第15話 インターミッション
俺達が『第六ドグマ』を脱出した二日後、飛空艇<ロシナンテ>は『第四ドグマ』に入港した。
『第四ドグマ』は『第六ドグマ』と同様に『アルヴィス王国』の南方に位置する施設で、やや内陸側に位置する。
俺達は『第六ドグマ』を脱出した直後、エーテル通信で周辺の騎士団施設に連絡を入れたが、その全てが『ドルゼーバ帝国』の奇襲を受けて壊滅していた。
そのような中でようやく連絡がついたのが、ここ『第四ドグマ』だった。
<ロシナンテ>が到着してすぐに、俺はマドック爺さんの指示で<サイフィード>を稼働させ、工場区に移動した。
調整不足だった<サイフィード>をここの設備を使って、急ピッチで調整するらしい。
敵の攻撃がいつ来てもおかしくない状況であるため一刻の猶予もないのだ。
少し気になったのは<サイフィード>を動かしている時にモニター越しに見た、ここの錬金技師たちの表情だ。
機能不全だと思われていた<サイフィード>が動いている姿を見て、全員目をギラつかせていた。ものすごい興味津々な様子で正直ちょっと怖かった。
現在マドック爺さんを始めとする、錬金技師チームが<サイフィード>の調整をしている。
俺はその様子を少し離れた場所から見ていた。ここの職員から聞いた話だと、『第六ドグマ』が襲撃を受けたあの日、『アルヴィス王国』の北側と南側にある装機兵関連の施設が『ドルゼーバ帝国』の装機兵部隊によって一斉に襲撃を受けたらしい。
その結果、帝国に睨みを利かせていた北方は被害を最小限に抑えることができたが、戦力が手薄な南方は相当な被害が出た。
俺達がいた『第六ドグマ』は壊滅し、その周辺の騎士団の施設も同じように落とされた。
恐らく、この『第四ドグマ』が『アルヴィス王国』南方の防衛ライン最前線なのだろう。
つまり、いつ敵に襲われてもおかしくない。だから、マドック爺さんたちは<サイフィード>の調整を急いでいるのだ。
王都に救援要請をしても、余裕がないから増援は見込めないの一点張りだった。どうせ、自分たちの安全確保を優先して出た言葉に違いないだろう。
ゲームでも、竜機兵チームが色んな場所を転戦して敵の主戦力を葬っていったので、王都の騎士団があまり活躍した印象はない。
彼らはいつも敵装機兵にボコボコにされて竜機兵チームが救援に行っていたのだ。そう言えば、その主人公御一行様は今頃何をしているのだろう?
時期的には、稼働している竜機兵は風の竜機兵<シルフィード>のみで、まだ水の竜機兵<アクアヴェイル>は最終調整中、大地の竜機兵<グランディーネ>と炎の竜機兵<ヴァンフレア>については組み立て中で、実戦で使えるレベルではないだろう。
ゲームでは、ストーリー序盤は北方にある『第三ドグマ』周辺の防衛をしていたかな? 最初の頃は竜機兵が揃っておらず展開がちょっと地味なのであんまりよく覚えていない。
フリーシナリオが実装されてからは、そっちばかりやっていたからなおさらだ。
「おーい、ハルトー。少しいいかの?」
「マドック爺さん、どうかしたの?」
<サイフィード>の調整につきっきりだったマドック爺さんが、俺を呼んでいたので近くに行ってみた。
「ハルト、先日の戦いで三万ゴールドの資金を入手したんじゃが、お前さん何に使う?」
「え? 何に使うって、俺が決めてもいいの?」
「もちろんじゃ、お前さんが敵装機兵を倒して入手した資金じゃからの」
一体、いつどうやってそんな金を入手したんだ? 謎すぎる。それに、この展開には見覚えがあるのだが。
「まあ、使い道としては装機兵の強化に使うか、もしくは『錬金工房ドグマ』に出資して技術レベルを上げるかの二択じゃがの」
まさかのインターミッションだった。インターミッションとは、ストーリーの合間に入る準備期間だ。
ゲーム『竜機大戦ヴァンフレア』において、インターミッションでは戦闘で手に入れた資金を使って装機兵の強化や『錬金工房ドグマ』に出資することで技術レベルを上げ、新しい武器の開発や装機兵の開発を行っていた。
『錬金工房ドグマ』への出資はフリーシナリオに実装されたものであるが、技術レベルが上がれば上がるほど強力な武器が使用できるようになったので、とても面白い要素だった。
