第17話 価値観は変わらないはずなのに

 何をしているかわからなかった。


実際に、向井間君が阿多谷に衝撃の事実を教えて、動揺させたのを目の当たりにはしている。


でも理解が追い付かない。


阿多谷が悲惨な過去があるなんて思わなかった。




想像すらしなかった。




何をしていいかわからない。何のしがらみもなければ、同情するべき所なのだろう。


けど、僕は違う。あいつに酷いことをされて、なのに、反省の欠片を感じない。


そんな奴が痛い目を見るのは、自業自得だ。同情の余地なんてないんだ。


このまま向井間君に任せていいはず。なのにどうしてか、頭の中で言い様の無い違和感? 胸騒ぎがある。












 ああ、やっとだ。阿多谷の父親から出し抜かれてから、心の奥底で苛立ちが治まらないでいた。


本当にいい反応をしてくれる。阿多谷は。


父親を憧れながら、実際はただのおままごとだった哀れな奴だろうが、こいつの今までを考えれば、同情なんてする必要もない。




だから思う存分、サンドバッグにできる。




父親は息子がどうなろうとどうでもいいだろうが、せいぜい、楽しませてもらう。


おっと、もう一つの目的があった。ここでの、反応で、坂井が【使える】のか【使えない】のかが決まる。見極めなければいけない。








 事実を目の当たりにして、受けめられず、阿多谷はうなだれている。


坂井も特に動かず、今の状況を理解できていない様子だ。


まだ判断出来ないな。本命のねらいも大事だが、俺の精神衛生の管理も大事だ。




「なぁ、阿多谷? どうしてそんなに辛そうなんだ? 他の奴等にないものを沢山有るだろ? それなのに、お前はそれでも父親が全てだったのかよ。考え方を変えてみれば、枷かせが外れたとは思わねぇのか?今まで父親と思っていた奴が違うんだったら、思い通りやってもばちは、あたんねぇだろ? ……………そう、はならない……か。仕方ねぇな。屋上。何でここでさっきのを話したかと思う? 万が一、死にてぇと思っても良いようにだよ。あ、勘違いすんなよ? 自殺を勧めてるわけではない。お前がどうしても死にてぇってなっても良いように粋な計らいをしたまでだ。そんときは、無様な最期を見届けて嗤ってやろうぜ。なぁ、坂井? 」




「へっ! ? 」




 たく、ノリが悪いな。お前の諸悪の根源だぞ。滅びるのを喜ぶべき所だろ? まだどっちに転がるかわからんが「! ? 」




「ガッッガッ」




おいおいあいつマジで逝きやがったよ。本当におもしれぇな。あっちはノリノリだな。

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