第12話 ハルト初陣
「来るっ!!」
<ガズ>がこっちに向かって真っすぐ突っ込んで来た。剣先を前方に突き出しており、刺突攻撃をする気満々だ。
「くっ! やられてたまるかっ! <サイフィード>!!」
俺は<サイフィード>の両脚のエーテルスラスターを作動させ、咄嗟に右側に高速移動する。
敵の刺突攻撃を
その衝撃で、天井から色んなものが落下しては<サイフィード>に当たってくる。
「いてててて! くそっ、ミスったか!? 大丈夫か、ティア!?」
「ええ、大丈夫。びっくりしたけど怪我はしていないわ」
「そうか、良かった。ごめん、うまく躱せなかった」
「そんなことないわ。敵の攻撃を避けられたじゃない。私は戦いの専門家じゃないけど、こんな狭い場所でそんなことをできるのってすごいと思うわ」
素直に褒められるとちょっと照れくさいが、モニターに映る敵が再び攻撃態勢に入ろうとしているのを見てそんなところではなくなる。
「次が来る……ティア、ごめん。このままとんずらしたいところだけど、この状況じゃ戦うしかなさそうだ」
「ええ、そうね……ハルト、私の命あなたに預けます」
「いいのか?」
「信じています。あなたならきっとやり遂げると」
「分かった。必ず生きてここを脱出する。ティアは口を開かないようにしていてくれ、舌を噛むからね」
「は……んむ」
ティリアリアは、返答しようとしたところで口をつぐんで俺の指示通りにしてくれた。お転婆かと思いきや、柔軟に物事に対処できる素直さを持っているようだ。
そうであれば、後は俺がこの場をどう切り抜けるかだ。正直言うと命のやり取りをしている現状にビビッて手が少し震えている。
でも、そんな調子では俺に命を預けてくれた聖女様に申し訳が立たない。やれるはずだ。
今の俺はLv90のアバター、ハルト・シュガーバインだ。機体は基本性能がイマイチで無改造という状況ではあるが、敵は一機のみ。
油断をしなければ絶対に勝てる! 俺は自分を鼓舞して戦闘態勢を整える。まずは武器の準備だ、それがなければ戦いにならない。
武器のイメージを頭の中で描くと<サイフィード>の左肩にあるアークエナジスタルが輝き出す。
その光の中から剣の
両手で柄を持ち前方で構え、腕部にエーテルを送る。すると、鍔からエーテルが光の粒子となって放たれ、凝縮して金属のようになり両刃の刀身を形成する。
これこそ装機兵が武器を装備する時のプロセスだ。言うなればリアルロボットのビーム○ーベルみたいな感じだ。
こちらの戦闘準備が整った瞬間、全身灰色の敵機<ガズ>が再び刺突攻撃の姿勢で突っ込んで来る。
一方俺はエーテルブレードで武装したので、さっきよりも余裕がある。
それに冷静になってよく見ると、敵の動きは遅く余裕で対処できるレベルだ。
「遅いんだよ!」
<サイフィード>は装備したエーテルブレードで、<ガズ>の剣を薙ぎ払った。それにより、体勢を崩した敵機に蹴りを入れると勢いよく敵は後方に吹っ飛び工場の壁にぶつかる。
今度はヤツに崩落した天井が落ち、ダメージを与え、瓦礫が動きを封じる。チャンスだ。
「消えろおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
<ガズ>の動きが鈍っている隙を見逃さず、<サイフィード>は突っ込み勢いよく脳天からの縦一文字にエーテルブレードを振り下ろす。
剣は敵装機兵の装甲を切り裂き真っ二つにした。俺は<サイフィード>を後方に下げると、間もなく<ガズ>は爆発炎上した。
「はぁ……はぁ……はぁ……くっ、やった……のか……俺……殺した……人を……!?」
無我夢中で戦った時は自分たちが助かることで頭が一杯になっていたが、戦いが終わって少し冷静になると装甲越しに、この手で人を殺めた事実に気が付く。
