第19話 術式兵装

 まずは近場にいる一機目を狙う。だが、<ヴァジュラ>の周囲には一緒に下りてきた<ガズ>が五機もいた。

 一機ずつ相手をしている余裕はない。だからこそ、俺の十八番おはこを早々に使わせてもらう。

 武器のイメージを送り込み、<サイフィード>の右肩にあるアークエナジスタルが輝く。

 光の中から剣の柄が出現し、左手で引き抜くと最初から刀身のある剣が姿を現した。

 <サイフィード>に気が付いた<ガズ>の集団が横一列になってこっちに向かって来る。


「実に理想的な構図だ。これなら一気に潰せる! 〝ワイヤーブレード〟!」


 <サイフィード>の左手に装備した剣を思い切り振う。それと同時に鞭で敵を薙ぎ払うイメージを描く。

 すると、剣の刀身がいくつにも分割し、鞭のようにしなりながら<ガズ>の集団全機に直撃した。

 一撃では仕留めきれなかったが、連中は既に虫の息。立て続けに、もう一回連中に斬りつける。

 二撃目までのタイムロスがほとんどなく、態勢を立て直す暇もなかった<ガズ>五機は、再び襲い来る剣の鞭を躱すことはできずに、全機同時に斬りつけられる。

 この二回目の斬撃で五機のHPは0になり、まもなく爆散した。


 今しがた使用した武器の名は〝ワイヤーブレード〟と言い、フリーシナリオで俺が愛用していた武器だ。

 一般的には〇リアンソードとか蛇腹剣じゃばらけんの名で親しまれているロマン溢れる武器である。

 通常の剣と同じ外見をしているが、刀身の真ん中には強靭なワイヤーが仕込まれていて、鞭のようにしなりながら、いくつにも分割された刃で敵を斬ることができる。

 フリーシナリオにおいて俺は接近戦至上主義者をうたっており、遠距離攻撃の術式兵装に頼らず遠くの敵を攻撃できる武器を探していた。

 そんな時に出会ったのが、『錬金工房ドグマ』の技術レベル三で開発されるワイヤーブレードだった。

 武器形態が剣に分類されているため、操者の近接攻撃のステータスがダメージに反映される。

 まさに俺のために用意されたのでないかと思えるような理想の武器なのである。術式兵装とは違って連続で攻撃できるし、マナは使用しないし、カッコいいしのイケてる武器だ。


 唯一欠点があるとすれば、それは攻撃力が低いという点だ。ネットの攻略掲示板では「威力低すぎて使えない」と評価は低かったが、そこはアバターの近接攻撃のステータス向上、パッシブスキル『インファイター』による近接武器威力の向上、熟練度レベルアップによる威力の底上げなどでカバーした。

 すると二~三回で雑魚敵を一掃できる実用的なロマン武器へと進化したのである。これがあるとないとでは、雑魚処理の速度が大きく変わってくる。

 事前にドグマの技術レベルを三に引き上げておいて本当に良かった。おかげでこの戦いの前にワイヤーブレードの実装がギリギリ間に合った。


「よし! 敵を五機撃破! 次の標的は<ヴァジュラ>だ! ……ってうわぁっ!!」


 意気込む俺の目の前に、突如<ヴァジュラ>が現れた。

 いや、最初から近くでこっちの出方を窺っていたのだろうが、ワイヤーブレードの活躍で調子に乗って視野が狭くなっていた俺は敵の接近に気が付かなかったのだ。


「くそっ! やられるかっつーの!!」


 ワイヤーブレードの刀身を通常に戻し、<ヴァジュラ>の剣の斬撃を受け止める。鍔迫り合いで火花が飛び散る。


「くっ! さすがに<ガズ>と同じようにはいかないか。大したパワーだ……けどさ!!」


 刀身で<ヴァジュラ>の剣を流して距離を取る。それと同時にワイヤーブレードを鞭状に変化せて中距離攻撃を叩き込む。

 分割された刃は中心のワイヤーで繋がれ、しなりながら<ヴァジュラ>に向かって行く。

 敵は刃がぶつかる寸前で剣を構えて防御しようとするが、その瞬間に手首のスナップを利かせながら複雑な軌道をイメージする。

 ワイヤーブレードは俺のイメージ通りの軌跡を描いて<ヴァジュラ>の防御をすり抜け胴体を斬りつけた。

 だが、本来雑魚処理用の武器なので威力が低く大したダメージにならない。

 

「やっぱりだめかぁ。それなら正攻法で行くっきゃないな!」


 ワイヤーブレードをストレージにしまいつつ、左肩のアークエナジスタルから取り出したエーテルブレードに持ち変える。

 鍔の部分からエーテルの粒子が放出され金属製の刀身が固定される。

 単体への攻撃力ならエーテルブレードの方が優れているし、いざとなれば〝アレ〟を即座に使用できる。


「スキル『超反応』セット! 行くぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 スキルで回避と命中を上乗せして、敵に突っ込んで行く。再び互いの剣がぶつかり合い刀身から火花が散る。

 ワイヤーブレードとは違いエーテルブレードは刀身がエーテルで構成されており、頑丈でパワーもある。

 これなら、<ヴァジュラ>にもパワー負けしない。鍔競り合いで押し切り、力任せに斬りつけると剣で防御した敵をさらに後方に吹き飛ばした。


「いけるっ! パワーもスピードもこっちが上だ!」


 脚部のエーテルスラスターを起動させ、スピードを上げて急接近し敵の目の前でさらに加速する。

 すれ違いざまに敵の胴体に横一文字に斬りつける。一撃で倒すことはできなかったが、敵のHPは三分の二まで減っていた。

 単純計算で、あと二回ぶった斬れば倒せる!


「落ちろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 振り向きざまに一撃浴びせ、よろめいたところに敵の左上方から袈裟掛けに思い切り斬り込む。

 エーテルブレードは<ヴァジュラ>の装甲を深々と斬り裂き、HPも0になった。距離を取って敵が爆発炎上するのを見届けた。


「やった……! <ヴァジュラ>を倒せた! これならやれる!」


 一体目を倒した俺は、二体目の<ヴァジュラ>に向かって移動を開始した。

 モニターで<ガズ>部隊と戦闘中のフレイアの状況を確認すると、素早い動きで敵を翻弄し斬撃を浴びせていく<ウインディア>の姿があった。


「す、すごい……無強化の<ウインディア>をどう操れば、あんな動きができるんだ?」


 単純にステータスだけで比較すれば俺はフレイアを圧倒している。だが、彼女の戦い方を見ると、戦闘における優劣はそれだけでは決まらない。

 剣術、間合いの取り方、咄嗟の判断力、その他諸々も含め戦いに影響を及ぼしている。フレイアはそういったセンスがずば抜けて高い。

 自分のステータスの高さや豊富なスキルに慢心していたつもりはないけど、まだまだ俺に足りないものはたくさんある。

 強くなるために、生き残るために、守るために、俺はフレイアのようなセンスを磨かなければならない。

 そのためにまずは、この戦いを生き延びなければならない。


「いたっ! 二体目!」


 <ウインディア>と戦闘中の<ガズ>部隊の後方で、『第四ドグマ』に向かって単独行動をしている青い機体を発見した。

 

「仲間を囮にして、先に本丸を落とすつもりか!? そんなことさせてたまるか!!」


 こいつを相手にちんたら戦っている余裕はない。この部隊は地上に降下した三つの部隊のうちの二つ目だ。

 ということは、ノーマークで動いているもう一つの部隊がいる。敵の反応を探ると、案の定俺たちを無視して『第四ドグマ』に向かっていた。

 

「一気に決める! 行くぞ、<サイフィード>!」


 <サイフィード>のエーテルスラスターを全開にし、空高く跳躍する。続けて青い<ヴァジュラ>目がけて落下しながら、俺は新しく追加された力を解放する。


術式解凍じゅつしきかいとう! 〝コールブランド〟!!」


 <サイフィード>の剣であるエーテルブレードの刀身が光り輝き、高出力のエーテルの刃へと姿を変えた。

 そのまま眼下からこちらを睨む<ヴァジュラ>に突っ込んで行く。


「うおおおおおおおおおおりゃああああああああああああ!!!」


 落下と同時に閃光の斬撃を敵に振り下ろす。<ヴァジュラ>は剣で受け止めようとするが、光の刃は敵の刀身を一瞬で破壊し、そのまま重騎士の身体を真っ二つにした。


「なっ! 一撃でいけた!? はっ! やべっ!!」


 俺は急いで<サイフィード>を下がらせる。敵の爆発で少し吹き飛ばされながらも、すぐに体勢を立て直し『第四ドグマ』に向かっている最後の部隊を追う。

 その中で、俺は<サイフィード>の力に驚いていた。さっき使用した術式兵装〝コールブランド〟は、エーテルブレードの刀身に大出力のエーテルを送り込み斬撃を浴びせるというものだ。

 EP30とマナ20を消費する比較的使い勝手のいい必殺技なのだが、まさか一太刀でHP約一万の<ヴァジュラ>を倒せるとは思っていなかった。

 ついでに言えば、俺のパッシブスキル『省エネ』の効果で消費EPは24になってるし、『マナ回復』で徐々にマナは回復しているしで現状でも連発可能だ。

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