まさか、この転生した世界でも、戦闘で入手したお金で機体強化や投資をできるとは思っていなかったので驚いた。
変なところでゲームっぽさが残っているんだよね、この世界。こっちとしては、その方がとっつきやすいので助かるからいいんだけど。
「あのさ、マドック爺さん。『ドグマ』の技術レベルを三まで上げるのにはいくらかかる?」
「レベル三には一万五千ゴールドかかるの。ちなみに、現状では上げられる技術レベルは三が最大じゃ」
なるほど。フリーシナリオでもそうだったが、シナリオの進行状況によって技術レベルの最大値が決められているようだ。
でも、とりあえずレベル三まで上げられれば問題ない。ゲームと同じなら、このレベル三で俺が必要とする武器が入手できるはずなのだ。
「それじゃ、技術レベルを三にしよう。残りの一万五千ゴールドは<サイフィード>の強化に回すよ」
「分かった。それじゃ、それで行くぞ」
予想通りというか、何というか。装機兵の強化は、HP、EP、火力、装甲、運動性能の五項目に分かれていて、各最大十段階まで強化が可能となっている。
機体の戦闘スタイルに合わせて、長所を伸ばすか短所を補強するか、ここが強化場面の醍醐味だ。
ちなみに俺の場合は長所を伸ばしつつ、短所も少し強化していくという感じでやっていくのが好みだ。
強化する項目によって必要な金額も多少異なるので、とりあえずは手持ちの資金でなるべくたくさん強化できるようにしたい。
EPは強化の際、必要なお金が比較的少ないので一気に五段階くらいまで上げてみる。
マドック爺さんが術式兵装を実装してくれたので、今後の戦いではEPの残量にも注意しながら戦う必要がある。
後は火力を二段階、装甲を一段階、運動性能を二段階上げた。まずはこんな感じでいいだろう。
敵の攻撃を回避し、敵を一撃で倒し、安全のため防御を上げる。HPに関して当面は、余ったお金で強化していく感じで問題ないはずだ。
今回強化した後の<サイフィード>のステータスはこんな感じだ。
【サイフィード】
HP3000 EP300 火力2200 装甲2100 運動性能145
ちなみに個々の武器に関しては、資金を使って強化することはできない。武器は何度も使用していくことで熟練度が上がり、攻撃力が上昇する仕組みだ。
熟練度はLv10が最大となっており、強力な武器や術式兵装は、頻繁には使えないためかレベルアップに必要な熟練度が少なめになっている。
一方、普段使いするエーテルブレードなどは相当使い込まないと熟練度レベルは上がらないので、基本的には同一の武器を使い続けることが攻撃力を上げる近道と言える。
「ああ、そうそう、ハルト。<サイフィード>なんじゃが、未完成で放置していた機能を使えるようにしておいた。戦術の幅が広がるからちゃんと確認しておくんじゃぞ」
「へえ、面白いね。爺さん、どんな機能なの?」
「気になるのなら、後で自分の目で確認してみるんじゃな」
「何だよ、もったいぶって。後とは言わず今見てくるよ」
マドック爺さんはニヤニヤしながら俺の後をついてくる。サングラス着けてその笑顔は危険な香りがするからあまりやらん方がいいぞ、爺さん。
俺は<サイフィード>のコックピットで、爺さん自慢の追加機能をステータス画面を呼び出し確認してみた。
その内容は驚くべきものだった。こんなものは、他の装機兵、いや他の竜機兵にさえ搭載されていない。
爺さんの言う通り、これを上手く使えば<サイフィード>単体で幅広い戦術が展開できるだろう。
「どうじゃ、気に入ったかの?」
「気に入るも何も、最高だよマドック爺さん! 爺さんは本当に最高の錬金技師だ!」
サングラスの奥の爺さんの目を直接見ることはできなかったが、少し泣いているように見えたのは気のせいだろうか?
「嬉しいことを言ってくれるの。そんなに喜んでくれるとは錬金技師
どうやら、気のせいではなかったらしい。風の竜機兵<シルフィード>の操者シオンはマドック爺さんの孫なのだが、基本爺さんは孫から塩対応を受けているので、近親者からの情に飢えているのかもしれない。
俺は爺さんと話が合うし一緒にいて楽しいし孫に代わって祖父孝行させてもらうよ。
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