後からやってきた恐怖と罪悪感で押しつぶされそうになる中、震える俺の手にティリアリアが自分の手を置いた。
「ありがとう、ハルト。あなたのおかげで私は助かりました。だから、ありがとう」
「!! 俺の方こそ……ありがとう」
俺の手の震えはいつの間にか止まっていた。さっきの<ガズ>の爆発で、建物の崩落速度が増していた。これ以上、この場に留まっているのは危険だ。
「とにかくこれ以上建物の中にいるのは危険だ。飛空艇乗り場のある正面入り口に行こう」
「ええ、行きましょう」
燃え盛る『第六ドグマ』内を疾走する<サイフィード>。白い装甲に炎の明かりが反射し、まるで深紅の機体のように真っ赤に染まる。
走り抜けた場所が次から次へと崩れて行き、建物の崩落に追われているような状況になっている。
急ぎながらも転ばないように足元に注意しながら進んで行き、ようやく前方に飛空挺乗り場が見えた。
最後は脚部のエーテルスラスターを全開にして一気に直線コースを突っ切った。だが、その先に待っていたのは、さらなる絶望的な状況だった。
「何だ……これは!? <ガズ>が……十機もいる。嘘だろ!?」
実に信じられない光景だ。十機もの敵装機兵が飛空艇乗り場の外側に待機している。
どうしてこれだけの部隊が『アルヴィス王国』の南方にいるんだ? 南側のサウザーン大陸の諸国は『アルヴィス王国』と同盟を結んでいるはず。
となるとあまり考えたくはないが、サウザーン大陸側も『ドルゼーバ帝国』の侵略を受けたか、もしくは帝国の部隊が通り過ぎるのを黙認したか、ということになる。
どちらにしろ、そうなると『テラガイア』というこの世界において『アルヴィス王国』のあるウェスタリア大陸以外の国々が『ドルゼーバ帝国』にひれ伏した状況になる。
とにもかくにも、まずはこの圧倒的に不利な状況を何としても切り抜けなければならない。
その時、<サイフィード>のモニターに反応があり、そこにマドック爺さんの顔が映った。
「マドック爺さん!? 良かった、無事だったんだ!」
『もしやと思ったが、やはりハルトか! ティリアリア嬢ちゃんも一緒か、本当に良かった。しかし驚いたのー、<サイフィード>が動く姿をこの目にするとは思わなかったぞ』
「一体どういう設定にしたんだよ爺さん! こいつ、操者選定の条件が無茶苦茶だったぞ!」
『それはわしが決めたんじゃなくて、<サイフィード>自身の意思じゃ。当局は一切関知しておらんぞ!』
「スパイ映画かよ!? くそっ! ちょっと笑っちゃったじゃないか!」
これだけ緊迫した状況とはいえ、爺さんとの言い合いは楽しかった。おかげで、こんな大変な状況なのに少しリラックスできた。
「爺さんたちは今どこにいるんだ? 『第六ドグマ』から脱出できたのか?」
『今わしらは飛空艇に乗り込んで脱出の準備をしておる。ほら、お前さんからも見えるじゃろ? 今、ここの装機兵部隊が防衛してくれている』
周囲を見ると、飛空艇乗り場の一角で戦闘が行われているのが確認できる。『アルヴィス王国』の量産型装機兵<アルガス>五機が同数の<ガズ>を相手に防衛戦を繰り広げている。
その後方には、一隻の飛空艇<ロシナンテ>がいた。嫌なものを見てしまった。
ゲームでは主人公機である<ヴァンフレア>もしくは母艦である飛空艇が落とされるとゲームオーバーになるのだが、この<ロシナンテ>は低HP、紙装甲、移動距離が短いなど、褒められるところが一つもないとんでもない母艦だった。
何度こいつが落とされてコンティニューボタンを押したことか……。こんな弱っちい飛空艇に乗っている以上、爺さんたちの命は風前の灯火だ。
安全を確保するためには、ここにいる敵を全滅させる必要があるだろう。でなければ、逃亡中に追いつかれ遠距離攻撃を受けて沈むハメになる。
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