第14話 月夜の脱出
いくら敵が最弱といっても、こちらも機体が未強化であるため、本来なら基本装備のエーテルブレードでは一撃で敵を
現在、そのワンパンを可能にしているのは、パッシブスキル『インファイター』とバトルスキル『蹂躙』の併用による恩恵だろう。
『インファイター』は装機兵の近接武器の攻撃力を底上げする効果がある。Lv1~10まであり、俺は当然最大値のLv10まで上げている。
加えて、バトルスキル『超反応』を使用しているおかげで、敵の動きに十分対応できる。回避や剣での鍔迫り合いを経て、反撃で一機、また一機と撃破していく。
「残り三体! あともう少しだ!」
スキル効果時間の終了が近づいていたので、ここで再び『蹂躙』、『超反応』、『竜鱗』を発動させ、残りの敵の駆逐にあたる。
念には念を入れるのが、このゲームで生き残る秘訣だった。油断して、突如出現した敵の増援にボコボコにされた経験は数えきれない。
<サイフィード>が残りの三機に斬りかかろうとした時、連中は後方に跳び退いて距離を取る。
同時に掌に魔法陣を展開しているのが見えた。
「! 〝
俺の読み通りに、<ガズ>三機は魔法陣から術式兵装エレメンタルキャノンを撃ってきた。
俺は<サイフィード>を左右にステップさせ、全部回避する。
エレメンタルキャノンはほぼ全ての装機兵に搭載されている術式兵装で、集中させたエーテルの砲弾を発射するというものだ。
〝術式兵装〟は必殺技や魔法のような位置づけの武装で、機体のEPや操者のマナを使って、通常武器よりも強力な攻撃ができる。
一方、<サイフィード>の武器はエーテルブレードのみなので、脳筋戦士のような物理攻撃しかできない。
「接近戦じゃ勝てないから遠距離戦でいこうって腹か! でもその選択が命取りなんだよ!!」
術式兵装の使用にはマナを使用する。<ガズ>に乗っているような下級操者は、はっきり言ってそんなにマナが高くない。
そんな連中がマナを消費する攻撃をしたら、その直後はパワーダウンが必ず起きる。
「でえええりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
動きが鈍くなった<ガズ>三機の正面にエーテルスラスター全開で突撃し、敵の目の前で急停止する。
装機兵のコックピット周囲は機体起動後、エーテルによる保護壁が発生し、搭乗者にかかる衝撃などを緩和してくれる。
それでも、この無茶な動きを完全に無効化はできず急停止による負荷が俺たちにかかる。ティリアリアは目を瞑り俺を懸命に掴んで衝撃に耐えている。
すまない、でも次の一撃で終わりだからもう少し頑張ってくれ!
「これでえぇぇぇぇぇ! 沈めぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
急制動を掛けながら<サイフィード>は、横薙ぎに剣を振い三機同時に胴体を切り裂いた。
俺は急いで<サイフィード>をバックステップさせ、その場から距離を取る。
直後、<ガズ>三機は同時に爆発し、その衝撃で<サイフィード>も吹き飛ばされ、地面にその身を打ちつける。
「うああああああああああああ!!」
「きゃあああああああああああ!!」
地面に叩き付けられた衝撃で意識が
「いっつ! いてて……やった……か? はっ! ティア! 大丈夫か!?」
だが、俺の左手に伝わったのは、とても柔らかくて温かい、そんな素晴らしい感触だった。掌に収まりきらないソレを無意識に何度も揉んでしまう。
「う、う……ん。あ……ん」
そのフワフワなものを掴みながらその場所に目を向けると、なんと俺の左手がティリアリアの胸を鷲掴みにしてグッパーグッパーしているじゃありませんか。
その衝撃的な光景に思考が停止しながらも、俺の左手だけは独自に自我を持ったかのように彼女の胸を揉んでいる。
年齢二十三歳、これまでの人生で彼女無し、そんな童貞の俺が初めて女性のおっぱいを触った瞬間だった。
あ、当然母親はノーカンですよ。そんな子どもの頃の強制イベントなんて数に入らないでしょう。
「あ……ふぅ……ん?」
その時、ティリアリアの意識が戻った。どうやら怪我はしていないようだ。
「ティア、大丈夫か? どこか痛いところはないか?」
