第13話 バトルスキル

「爺さんたちは脱出の準備を。俺は前方にいる十機を叩く!」


『何をバカなことを言っておるんじゃ! いくら竜機兵と言っても<サイフィード>は数年前に造った機体。それに、武器はエーテルブレードだけじゃ。〝術式兵装〟も調整中で使えんのじゃぞ!』


「大丈夫だ。必殺技がなくても、剣さえあれば戦える! 悪いな、ティア。もう少し付き合ってくれ!」


「分かったわ。ここまで来たらとことん付き合うわよ」


 この聖女、とても勇敢な性格をしている。もし、逆の立場だったなら、俺は「行きたいなら一人で行け」と言って自分は逃げるだろう。

 その時、モニターに映るマドック爺さんがフレームアウトし、代わりに赤髪美人のフレイアが怒りながら登場した。どうでもいいけど、この人いつも怒っているな。


『ちょっと待て! ティリアリア様は置いていけ! 危険な戦場に連れて行くなど私は許さないぞ!!』


「うるさいな! この状況でどこが安全だっていうんだよ! このまま、あの大量の<ガズ>が押し寄せれば、そんな飛空艇なんて瞬殺されるんだぞ! 飛空艇にティアを降ろす時間はない。俺が命に代えても彼女は守る! 約束する!」


『なっ! そんな保障が――』


「フレイア、そこまでよ! 大丈夫、彼ならきっとやり遂げます。あなたはマドックさんたちと一緒に逃げる準備を進めて。それじゃ!」


 そう言って、ティリアリアは通信を切ってしまった。悪戯っぽい笑みをニシシと浮かべている。それを見て、俺も笑ってしまう。

 そんな俺達の前方には、外から押し寄せる十機の<ガズ>が横一列に並んでこっちを見ていた。

 不思議だ。最初にこいつらを目の当たりにした時には、正直ヤバいとしか思えなかったが、今はそんな恐怖も鳴りを潜めている。

 それもこれも、ティリアリアの笑顔のおかげだ。


「ティア、俺に考えがある。さっき以上に機体をぶん回すことになると思うから、何とか耐えてくれ」


「……分かった。私のことは気にせず思い切り暴れちゃって!」


「ああ、そうさせてもらう! まずは戦闘前の基本、ステータスの暴きからやる。バトルスキル、『鑑定かんてい』!」


 バトルスキル『鑑定』は敵のステータス情報を知ることができる便利なスキルだ。消費マナもたったの1なので、気兼ねなく使用できる。

 それに常時効果を発揮するパッシブスキルにおいてマナを少しずつ回復する『マナ回復』を習得済みなので、少し時間が経てばマナは全回復するから問題なし。

 現状<サイフィード>には、操者のマナや機体のEPを消費する武器はない。それなら、他にもマナを消費する要素であるバトルスキルを思い切り使ってやる! それが俺の作戦もといごり押し戦法だ。

 現状、自分で機体を動かすのでスキルがどのように影響を及ぼすのかは分からないが、こうなったらやるだけやってみるさ。

 バトルスキル『鑑定』の効果で敵機体<ガズ>のステータスが判明した。全機同じ性能だ、さすが量産型。


【ガズ】

HP1200 EP80 火力800 装甲800 運動性能70


 一目見て気の毒になるくらい弱い数値だ。よく見れば見た目も強そうには見えない。それに<ガズ>はゲーム内において最も弱い装機兵という位置づけだ。

 何だか、急に負ける気がしなくなった。いけそうな気がする。それに忘れていたけど、この世界は難易度激ムズのシミュレーションRPGの世界だった。

 初戦から敵の群れに襲われるなんて日常茶飯事なのだ。それに対抗するために俺はアバターを徹底的に鍛えたんだ。


「よし! バトルスキル『蹂躙じゅうりん』、『超反応ちょうはんのう』、それに保険として『竜鱗りゅうりん』発動!」


 『蹂躙』は一定時間、敵に与えるダメージが1.3倍、『超反応』は一定時間回避と命中が25%UPする。

 『竜鱗』は一定時間受けるダメージを三分の一に抑えることができる。ゲームでは、敵に囲まれた時などに真価を発揮する鉄板コンボだ。

 蝶のように舞い、蜂のようにぶっ刺す、そんでもって当たっても痛くない。まさに無敵、スターを取った赤い服のおじさん並みの存在になるのだ。


「よし、準備は整った! しっかり掴まってろよ、ティア! それじゃあ、突っ込むぞ<サイフィード>!!」


 十分な戦闘準備をして、俺は敵陣に突っ込んだ。ゲームならこのままど真ん中に陣取って、敵のターンで反撃&撃破という戦法を取るところだが、実際命がかかっているのでそんな危険な行動はしない。

 端の敵から順番に各個撃破してやる!


「エーテルスラスター全開! 一気に間合いに入る!!」


 <サイフィード>の脚部のエーテルスラスターとマントがエーテルの光を発し、機体は急加速する。

 <ガズ>の群れは、こちらの思いがけない高速移動に付いて来れず、奴らが剣を構える頃には<サイフィード>は一番端にいた機体の胴体を横一文字に真っ二つにしていた。

 ワンパンならぬワン斬りで倒せた。さすが『蹂躙』のスキルは使い勝手がいい。この調子で一番近くにいる敵機に斬りつける。

 とっさに剣で防御しようとしていたが、それよりも速くこっちは敵を袈裟斬りにする。装甲に深く斬り込んだため、こいつも一太刀で倒せた。

 力なく倒れて間もなく、爆発炎上する。その炎越しに<サイフィード>の赤い双眸で睨みを利かせると、<ガズ>の集団が後ずさりするのが見えた。


「いけるっ!! これでも食らえっ!!」


 三機目の<ガズ>に突撃刺突攻撃を仕掛け、コックピットを一突きするとそいつはもう動かなくなった。

 四機目は、向こうから俺に襲い掛かり、剣で防御する。そのまま弾き返すと敵のバランスが崩れたため、エーテルスラスターを少し使用し短距離高速移動&頭上からの振り下ろしで叩き潰す。

 五機目は、こっちの後ろに回りこんで背後を狙ってきたが、目で追わずとも殺気を感知し攻撃される前に振り向きざまに斬撃を浴びせる。

 後ろからの攻撃ならやれると思っていたそいつは、油断を突かれて胴体を斬られ間もなく燃え始めた。

 

「これで五体! ……あと残り半分!」

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