放送室でリンクする時⑤
高校に入り千恵は放送委員会に入った。 放送委員会は放課後から朝にかけて、仕入れた情報を朝放送するという役目があるため朝が早い。
朝が苦手な千恵であるが、原稿の調整とリハーサルがあるため通学路を急ぐ。
―――一秒でも早く学校へ行かなきゃ!
学校から家が近いわけでもなく、こんな彼女が放送委員会に入ったのには明確な理由があった。
―――・・・あった?
しかし、走っている途中で何となく足の動きを緩めてしまう。
―――あれ、私が放送委員会に入った理由って何だっけ?
―――どうして突然忘れたんだろう・・・。
特段放送委員会としての活動が好きなわけではない。 嫌いでもないから理由がなくても続けるが、率先して好む程の何かがあるとは思えない。
疑問に思いながらも放送室へ行くと白衣を着た一人の男性がいた。
―――え、誰!?
戸惑っている千恵に男性が気付いてくれた。
「あぁ、千恵さん。 おはよう」
「お、おはようございます・・・」
「どうかしたの?」
「あ、あの、ごめんなさい・・・。 誰ですか?」
「僕は半年前にこの学校へ来た、三年の理科を担当している燐久だよ。 忘れちゃったかな?」
―――燐久先生?
―――何か、変わった名前だな。
―――そんな変わった名前の人、一度耳にしたら印象に残ると思うのに。
―――しかもこんなにカッコ良いのに、どうして思い出せないの・・・?
思い出すとか思い出さない以前に彼のことを初めて知った感覚だ。 記憶を掘り起こすための欠片すら自身の中には落ちていない。
「一応放送委員会の顧問も務めているんだ。 驚かせちゃってごめんね」
「いえ・・・」
「委員会、頑張ろうか」
「はい・・・」
よく分からないまま燐久と過ごした。 だが何故か居心地はよく感じた。
―――どうして燐久先生と一緒にいると落ち着くんだろう・・・?
イケメンと一緒にいれば心沸き立つというのは理解できる。 ただ寧ろ沸き立つというよりは清流のように穏やかな感覚だ。
不可解ながら午前中の休み時間になり、友達と話していると急に周りが騒がしくなった。
―――何?
―――これは何の騒ぎ?
キョロキョロと辺りを見回していると友達がテンションを高くして言った。
「千恵! 燐久先生が来たよ!」
「燐久先生?」
友達の視線の先を追うと今朝出会った白衣を着た男性がこの教室を覗いていた。
―――どうして燐久先生が一年の廊下にいるんだろう?
―――誰かを呼びに来たのかな。
「本当だ・・・。 女子からの人気が凄いね」
そう言うとニヤニヤして友達が聞いてくる。
「妬かない? 流石に付き合っていなくても妬くんじゃない?」
「妬く? 誰が?」
「千恵が」
「私が!? ないない! どうしてそうなるのよ。 燐久先生のことが好きなわけじゃあるまいし」
「え?」
「え?」
二人は固まった。
―――何?
―――私今、変なことでも言った?
しばらく互いに沈黙していると声をかけられた。
「千恵さん」
「うん?」
「今朝放送で流していた曲、凄くよかったよ。 よかったらそのCD俺にも貸してくれない?」
話しかけてきたのはクラスメイトの男子で同じ放送委員会でもある瑛士だった。 クラスの中で割とカッコ良くて人気がある。
千恵にしても好きという程ではないが好ましいと思うくらいの感情は抱いていた。
―――最近よく瑛士くんから声をかけられるなぁ。
「あれは好きな曲なんだ。 褒めてくれてありがとう。 是非貸すよ!」
「ありがとう。 楽しみにしてる」
少し会話を交わすと瑛士は離れていった。 それを隣で聞いていた友達が言う。
「瑛士くん絶対に千恵のことが好きだよねー」
「ッ、えぇ!?」
「ど、どうしたのさ!? そんなに急に慌てて」
「いやだって、変なことを言うから・・・」
「何が変なことなの?」
「瑛士くんは私のことが好き、って・・・。 そ、そう、なのかな・・・」
今まで気にしたことはなかったが、突然そう言われ意識し出した。 確かに声かけられることが多いためよりそう思うようになったのだ。 だが友達は千恵以上のリアクションをする。
「急に照れちゃってどうしたの!?」
「いやだって、クラスの男子に意識を持ったことがなかったから・・・」
「・・・」
「どうかしたの?」
「・・・何か千恵、今日変」
友達が心配気に呟くのをどこか奇妙な感覚で見ているしかなかった。
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