「え……ええ、大丈夫。敵は倒したの?」
「ああ、全滅させた。どうやら無事に切り抜けられたみたいだ」
「そっか! すごいじゃない、ハルト! 見直し……あんっ!」
俺とティリアリアが目を向けると、俺の意思から独立していた左手が未だに彼女の大きな胸をまさぐっていた。
直後、コックピット内の空気が凍り付く。ティリアリアは顔を真っ赤にしながら、上目遣いに俺を睨んでくる。
「これは、どういうことかしら? ハルト・シュガーバイン!?」
「いや……それが……手が勝手に……大変申し訳ない」
「言い訳無用! 乙女の身体を何だと思っているの!? この、変態ィィィィィィィ!!」
コックピット内にバチコーンという、強烈で乾いた音が響き渡る。その後、飛空艇乗り場に戻ると、そこにいた敵は全滅していた。
飛空艇の防衛に回っていた装機兵部隊は全員無事であったが、五機中三機は大破し残り二機も損傷が見られる。
目の前の脅威を取り除いた俺たちは、飛空艇<ロシナンテ>の格納庫に小破した装機兵<アルガス>二機を乗せた。
続いて、俺は<サイフィード>をひざまずかせてコックピットのハッチを開き、手を近づける。
俺の左頬には、真っ赤な手形が残っており、それに気が付いた整備士たちが怪訝な表情で見ている。
「……よし、ティリアリアさん。<サイフィード>の手に乗って。ゆっくり下ろすから大丈夫、安心して」
「え……ええ……ありがとう。ハルトは降りないの?」
「俺は<ロシナンテ>が安全に飛び立つまで見張りをする。周囲にまだ敵が隠れている可能性もあるからね」
「そ、そう……分かったわ」
俺は彼女を<サイフィード>の手に移動させ、落っこちないようにゆっくり下ろした。
彼女が無事に地面に降りたのをモニターで確認すると、彼女に赤髪の女性が近づいて抱きしめる様子が見えた。
「フレイアさん、ものすごい心配していたんだな。……ん? 待てよ? フレイア? ああっ、そうか思い出した! フレイアって確かフレイの妹じゃないか!」
そう、フレイアはゲーム『竜機大戦ヴァンフレア』の主人公フレイの双子の妹だ。ゲームでも聖女ティリアリアの侍女であり親友の立ち位置でもある。
聖女ルートでティリアリアが敵になった時も、フレイアは彼女を守るために竜機兵チームと敵対する。二人の間には切っても切れない信頼関係があるのだろう。
俺は二人が離れると<サイフィード>を立ち上がらせて、再び格納庫の外に出る。その時、ふとティリアリアを見ると、彼女は心配そうな表情でこっちを見ていた。
<ロシナンテ>のエーテル永久機関は順調に作動し、船体は浮上を開始した。一番危険なのはこの『第六ドグマ』から飛び立つ瞬間だ。
俺は<サイフィード>を飛空艇乗り場の先端に移動させ、そこで周囲に警戒を向ける。
『鑑定』も併用して、敵の反応に注意するが索敵に引っかかるものはいない。
『ハルト、もうすぐ<ロシナンテ>は飛び立つ。後部ハッチを開いておくから、そこから乗り込むんじゃぞ!』
「分かった! ありがとう、マドック爺さん!」
<サイフィード>の頭上を<ロシナンテ>が飛び超えて行く。そして、地上から攻撃が届かない位置まで高度を上げた時を見計らって、<サイフィード>の全エーテルスラスターを全開にして、夜空に向かって跳び上がる。
モニターにはぐんぐん近くなる<ロシナンテ>の姿が映る。そして、その先には夜空で存在感を示す満月が輝いていた。
その幻想的な光景を見ながら、<サイフィード>は空中で無事に<ロシナンテ>に合流し、さらに高度を上げて燃え盛る『第六ドグマ』を後にした。
『第六ドグマ』から一隻の飛空艇と白い装機兵が飛び立つ様子を離れた密林から見ている者がいた。
月光に照らされる漆黒の装甲。赤い双眸が空を舞う白い騎士を睨んでいる。その漆黒の装機兵のコックピットでは、仮面を被った男がモニター越しに映る<サイフィード>を見ていた。
「ふふふ……そうか、あいつがお前の片割れか。中々面白そうじゃないか。次に会った時が楽しみだ。そうだろう? <ベルゼルファー>?」
男の呼びかけに応えるように、漆黒の装機兵の赤い目が一層怪しい光を見せていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます