第16話 都合のいい悪者
向井間から指図された。
従う必要なんて無い。
しかし『日曜日に学校の屋上に来い。来なければ、父上の秘密を暴露する』と書かれているので、行かなければいけない。
中学生の半ばまでは、完璧だったんだ。それまでは、学問において常にトップ。
100点満点は当たり前。体育等でも、同様だった。
それなのに…。使美徒しびともとい、坂井がたった一教科ではあったが、僕の評点に勝った。
奴が100点、僕が95点。
二位という、最下位と同等の烙印をつけられた。
いや、総合的に見ればいつも通り一位だったんだ。
しかしこんなものを父様に見せるわけにはいかない。幸い僕は上に立つ人間だ。先生にお願いして、僕も、100点にしてもらった。
名誉の為にも、言っておくが、改ざんしたわけではない。
本来僕がミスをするなどあり得ない。
テストの内容をガラッと変えるように指示し、問題を解いて、難なく100点となった。
だが、問題が解決したはずなのに、胸騒ぎは治まらなかった。
奴への劣等感の欠片を、断じて、認めるわけにはいかないのに、ちらついてくる。
それを何とかしないと、気がついたら、奴を徹底的に潰す事で、僕の自我を保っていた。
今後、あんなことにならないように、学校を完璧に支配するようにした。
そのおかげで、心の平穏が戻った。それが続けば、何の問題もなかったのに。
努豊根済どぶねずみ。向井間。奴がいきなり壊したんだ。
僕の平穏を。それで問題無かったのに。
泣き言を繰り返しても、仕方がない。今は形だけでも従わないといけない。
いつか見返すため。この借りは絶対に。
昼休みの命令に、甘んじて受けるために屋上に向かった。そして、ドアの前着き、開ける。
「……」「……」
「……? 」
向井間だけでなく、坂井もいた。
「よぉ、約束通り来て関心だ」
「何が目的だ? 」
「察しが悪いな。坂井がいるで、何故気づかない? それとも気付いてないふりか? どっちにしろ恥を知れ。屑が」
「なんだと! 」
一瞬手が出かかったが、我慢した。
「ふーん。立場は 一応 わかってんだな。なら、話が早い。坂井に対して、土下座しろ。当然の事だ。いじめられた張本人だ。きっちり、謝るのが筋ってものだろ。俺にやったものでチャラになんかなるわけが無い。あんなのはお遊びだ。形だけの傷心で終わると思うなよ? 」
「……」
この屈辱は必ず返す。だから、ここは心を無にする。
膝をついて指定通りの姿となる。
「流石、卒業式に派手に醜態を晒しただけある。迷いが無い。よし、坂井後は好きにしろ」
「……」
向井間君のおかげで、雪辱を晴らす機会を与えて貰った。
本当は、卒業式の分でも、充分に有難かった。
でも、もしも自らの手で、阿多谷への仕返しが出来るのなら、させてもらいたい。
そうも、思っていた。
目の前にいる因縁の相手を見下ろして。
「僕に言うことは? 」
「……。すみませんでしたっ」
「うん。言って欲しいこと言ってくれたね。それじゃ踏むね」
「! ? 」
「おい! 止めろ! やりすぎだろ! 」
「やり過ぎなな訳あるかっ! ! 」
阿多谷に反省している素振りを感じられない。
土下座といい、謝罪の言葉といい、やらされてる感満載で行っている。
今は、坂井に踏まれている痛みくらいしか罰として、機能していないだろう。
想定内というか、清々しいというか。本当に自分が中心ということを疑わずに生きてきたのだろう。
何をしたって、許される。
立場が上だから。
そんなの不公平だよな?
坂井。
ろくでなしに平穏は必要ないだろ?
