放送室でリンクする時⑦
高校に入り千恵は放送委員会に入った。 放送委員会は放課後から朝にかけて、仕入れた情報を朝放送するという役目があるため朝が早い。
朝が苦手な千恵であるが、原稿の調整とリハーサルがあるため通学路を急ぐ。
―――一秒でも早く学校へ行かなきゃ!
学校から家が近いわけでもなく、こんな彼女が放送委員会に入ったのには明確な理由があった。
―――そう、理由が・・・。
―――そう、理由があった!
千恵は今までのことを思い出していた。
―――私は分かる。
―――・・・燐久先生が、未来から来た人だって。
他でもない、大好きな燐久自身がそう言ったのだ。 それを忘れるはずがなかった。 忘れるはずがないのに何故か今の今まで忘れていたのだ。
―――いや、そうじゃない。
―――私が燐久先生の秘密を知っちゃったから、記憶を初期化されたんだ・・・。
―――燐久先生のことを忘れたと思ったんだけど、あれ?
―――どうして私は燐久先生のことを憶えているんだろう?
何故記憶が蘇ったのか全く心当たりがなかったが、千恵にとっては好都合なことだ。 疑問が残らないこともないが、今はそれより燐久と話したかった。 放送室へと駆け付ければやはり燐久がそこにいる。
「燐久先生! おはようございます!」
「あぁ、千恵さん。 おはよう」
いつものように挨拶を返してくれた燐久の前に立った。 それで何か異変を感じたようだ。
「・・・千恵さん? どうしたの?」
どうしたもこうしたもない。 言いたいこと、聞きたいことが山ほどある。
―――・・・だけど全てを伝えれば、また記憶を消されてしまう。
考えているうちに燐久も何となく理解したのだろう。
「・・・千恵さん、僕のことが分かるの?」
それに大きく頷いた。
「燐久先生、今日は服装や髪形がいつもと変わっていますね」
「ッ・・・」
ハッキリとそう言うと燐久は驚いた表情をした。
「・・・本当に僕のことが分かるんだね?」
「はい」
燐久は少し考える素振りを見せた後何かに気付き溜め息をついた。
「・・・時間を巻き戻し過ぎたのか・・・」
おそらくは何度か時間を巻き戻すことで記憶を消される前まで戻ってしまったのだろう。 このタイムループの過程で歴史の変更は行われていない。 最初に保存されたのが真なる歴史ということになる。
千恵自身はあまりよく分からなかったが、現実に記憶が戻っているのであればそれだけでよかった。
「・・・何? 僕に何か言いたいことでもあるのかい?」
―――私は決めた。
―――燐久先生のことを信じるって。
―――そして、絶対に助けるって!
「燐久先生! お兄さんを助けることに私も協力させてください!」
そう言うと燐久はまたもや溜め息をつき頭を抱えた。
「僕は全てを千恵さんに話しちゃったんだね」
「はい。 燐久先生のことは全て知っています」
「・・・なら仕方がないか」
燐久は悩んだ挙句マイクへと向けて歩き出す。 それを見過ごすわけにはいかなかった。
―――また私の記憶を初期化するつもり!?
行く手を阻むよう立ちはだかると燐久は素直に驚いていた。
「記憶の消し方も話してしまったのか、僕は」
「燐久先生が何故ここにいるのかも自ら私に教えてくれましたよ!」
「それには何か理由があったはずだ。 僕が簡単に事情を説明するとは思えない」
「どうせ初期化するから教えても教えなくても変わらない、って言われました」
「あぁ、そういうことか・・・」
「今から何をしようとしたんですか? また私のことを初期化しようとしたんですか?」
燐久は千恵を眺めながらしばらく考えてた様子だった。 正直なところ未来の力を持つ燐久には何をしても敵いそうにない。 千恵ができることは自分が役に立つと思わせるしかないのだ。
「・・・一応聞くけど、協力させてくれってどういう意味だい?」
「私をこき使って利用してくれても構いません。 協力者がいた方が燐久先生も気持ち的に楽でしょう?」
迷った挙句燐久はこう言った。
「でも千恵さんが僕の秘密を周りにバラしてしまう可能性もある」
「それは大丈夫です。 私は燐久先生の秘密を絶対に守ります」
「どうしてそう言い切れるのかな?」
「燐久先生のことが好きだから」
「・・・」
それしか言えることがなかった。 ムードも何もない告白。 ずっと内に秘めていた想いをまるで取引の材料のように使うのは抵抗もあった。 だがそれ以外に千恵は燐久を説得する言葉を持っていなかった。
「燐久先生は私の気持ちに気付いていたんですよね? 大好きな燐久先生を裏切るわけがありません」
燐久は口を閉ざした。
「私はお兄さんを助けるというより、燐久先生を助けたいんです。 お願いします!」
負けずに粘ると燐久は折れてくれた。
「・・・分かった。 じゃあお願いするよ」
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