第22話 天空の決戦

 飛竜となった<サイフィード>は、鳥型の装機兵<フレスベルグ>に向かって行く。

 鳥と言っても向こうはこっちよりもでかい巨鳥なのだが、空を飛ぶことができるのならもう怖くはない。

 純粋な戦闘機のシューティングゲームはあまりプレイしたことはないが、戦闘機が人型のロボットに変形するシューティングゲームなら昔やり込んでいたので、あれと同じ感覚でやればいけるだろう。


「使える武器は……これか! 食らえ!」


 飛竜形態の<サイフィード>の基本的な武器は〝ドラゴンブレス〟だけだった。

 エレメンタルキャノンに代わる武装のようで、あまり威力は高くないがEP10つまりスキル補正込みだとEP8で使用できるので割と気兼ねなく使える。

 いざ使ってみると、飛竜となった<サイフィード>の頭部前方から圧縮したエーテルの弾が発射された。

 その光弾はあっさりかわされた。


「そうだった! <フレスベルグ>はやたら回避能力の高い機体だった。ならセオリー通りに『完全命中』で当てて行くか?」


 『完全命中』は一度だけ確実に敵に攻撃を当てることができるバトルスキルだ。しかし、ここでスキルに頼るのは何か負けた気がしてしゃくだ。

 すると、突然あるアイディアが思いつく。これができれば今後も応用が利く。いざ実践だ。


「ワイヤーブレードセット! いけるかっ!?」


 ワイヤーブレードのつかを三本爪になった左手で把持すると、思ったよりもちゃんと持つことができたので一安心。

 肝心なのはここからだ。猛スピードで逃げ回る<フレスベルグ>の後ろに張り付きながら少しずつ距離を縮めていく。


「よし! この距離なら届く。いけぇっ!!」


 ワイヤーブレードの切っ先を前方を飛ぶ巨鳥に向けて、刀身を伸ばす。本来なら鞭のように振りながら刀身を伸ばすのだが、こういう使い方もできる。

 伸びた刀身は敵の翼をかすめたのみで直撃はしなかったが、何となく感覚は掴めた。


「さっきお前が<サイフィード>にやったのと同じことをしてやる! それも倍返しだ!! 食らえぇぇぇぇぇ!!」


 より接近して、再びワイヤーブレードの刀身を伸ばす。今度は敵に当たる直前でしなりを加えて、ヤツの首に蛇腹状になった刃を巻きつかせる。

 しっかり巻き付いた上に刃が敵の装甲に食い込んでいるので、そう簡単に外すことはできない。


「掴まえたっ!! これで自由に動けないだろ! ブレスッ!」

 

 ワイヤーブレードで敵の動きを制限したところにブレスを数発撃ち込んだ。<フレスベルグ>の翼にダメージを与えることはできたが決定打にはならない。


「やっぱりこれじゃ威力が無さすぎるか……それなら!」


 <フレスベルグ>の首に巻き付けた蛇腹の刀身を通常の状態に戻していく。

 それと同時に<サイフィード>を飛竜形態から人型へと戻し、全エーテルスラスターを最大にして突撃する。

 ワイヤーブレードをガイドにして、<サイフィード>は憎き巨鳥目指して真っすぐ

に飛んでいく。


「これならもう逃げられない! 次の一撃で終わらせる! 術式解凍じゅつしきかいとうォォォォォ!」


 竜機兵の術式兵装には竜の名を冠する特殊なものがある。それはいずれも一撃必殺の威力を持つ強力なものであり、これこそ竜機兵が最強の存在だと言わしめる所以ゆえんだ。

 フリーシナリオでアバターを躍起になって育てていたのは、自分が鍛えたキャラで、この最強の必殺技を使いたかったからに他ならない。

 その思いが、今ここで現実になる。


 <サイフィード>の右前腕の装甲が解放、内蔵されたアークエナジスタルが露出し始動すると膨大なエーテルが右手に集中する。

 これが俺の専用機、竜機兵<サイフィード>一撃必殺の術式兵装。


「食らえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!! バハムートォォォォォォォォォォォォ!!!」


 <フレスベルグ>に衝突すると同時にヤツの背部に術式兵装〝バハムート〟を叩き込む。

 右手に集中させた超高出力のエーテルの塊は、巨鳥の装甲を易々と貫通しその内部をも破壊していった。


「<フレスベルグ>……お前は強かったよ。<サイフィード>に飛竜形態が無ければ確実にお前が勝っていた。お前の敗因はロマンを諦めない、あの天才錬金技師を敵に回したことだ。…………じゃあな!!」


 右手に集中させたエーテルを余すことなく<フレスベルグ>に放ち、<サイフィード>を離脱させた。

 力なく落下していった<フレスベルグ>は、下方にいた飛空艇<カローン>一隻の艦橋に衝突し一緒に大爆発を起こしバラバラになった。


「はぁ……はぁ……はぁ……、やった……倒したぞ……! そうだ! <ヴァジュラ>がまだ一機残ってた!」


 <サイフィード>を飛竜形態にして『第四ドグマ』付近まで侵攻していた装機兵部隊のもとへ急行すると、そこには破壊された五機の<ガズ>と左腕を失いながらも<ヴァジュラ>を仕留めた<ウインディア>の姿があった。

 <ウインディア>のHPは半分以下になっており、激戦であったことが分かる。


「フレイアッ! 無事か!?」


『ああ、問題ない。そっちこそとんでもない戦闘だったな。……驚いたよ』


「俺も驚いた。まさか<サイフィード>に、これだけの力があったなんてさ」


『うん? 私が驚いたのは機体の方ではないんだが』


「え? こいつ以外に驚くものなんかあったか?」


『……はぁ、自覚無し、か……まぁ、いいか』


 装機兵全てと飛空艇一隻を失い、『ドルゼーバ帝国』の残り二隻の飛空艇<カローン>は撤退していった。

 こうして、『第四ドグマ』防衛戦は俺たち『アルヴィス王国』側の勝利に終わった。

 けれど、これは終わりなどではなく、ゲームとは内容が大きく異なるイレギュラーだらけな戦いの始まりに過ぎないということを、この時の俺は知る由もなかった。

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