第11話 サイフィード起動

 そうこうしている間、俺は無意識に操縦桿そうじゅうかんからマナを動力部に流していたようで、<サイフィード>のコックピットのモニターが作動し、外の風景を映し出していた。

 <サイフィード>のいた倉庫内は炎に呑まれ崩れかけている。いくら竜機兵の装甲が頑丈だといっても、天井が崩れて押し潰されればただじゃ済まないだろう。

 すると俺は身体に異変を感じた。何かが俺の中に侵入し一瞬で体内を駆け巡って出て行ったような感じだ。

 その直後、音声とともに正面モニターに文字が浮かび上がった。


『マスターイニシャライズ終了。適合問題なし。ハルト・シュガーバインをマスターに認定……起動開始』


【サイフィード】

HP3000 EP200 火力2000 装甲2000 運動性能125

WP4/10

武器:エーテルブレード

マスター条件:基本マナ値350


 モニターに映ったのは<サイフィード>のステータスだった。HPは耐久値で0になったら機体は破壊される。

 EPはエーテルポイントといって、装機兵のエネルギー総量を意味する。特殊な武器を使う時などに消費する。

 火力は攻撃力、装甲は防御力、運動性能は命中率や回避率に影響する。WPはウェポンポイントと言って、メイン武器以外に装備できる武器の容量、つまり武器庫の広さのようなものだ。

 WPの最大値は機体によって決まっており、変動しない。容量の範囲内であればストレージと言われる武器庫のような空間から武器を取り出し使用できる。

 しかしこの機体、WPが最大10のところ既に4も使っているのだが、これは何でだろう? バグか? それに気になるところは他にもある。


「何だこのステータスは……微妙じゃないか! 他の竜機兵と比べてちょっと心もとないな。それに――」


 一応ゲームの設定では<サイフィード>は数年前に造られた機体ということだから、ステータスが最新の竜機兵より多少劣っているのは仕方がない。

 だが問題は、最後にしれっと記載されている〝マスター条件〟というものだ。

 基本マナ値350――これは、マナが高いと言われている竜機兵操者たちでさえ、ストーリーの後半にならなければ到達できないレベルだ。

 これにより今まで誰も<サイフィード>のマスターに選ばれなかった原因が判明した。

 単純にこいつが指定するマナの条件を誰も満たせていなかったのだ。

 この<サイフィード>、どうやら相当理想が高い面食い、もといマナ食いだったらしい。

 こいつの要求に対して俺の基本マナ値は475なので、そこは問題なくクリアーできた。

 他にもマスター条件があるのか分からないが、とりあえず<サイフィード>は俺をマスターとして認めたようだ。


 その時、周囲に天井の一部が落下する様子がモニターに映る。これ以上ここに留まっていたら危険だ。

 既に俺の頭や身体は、どうすれば装機兵を動かせるのか理解している。

 さっき、身体を何かが通ったような感覚の後、まるで何年も装機兵を動かしてきたかのような慣れを覚えていた。


「ドラゴニックエーテル永久機関始動。機体各部チェック……問題なし。背部、メインエーテルスラスター稼働、エーテルマント生成開始!」


 <サイフィード>の背部にあるメインエーテルスラスターからエーテルが放出され、それらが集まりマントを形成した。

 エーテルスラスターは装機兵の動きを補助する装置で、これを併用することで空高く跳び上がったり、高速移動することが可能だ。装機兵によっては長時間空を飛ぶこともできる。

 メインエーテルスラスターは特徴的で、大出力のエーテルが放出されマントの形をとり、装機兵が素早く動くための力場を周囲に張っている。

 マントはただの飾りではないってことだ。ちなみにこのマントは、エーテルで構成されているためかシールドとしての機能があるらしい。

 ゲームではこの盾設定は活かされていなかったので、実際どの程度防御力があるかは謎だ。


「行くぞっ、<サイフィード>!」


 俺は頭の中で〝歩くイメージ〟を思い浮かべる。すると、<サイフィード>は、俺のイメージ通りに歩いた。


「よし、いける! ティリアリアさん、これから倉庫の壁を破壊して隣の区画に出る。揺れると思うから、しっかり俺に掴まって」


「は、はい!」


 ティリアリアは俺に抱き着く形でさらに力を込める。同時に俺の身体に柔らかいモノが一層強く押し付けられる。

 俺は自分の胸に当たる確かな幸福感を感じつつも、頭を切り替えて<サイフィード>の手で壁を殴るイメージを送り込む。

 <サイフィード>はタイムラグなく、俺の意思通りに壁を破壊した。

 そこから隣の区画に出ると、工場内も火の手が回り製造中の装機兵が何体も燃えたり、崩落した天井に押し潰されていた。


「ひどい……」


「マドック爺さんたちは無事なのか? ここの人たちはどこへ行ったんだ?」


 ふと崩落した場所に視線を落とすと、何かが見える。俺の意思を読み取りモニターがその場所を拡大する。

 そこには、人の腕があった。肩から体幹にかけては、位置的に崩れた屋根の真下になっている。

 その光景がティリアリアの目に入る前に俺は慌ててモニターのズームを解除した。死んだ……人が死んだ……どうしてこんなことになったんだ!

 

 この状況に怒りを覚える俺の前方で、巨大な何かが動くのが見えた。燃え盛る工場内を悠然と闊歩かっぽする巨人、『ドルゼーバ帝国』の量産型装機兵<ガズ>がそこにいた。


「どうしてこんな所に、『ドルゼーバ帝国』の装機兵がいるんだ!? ここは帝国のある北側とは真逆の南方の地域だぞ!?」


 こんな展開はストーリーでもフリーシナリオでも存在しない。ゲームでは『アルヴィス王国』の北側から侵攻してくる帝国にジリジリ追い詰められていく展開だった。

 こんな南側から奇襲を受けるようなことはなかったはずだ! 

 俺はさっきまでテロリストなどの帝国以外の第三勢力による奇襲を疑っていたが、目の前にはストーリーで最大の敵『ドルゼーバ帝国』の装機兵が確かにいる。

 状況を飲み込みきれず混乱する中、敵機が剣を構え攻撃態勢を整えていた。

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