放送室でリンクする時⑨




あれから進展がないまま放課後になってしまった。


―――もう放課後かぁ。

―――・・・うーん、燐久先生大丈夫かなぁ?


とりあえず時間の巻き戻りは起きていない。 起きた時記憶がどうなるのかは分からないが、もしかしたら燐久はこのまま放課後を迎える覚悟を決めたのかもしれなかった。 

だが兄である瑛士について何も分かっていない。


―――お兄さんを無事に救うことができるのかな?

―――何も作戦とか伝えられていないんだけど・・・。


チラリと時計を見た。


―――今更考えても時間がない、か・・・。

―――燐久先生の気持ちも考えて、放課後の時間はできれば一度だけにしたい。

―――つまりは時間を戻すのは禁止。

―――燐久先生は結局、原因を掴めてはいないんだよね・・・?


今日は委員会の集まりがある日。 ホームルームが終わった千恵は早速委員会へ行こうとした。


「瑛士くん、放送室へ行こうか」

「あー、千恵さんごめん! 俺担任の先生に用があるから少し遅れていく」

「あ、そう? ・・・分かった」


―――本当は瑛士くんと一緒に放送室へ行きたかったけど・・・。

―――まぁ亡くなるのは放送室でって言っていたし、大丈夫だよね?


少し心配だったが放送室までは安全だろうと思い先に一人で向かった。 変に怪しまれないように自然な態度を取らなければならない。 一番乗りで千恵が放送室へ着くと数秒差で燐久もやってきた。

 

「燐久先生、早いですね」

「そういう千恵さんもね」


普通はこんなに早く来ることはないため、今日この日だからなのだろう。 もちろん千恵も不安で胃が痛い。 巻き戻せば千恵の記憶は消える可能性はあるが、もう巻き戻さないのかもしれない。 

それに人が死ぬような出来事が起こる未来を変えるとして、他に何か起きないとも限らない。


「燐久先生。 もう朝に時間を戻さなくてもいいんですか?」

「今は千恵さんがいるから少し心強いんだ」


その言葉を素直に嬉しく思った。


「そう思ってくれて嬉しいです。 できる限り瑛士くんのことを守るので! ところで、原因の方は・・・?」

「まだ掴めていないんだ」

「やっぱり・・・」


だが燐久はあまり不安そうにしてはいない。 そして、一人ぼそりと言うのだ。


「大丈夫。 どうしようもない局面になったら最終手段を使うから」

「最終手段?」


尋ねようとすると委員会の生徒が集まってきてしまった。 強制的に燐久との会話は途切れ返事を聞くことができなかった。 生徒が放送室に入ってくるのを見ているうちについに瑛士もやってくる。


―――来たッ・・・!


千恵の緊張が高まる。 すると瑛士が燐久を見て言った。


「あれ、燐久先生? そのセーターの柄、イカしていますね!」


その言葉に燐久は瑛士をチラリと見た。


「でも左手に腕時計って、女性がすることじゃないですか?」

「一般的にはそうだけど、絶対にそうしなければいけないということはないよ。 だけどよく気付いたね。 なかなかの観察力だ」


それは千恵でしか気付けない小さな変化だと思っていた。 そして、気付いた時は時間を巻き戻す。 それが今までの流れだったはずだ。 

しかし燐久は瑛士に指摘されても何のアクションも起こそうとはしなかった。


―――え?

―――何、どういうこと!?

―――私も先生の服装や腕時計、仕舞には髪の些細な分け目にも気付いたけど!?

―――どうして瑛士くんになら気付かれてもいいの?


そこで何故燐久がそのようなことをしていたのかを理解した。


―――・・・もしかして瑛士くんに興味を持たせて、少しの変化から未来を変えようとしているため?


千恵からすれば未来がどの程度の事柄で変化するのかは分からない。 だが数秒の差で事故が起きたり起きなかったりということは多々あることだ。 

瑛士が事故に巻き込まれないようにするだけなのなら、それで確かに効果があるかもしれない。 そのようなことを考えていると、燐久は千恵にプリントを手渡してきた。


「千恵さん。 これをみんなに配って」

「あ、はい」 


プリントを受け取り千恵が立ったその時だった。


「遅れてすみません!」


急に放送室の扉が開いて放送部の最後の一人とぶつかった。 それにより飛ばされた生徒は窓際にいた千恵に思い切り当たってしまう。


「わッ!?」


結局は小さなことの積み重ねで事故は起きる。 それを図らずとも自分の身で知ってしまうことになった。


「・・・え?」


宙に放り出された千恵は周りの景色がゆっくりと見える。 瑛士や燐久の顔が驚愕に染まっていた。


―――・・・瑛士くんじゃなくて、本当は死ぬのは私だったの?



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