放送室でリンクする時⑧
昼休みに千恵は燐久と一年の廊下で待ち合わせをした。 注目を集めることが快感で、二人秘密を共有しているということに心臓が鼓動する。
友達にも意味深な笑みを向けられ、ただそれも時間を巻き戻すことになれば全ては失われてしまう時間だ。
「今流れている曲は燐久先生が選曲したんですか?」
「そうだよ」
昼の放送委員会の仕事は燐久が全てやってくれたようだ。
「いい曲ですね。 もっとこの曲について詳しく聞かせてください」
「その余裕があったらね」
そう言って切なそうに笑った。
「今から何をするんですか?」
「僕の兄さんを紹介しようと思って」
「あ、そうですね。 まずは燐久先生のお兄さんを知らないと」
「僕の兄さんは千恵さんと同じクラスなんだ」
「え!?」
兄を守るために未来からやってきたというのは聞いたが、まさかそれが自分のクラスにいるとは思わなかった。 燐久の指の先、そこに視線を向けてみて再度仰天することになる。
「彼だよ」
彼というのは最近千恵によく声をかけてくれる瑛士だった。
「瑛士くんが燐久先生のお兄さんだったの!?」
「しーッ」
最近は仲よく話すことがあったため少し気まずかった。 それを燐久も知っていたようだ。
「千恵さんは兄さんと仲がよかったね」
「あ、はい・・・」
―――だからこのクラスに何度も顔を出していたのか・・・。
―――瑛士くんの様子を見に。
もしかしたら自分を見に来てくれているのかもしれない。 なんて自惚れは完全に打ち砕かれた。 瑛士とは話すこともあったため、燐久と目が合うことがあるのはそういう理由だったのだ。
ちなみに燐久という名前は偽名なんだという。
「・・・燐久先生は何度やり直しをしたんですか?」
「兄さんが死ぬ瞬間は一度も経過したことがないよ」
「そうなんですか? どうしてですか? 何度も死なない方法を試した方がよさそうなのに」
「想像してみてよ。 大切な人が何度も何度も死ぬ姿。 例えやり直しができるとしても、何度も苦しませることになるなんて僕には耐えられなかった。
だから今日の放課後まではちゃんと過ごしたことがないんだ」
千恵からしてみれば燐久の死ぬ姿を何度も見ることになるようなものだ。 どんな死に方をするのか分からないが、確かにそれは考えるだけで怖い。
「なるほど・・・。 じゃあ、この半年間は一体何を・・・?」
「今までは兄さんが死んだ原因を考えていた」
「・・・」
「他殺なのか自殺なのか事故なのか、何も分からないんだ。 放課後死ぬ時に丁度僕がいて、兄さんを庇ってやれるのならそれでいい。 でももしそれが失敗したら?
・・・そう考えると今日の放課後まで過ごすことができなかった」
返す言葉がなくなり千恵は黙り込んだ。
「それに庇っただけでは根本的な問題の解決にもならない。 だからそれを探っていたところでもある。 ・・・結局は分からず見つからなかったけどね」
「そうしているうちに今日という日が来てしまったと」
「あぁ。 放課後になるのが怖くて何度も今日の朝を繰り返した。 時間稼ぎで時間を巻き戻していたとも言える」
「・・・じゃあ、落ちていたチップは一体何だったんですか? 燐久先生にとっては見られたくはなかったものなんでしょう・・・?」
燐久は気まずそうに視線をそらした後、こっそりと千恵に耳打ちした。
「実は普通の人間に見えるかもしれないけど、僕はロボットなんだ。 まぁ、そのチップ自体は大したものではないんだけどね」
「え!?」
その言葉は驚くと同時に千恵に深いショックを与えた。 大好きだと思っていた相手がロボットだったのだ。 とはいえその言葉が真実であるという証拠はない。
燐久自身あえて証明するつもりもないだろう。
「流石に人間をタイムスリップさせるのは無理だった。 だからロボットを作ってこの世界へ送りこんだ」
「嘘・・・。 じゃあ、私はロボットのことを・・・」
そんな胸中を燐久ロボットも察したようで、小さく笑いながら言ってくれた。
「あぁ、気を落とすことはないよ。 このロボットは未来の僕自身をかなり正確に再現しているから。 まぁ、この時代に存在する僕とはちょっと、いやかなり違うけど」
気を落とすなと言われても無理だ。 ただ単純にロボットに恋をしていたのとは違うようで、少しばかり安心した。
「謎に放送室のマイクに向かって言葉を放っていたのは何だったんですか?」
「放送室のマイクに英語を放っていたのは、未来の本当の僕に知らせるため。 僕の放つ特別な声と規定の言葉で空間を震わせた時、それを合図に未来から操作をしている」
「今私がここで喋っていることは、本物の燐久先生には伝わっていないということですか?」
「そういうこと。 未来の僕に何かを伝えることができるのはマイクだけだ」
それを聞いて興味が湧いた。
「燐久先生はロボットやタイムスリップ、時間操作までできるようになったんですか!? 天才じゃないですか! もしかして発明家ですか!?」
興奮気味に話す千恵に燐久は苦笑する。
「そう遠くない未来だよ。 兄さんが亡くなってから、必死に勉強をしたんだ」
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