第6話 ドラグエナジスタル
「この世界はゲームの世界で、お前さんはそのゲームで遊んでおった若者、ということか」
「はい、そうです」
「もしも、お前さんの口から<サイフィード>の名前が出て来なかったら、今の話を信用しなかったじゃろうな」
「それじゃあ……」
「信用せざるを得ないじゃろう。だが、これで色々と合点がいった。お前さんが訓練生時代にやってきた、搭乗機故障の原因も分かったぞ」
「本当ですか!?」
「うむ。ハルト、エーテルコンバーターについては理解しておるか?」
「はい。操者のマナを装機兵を動かすエネルギーである〝エーテル〟に変換する装置ですよね? 装機兵の動力部である〝エーテル永久機関〟に取り付けてあるはずです」
こういうゲーム設定とかって、思いの外すっと覚えられるのは俺だけではないはず。この記憶力を別の所に活かせたらどんなに良いかと思ったものだが、今こうして役に立っているので結果オーライ。
人生どうなるか分かったものじゃありませんな。
「では、そのエーテルコンバーターに限界値があるのは知っているか?」
「え? 限界値ですか?」
初耳だった。エーテルコンバーターにそんな設定あったっけ?
「一般的には知られてはいないが、エーテルコンバーターには変換できるマナの限界があっての。それを超えると、コンバーターはもちろん、それが取り付けてあるエーテル永久機関も不具合を起こす。その結果、オーバーヒートを起こして機体各部から火を吹く状態になってしまうんじゃ。お前さんがやってきたのはそれに間違いない。つまり、練習機程度の機体とその動力部では、お前さんの強力なマナに耐えられなかったんじゃろう。お前さんの話が本当なら、現時点でマナのレベルが相当なものになっておるからの」
なんてこった。ここで俺を苦しませた〝装機兵に乗れない問題〟があっさり解決してしまった。
「それじゃあ、ここには俺のマナに耐えられる機体があるんですか? 例えば<ウインディア>ならどうですか? あれは結構強力な機体ですよね?」
「ある程度なら問題ないじゃろうが、恐らく長くは耐えられんじゃろう」
再び俺に告げられる死刑宣告、「アバターを育て過ぎたら、乗れるロボットがいなくなった件」という誰も見向きもしないであろう小説タイトルが脳裏に浮かぶ。
ガックリと肩を落とす俺の姿を見かねてか、マドック爺さんは俺の肩を叩いて二人だけにしか聞こえない声で俺に話した。
「気を落とすのはまだ早いぞ。この世には、逆に高いマナの者にしか扱えない装機兵がおる。――例えば竜機兵のような、じゃろ?」
「え? それって、俺ならこの<サイフィード>に乗れるかもってことですか?」
「可能性はある。ただし、こいつは今まで誰も動かせたことがない。竜機兵としてはちゃんと完成しているし、こいつを元にして開発した竜機兵<シルフィード>は問題なく動く。だから、問題があるとすれば<サイフィード>の意思が定めた条件を満たした者がいないということじゃろう」
そう、マドック爺さんが言ったように竜機兵には意思がある。
装機兵には〝エーテル永久機関〟というエンジンが搭載されていて、操者のマナを元にエーテルというエネルギーを生み出し、それにより機体は動く。
それとは別に重要な要素としてエナジークリスタル、通称〝エナジスタル〟というものがある。
エナジスタルは、錬金術によって生成された〝凝縮されたマナの結晶〟であり、大気中のマナや人間から送られるマナを吸収・増幅する性質がある。
この性質を利用し、装機兵にはエナジスタルが取り付けてある。これによって、装機兵は強力なエーテルを出力するのだ。
さらにエナジスタルは、生成する錬金技師の技量により同じ性能でも大きさや形が異なっていたりする。
優秀な錬金技師であれば高性能のエナジスタルをコンパクトサイズに凝縮できるため、そうなれば複数のエナジスタルを装機兵に取り付けられる。
一般的に、搭載するエナジスタルの数が多ければ多い程、装機兵は強力とされている。
エナジスタルにはいくつか種類があり、より強力なものは〝アークエナジスタル〟と呼ばれ、高性能の装機兵に搭載されている。
そして、〝ドラグエナジスタル〟なのだが、これはそれまでのエナジスタルやアークエナジスタルとは別物だ。
本来装機兵に搭載不可能な巨大なエナジスタルを、特殊な製法で数年単位の時間をかけて凝縮・高性能化したもので、そのマナの増幅値は計り知れない。
完成したドラグエナジスタルは、色は深紅でアクセサリーとして普段使いできるサイズにまで凝縮される。
ドラグエナジスタルを生成できるのは、『錬金工房ドグマ』のみであり、今俺の目の前にいるマドック錬金技師長がその第一人者なのだ。
ドラグエナジスタルは、作成途中の段階で意思を持つようになり、それを核として搭載された機体を〝竜機兵〟と呼ぶ。
竜機兵の意思とは、つまりドラグエナジスタルの意思だ。
ちなみにこのドラグエナジスタルのマナの増幅量はハンパじゃなく、高性能のエーテル永久機関でも負荷に耐えられなかったため、これに対応した〝ドラゴニック・エーテル永久機関〟が開発された。
その結果、このとんでもエンジンを動かすには、操者に高いマナが必要となるのだが。
このように、膨大な時間と高度な錬金技術によって生み出された竜機兵は、とんでもない性能を発揮する化け物装機兵となった。
まさに厨二設定の結晶と言えるだろう。少なくとも、俺はこの設定を初めて知った時に感動で心震えた。めっちゃ好きなんだよ、こういうの!
さて、説明が長くなってしまったが、話を本題に戻そう。マドック爺さんの話によれば、この<サイフィード>を動かすには無茶な条件があるかもしれないとのこと。
これが男女の恋愛事情であったなら、この<サイフィード>という女、告白してきた男たちを全員片っ端からフッてきた強者だ。どれだけ理想が高いんだよ。
いったい、どういうヤツであればこの女は心を開くのだろうか? 俄然興味がわいてきた。
「マドック爺さん、俺<サイフィード>に乗ってみてもいいですか?」
「それは無理じゃ」
俺は吉〇新喜劇ばりにズッコケた。ここまで引っ張っておいてそりゃないよ!
「やっぱり訓練校で成績ズタズタの俺じゃ搭乗する資格もないってことですか!?」
「違う、違う。実は、<サイフィード>のドラグエナジスタルなんじゃが、現在取り外しておってな。竜機兵はドラグエナジスタル無しでは動かんように、永久機関にセーフティがかかるようにしておるからの」
「動かへんのかい!」
吉〇気質が抜けない俺は爺さんについツッコんでしまった。しかし、なんてこった。竜機兵が目の前にいるのに指をくわえて見ていることしかできないなんて。
あー、でもカッコいいから別にいいか。見ているだけでも満足だわ。<サイフィード>を眺める俺を見ながらマドック爺さんは話を続けた。
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