放送室でリンクする時⑥




何故だか今日一日清々しさともどかしさの相反するような感情が疼いて仕方がなかった。 ご飯でも食べればちょっとは気分も変わるかと思った昼休み、早速とばかりにお弁当箱を広げた友達が言う。 

タコさんウインナーを箸でつまみながら楽しそうである。


「千恵ー! 今日は千恵が放送を担当する日なんだよね?」

「そうなんだよー。 だから昼休みも放課後も放送室へ行かなきゃ」 


友達はもちろん千恵が放送委員会だと知っている。 そして何故放送委員会に入ったかということも知っている。


「大変だね。 でも頑張って! いや寧ろ、燐久先生がいるから幸せなのかな?」


そう言って肘で突っついてくる。 楽しそうにしている友達に反し千恵は首を傾げた。


「うん? どうして燐久先生がいると幸せになるの?」


聞くと友達も動揺に首を捻る。


「うん? だって千恵は燐久先生のことが大好きなんでしょ?」

「え? いつ私がそんなことを言った?」


キョトンとした表情でそう言うと友達は慌てた顔をする。


「半年前からずっとだよ! 記憶なくなっちゃったの?」

「記憶・・・?」

「燐久先生が放送委員会を担当することになったから、千恵は放送委員になったんでしょ!?」

「嘘!? そうなの・・・?」


そう言われ放送委員会に入った理由が初めて分かった。 いや、初めて分かったとはどういうことなのだろうか。 入った理由は半年前にあったはずなのに、それが判明したのが今日今この時?


「そうだよ・・・。 もう、本当に千恵今日どうしちゃったのさ?」


―――私が燐久先生のことが好き?

―――確かに燐久先生はカッコ良いけど、好きとかそういうんじゃ・・・。

―――でも何かモヤモヤするなぁ。

―――どうしてだろう?


「あ、ごめん! 引き止めちゃって! そろそろ放送室へ向かった方がいいんじゃない?」

「あぁ、うん。 そうだね、そうする」

「何かあったら言うんだよ」


―――どうしてそんなに心配してくれるのかな? 


友達に見送られ疑問に思いながらも放送室へ向かった。 何となく友達の言葉が気にかかり、こっそり開けるも誰もいない。


―――燐久先生、まだ来ていないのか・・・。

―――先に選曲を始めちゃおうかな。


昼休みに何の音楽を流そうか選曲をしていると床に何か落ちているのを発見した。


―――うん?


それは一見してゴミのようだが、よく見ると小さな電子基板のようなものだった。 だが千恵が見たことのあるそれとはどこか違い、より精緻で見慣れない形をしている。


―――何だろう、これ? 


もしかしたら何かの機材の重要な部品かもしれない。 そんな思いで拾ったのだが、その瞬間丁度燐久が放送室へ入ってきてしまった。 二人の目が合い、そして燐久の視線は徐々に手元へ向かう。


「・・・?」


燐久が今何を考えているのか表情だけではよく分からなかった。 燐久は大きな溜め息をついていた。


「また君か・・・」

「また?」

「あぁいや、何でもない。 こっちの事情だよ」


燐久はこちらへ近付いてきて手を差し出した。


「それは僕のなんだ。 返してほしい」

「あ、はい。 どうぞ・・・」


自分のものと言われればそうなのだろうと思うしかない。 素直に手渡してみたが、何の部品か気になってはいた。


―――私は本当に燐久先生のことが好きだったの?

―――だとしたらその感情はどこへいったんだろう。

―――友達が嘘を言っているようには思えないし・・・。


燐久のことを探るように見つめる。 すると燐久は呟いた。


「見られたからにはまた時間を戻すしかないか・・・」


何となく燐久の言葉を聞き、自分が悪いことをしてしまったような気がした。


「私は何もしていません! それに何も見ていないので大丈夫です!」

「何も見ていないって、このチップを今見たでしょう?」

「それは、そうですけど・・・。 というか、時間を戻すって何ですか?」

「・・・」 

「・・・燐久先生?」


燐久は迷った挙句マイクに向かって言い放った。


「ちょっと、燐久先生!?」

『Rewind』



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