第20話 襲撃の巨鳥

『ハルトっ!!』


「フレイアか!? どこだ?」


『お前の左後方にいる。二体目の重騎士型をもう倒したのか?』


 モニターで確認すると<ウインディア>がエーテルスラスターを最大にして猛スピードで付いてきていた。

 敵残存部隊の狙いが『第四ドグマ』だと気付いて俺と同じように全力で敵を追っているようだ。


「<サイフィード>の術式兵装で一発で仕留めた。残りの一機もこれでやれると思う。フレイアは作戦通りに<ガズ>を倒してくれ」


『分かった!』


 敵部隊を正面に捉え、俺は<サイフィード>を大ジャンプさせる。さっきと同じように、落下速度を加えたコールブランドで残り一機の<ヴァジュラ>を倒せば脅威はいなくなる。

 勝利の二文字が現実味を帯びた瞬間、コクピット内にティリアリアの声が木霊した。


『ハルト逃げて!!』


「え?」


 その直後、敵接近のアラートが鳴った瞬間ものすごい衝撃が俺を襲った。


「ぐはっ! な、何だ!?」


 モニターを確認すると、<サイフィード>の後方に巨大な鳥がいた。いや、そいつが鳥のはずはなかった。

 そいつは明らかに<サイフィード>を上回るサイズだったのだ。恐らく体長二十   メートル前後はあるだろう。

 そのモンスターは巨大な翼を広げ、<サイフィード>に向かって来る。


「くそっ! 何なんだコイツは!?」


 エーテルスラスターで空中を移動し、何とか巨鳥の突進をかわす。敵を正面に据えて『鑑定』スキルで情報を確認する。

 

【フレスベルグ】

HP14000 EP230 火力1500 装甲2000 運動性能200

属性:風

武器:突撃、ワイヤークロー、捕縛

術式兵装:エレメンタルキャノン(風)


 その名前に俺は動揺を隠せなかった。しっかり敵の姿を見ると確かに見覚えのある外見をしている。


「どうして<フレスベルグ>がこんな時期にいるんだよ!? こいつはストーリーの中盤以降に出てくる機体じゃないか!?」


 <フレスベルグ>は『ドルゼーバ帝国』の飛行型装機兵で物語の中盤から姿を現す機体だ。

 通常、装機兵は十六メートル前後の大きさなのだが、こいつはそれを軽く上回る二十メートルサイズの怪物だ。

 鷲をモチーフとしており、空中から襲い掛かってくる。火力と装甲は大したことはないが高いHPと運動性能でプレイヤーを翻弄する非常に戦いにくい相手だ。

 動きが速いので普通に攻撃をしたら結構な確率で躱される。そのため、命中率を上昇させるスキルを使用しての戦いが必須になる相手だった。

 

 プレイヤーの戦力が整い始める中盤の強敵が、序盤に当たる今目の前にいる。いくら何でも出番が前倒しすぎるだろ!

 そうこうしている間に再び<フレスベルグ>が接近してくる。


「くっ、まずい! こいつは攻撃は貧弱だけど捕まったら厄介だ! とにかく地上に下りないと!」


 急いで<サイフィード>を急降下させるが、そうはさせまいと巨鳥が何度も突進してくる。

 エーテルスラスターを活用して躱すが、ついに連続使用の限界をむかえ停止してしまう。


「ヤバい! エーテルスラスターが!」


 メインエーテルスラスターであるエーテルマントで何とか姿勢制御を取るが、明らかに動きが鈍くなった<サイフィード>を見逃す猛禽類の怪物ではなかった。

 左右のワイヤークローを射出して、<サイフィード>の右腕と左脚を掴むとそのまま急上昇していく。

 身動きが取れないまま、俺は成す術なく天空に連行された。気が付くと、<サイフィード>は敵飛空艇の高度よりもはるか上空で吊るされていた。


「うそだろ……これ……いくら何でも……」


 地上の建物が米粒よりも小さい光景に青ざめる中、モニター越しに見た<フレスベルグ>は、猛禽類ばりの鋭い目を怪しく光らせ空中で回転を始めた。

 ヤツのワイヤークローで固定された<サイフィード>に強烈な遠心力が加わり、俺は意識が遠くなっていく。

 それがしばらく続いた後、突然振り回される感覚がなくなり、代わりに真下にすごい力で吸い込まれていくような感覚に襲われる。

 吸い込まれる力は段々強くなり、まるで強力な磁石で引っ張られていくような感じだ。

 意識が朦朧とする中、このままではヤバいということだけは分かった。でもそこから先へ思考が進まない。


『……と……ると……は……ると……はると……ハルト!……ハルトッ!!』


 最初はおぼろげだった音が段々鮮明になっていき、それが俺を呼ぶ声だと少しして気が付く。

 まるで水をかけられたかのように俺の意識は一気に覚醒した。


「え? ……はっ! ここは!?」


『良かったぁ……ハルト生きてたぁ……!』


 モニターには泣きじゃくるティリアリアの姿が映っていた。


「もしかして、俺意識を失ってた? どれくらい?」


『ほんの十数秒! そんなことより早く減速しないと!』


「え? ……ええええええ!!」


 現在<サイフィード>は地上に向かって猛スピードで落下中だった。

<フレスベルグ>は、ご丁寧にハンマー投げのように回転しながら俺を地上目がけて投げ飛ばしてくれたようだ。

 おかげで気を抜けば再び意識を持って行かれそうな重圧が俺にのしかかってくる。コックピット周りのエーテルによる生命維持機能がなければ、とっくに圧死していたかもしれない。

 

「くぅぅぅぅぅぅぅ! エーテルスラスター全開!!」


 ものすごい重圧がかかる中、俺は再度使用可能になっていたエーテルスラスターを最大出力で放出し落下の減速にかかる。

 だが、現実は非情だった。限界までエーテルスラスターを使用するも、落下速度を完全に相殺することはできず白い竜騎士は地上目がけて落ちて行く。

 

「何か……何か手はないのか? このままじゃ……!」


『ハルトッ! 何をしておる!! あれを使え!! <サイフィード>に追加したあの機能を使えば何とかなる!!』


「あの機能? ……あっ! あれか!! 忘れてた!!」


 モニターの向こう側ではティリアリアは泣きじゃくり、マドック爺さんは興奮し、めちゃくちゃの状況だ。

 けれど、こっちはそれ以上にめちゃくちゃだ。このまま行けば確実にあの世行きなのだから。

 俺は急いで追加された例の機能を起動させた。すると、<サイフィード>のドラグエナジスタルと両肩のアークエナジスタルが光り、機体に変化が生じる。


 両腕の形状が変化し、手は三本の鋭い爪になり、両脚は結合してしなりながら延長する。

 頭部の形状は完全に別物になり、首が伸びる。背部のメインエーテルスラスターも形が変わりマントではなく巨大な翼を生成する。

 地面目がけて落下していた白い巨人は一瞬で白い飛竜へと姿を変えた。

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