アニメなどで変形するロボットのプラモデル説明で、「パーツ一部差し替えにより変形を再現」という記述を見たことがないだろうか? 

 <サイフィード>はそれと同じことをやって、この変形モドキを成り立たせている。

 「差し替えパーツ」はストレージに保管しておいて変形時にパーツを交換しているのだ。

 そのため<サイフィード>の武器庫容量であるWPは4/10が基本になっている。

 この4と言う数字は変形に必要な「差し替えパーツ」のことでありバグではなかったのだ。


 マドック爺さんも最初は「完全変形」を目指していたらしい。しかし、複雑な変形はパーツの摩耗が激しく機体の寿命が短くなる、機体の耐久性が落ちる、変形に時間がかかれば隙だらけになる、など問題が多すぎて泣く泣く断念した。

 そんな時、ストレージから武器を取り出す装機兵の姿を見て、このやり方を思いついたらしい。


 その話を初めて聞いた時は爺さんが内に秘める〝狂気のロマン魂〟を感じて俺は震えた。

 この震えは〝恐怖〟と〝共感〟によるものだ。爺さんと同じく〝変形〟という二文字へのロマンは俺にもある。

 だからと言ってこんな無茶な変形方法を俺は思いつかない。というか絶対実行しない。プラモデルだって変形に使う差し替えパーツはそんなに多くはない。

 でも、<サイフィード>の変形では結構な量のパーツ差し替えや機体の一部形状変化をしなければならない。

 普通、こうまでして変形をさせようとは思わない。それでもあの手この手でやり遂げるあのマッドアルケミストはやはり只者ではない。


 こうして、グラサン錬金技師の狂気的なロマンの探求により飛竜形態へと<サイフィード>は姿を変えた。

 だが、遠心力や重力の波に呑まれたこの状況から逃れるのは非常に難しい。必死に機首である竜の頭部を上げようとしたり、翼を広げて減速をしているが落下が止まらない。


「くそっ! 上がれ、上がれ、上がれ、上がれ、上がれ、上がれ、上がれ、上がれ…………あがぁぁぁれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 ありったけのマナを動力部に送り込む。すると、<サイフィード>の各エナジスタルが輝き、エーテルで構成されている翼も光を放つ。

 

「パワーが上がった!? いけるか!?」


 既に地上は目前、これが体勢を立て直す最後のチャンス。力の限り機首を上げながら翼を羽ばたかせ尻尾のエーテルスラスターで重力に逆らう。


「よし! 機首が上がったぁぁぁぁぁぁ! 飛べぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」



 その様子は周囲から見れば絶望的なものだった。重力に必死に抗いもがきながらも成す術なく地上に吸い込まれるように落ちて行く白い竜の姿。

 白竜が地面近くまで落下した瞬間、周囲に土煙が広がっていった。その状況から誰もが<サイフィード>の大破並びに操者であるハルトの死亡を確信した。

 もしも奇跡的に機体が原型を留めていたとしても、搭乗者はその衝撃で助からない。そんな絶望的な雰囲気が『第四ドグマ』の作戦室に広がっていた。

 一部始終をここから見ていたティリアリアは、力なくぺたんと座り込み首を横に振っている。


「ウソ……ウソ……だよね? ハルト……ハルト……返事してよぉ……」


 <サイフィード>のコックピットと繋がっていたエーテル通信用のモニターはノイズで映像も音声も不通になっていた。

 ティリアリアの傍らにいたマドックもうなだれ、拳を握りしめている。その時、作戦室の誰かの声が響く。


「おいっ! あれを見ろ! 土煙の中で何かが動いてるぞ!!」


 その言葉を聞いてティリアリアとマドックが彼の指さす方向に目を凝らす。すると、土煙の中から一頭の白い竜が地面すれすれで飛び出してきたのである。

 その瞬間、作戦室内で歓声が巻き起こった。ティリアリアとマドックも互いの手を合わせて「わああああああああ!!」と歓声を上げていた。



「ヤバかった……今のは本当にヤバかった……よく助かったなぁ、俺」


 地面すれすれを飛行する<サイフィード>のコックピット内で、俺は少し放心気味に自らの奇跡の生還に驚いていた。

 地面直撃寸前の悪あがきで、何とかギリギリ機体のコントロールが戻った。

少しずつ高度を上げて飛行に問題がないことを確認していると、上空にあの憎き鳥型装機兵の姿があることに気が付く。

 すると、俺の中で沸々と怒りの感情が煮えたぎってくるのが分かった。こんなに頭にきたのは生まれて初めてだ。

 こっちは危うく殺されかけた。それも空高くから逆ハンマー投げをされるという前代未聞のやり方で。

 あの猛禽類の成れの果てを、この手でボコボコにしなければ気が収まらない。絶対に俺の手でぶっ殺す!

 

「行くぞ!! <サイフィード>!! さっきの借りを返してやる!!」


 遥か上空にいる<フレスベルグ>目がけて、飛竜となった<サイフィード>の頭部を真上に向け、翼と全エーテルスラスターを最大にして急浮上を行う。

 まるで宇宙に向かって発射したロケットの如く、天空への最短コースを猛スピードで駆け昇る。

 そんな白竜の姿に驚いたのか、<フレスベルグ>は明らかに動揺した様子で俺から距離を取り始めた。


「逃がすか! 鳥と竜の格の違いを見せてやる! 覚悟しろ!!」

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