「坂井もういい。こいつ、反省していない」
「わかってるっ。けどに他にどうすれば」
「大丈夫だ。俺に任せろ。阿多谷。お前に反省の兆きざしが有れば、ここで、終わっても良いとも思ったが、どうやらダメみたいだ。まぁ、はなっから期待はしてない。そんな奴に形だけの罰なんて意味を成さない。だから別のやり方に変える。お前の父親の事だ」
「父様を侮辱する気か? 」
「穏やかじゃないな。立場を考えろ。父親に 泥 をつけたくなければな」
「っ……」
「よし、落ち着いたな。それでいい。で、だ。お前に選ばせてやる。父に関しての情報を俺が持っている。奪おうとは思うなよ? 父親がやましいことをしたって訳でもないし、反応するのは、それこそ父親を【信じてない】。侮辱共とれる。だからどんな情報か聞くか聞かないかを選択させてやる。その時は坂井も一緒にいることも念頭にな。正直な話、これを聞いてお前が平静を保てるか心配だよ。だから聞かないことをおすすめする。どっちにしても坂井には教える。俺としては後者方が面白いからな。Win-Winて奴だ。さて、どうする? 」
「やはり、父を陥れる気なんだな! 」
「だから言ったじゃないか。父親のやましい情報ではないと。ほら選べよ」
「……聞かせろ」
「いつでも、 上から だな。まぁいい。父親の音声を録音したものだ。聞け」
向井間に不愉快な選択を迫られた。渋々、聞いてやることにした。
「黙れっ!!土下座をした。醜態をさらしたのは事実。なにがなんでも勝ちだ! ! 」
なんだこれ? 向井間が取り乱してるだけじゃないか。
なんだ? わざわざ?
お笑いシーンを聞かせてでも、くれるのか?
『あぁ、土下座ねぇ。あれ、実は私じゃないんだ』
?父様の声?
『………………………………は?言っている意味がわからない。あそこには、阿多谷だっていた。息子のアイツがあんたを見間違いも聞き間違いするわけがないだろ! 』
……そうだ。体育館にいたのは間違いなく父様だ。
『根本的に違うよ。簡単な話さ。今まで息子の阿多谷は父親と思っていた者はそうではなかっただけだよ』
「…………」
違う。
『何故そんなこと。…いや、そうだ。負け惜しみに、混乱に乗じて、嘘をついているだけだろ』
そんなはずはないが、そうとしか考えられない。……間違いなくそうだ。
『はっはっ。君はいい反応をする。じゃあその証拠今示すとしよう』
『嘘……だろ』
「……ハァ」違う。
『ガチャ』
『やぁ、向井間君体育館振りだね』
『向井間君これでわかっただろう? 』
「ハァ…ハァ」
『おいおいドッペルゲンガーに出くわしたような驚き様だね。電話越しなのが悔やまれるよ。あぁ後何故そんな事を聞いていたね。そりゃあ、金持ちは命を狙われる危険があるからね。影武者は必要さ』
『それはわからなくもない。そこじゃない。何で息子に偽る程に徹底するんだ』
『「何を言っているんだい? 徹底しないと意味が無いじゃないか?それは息子だって例外ではない。君だってそうじゃないか?損得感情で生きる人間だ。私にはわかる。君は自分の以外の人間にを見下している。わかるわかる私にもそういうとこあるからねぇ』
『ハァハァハッ』
『「最後に一つ聞きたい。阿多谷を何だと思っているんだ? 』
『うーん。特に考えたことも無かったね。そっちのお世話は影武者君に巻かせいるからねぇ』
「 ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ違う!!絶対に違う! ! 」
「何が違うんだ? 阿多谷。言ってみないわからないぞ」
「こんなふざけた芝居をして何がしたいんだ。父様を侮辱するな! ! 」
「芝居? 芝居にしては随分取り乱してるな。考えても見ろ? いつも聞いている父親の声を間違えるのか? 間違え無いだろ普通。偽物なら、堂々としろよ。なぁ? もう、これは今まで一緒にいたのは本当の父親じゃないって訳だ。な? 単純な話だろ? それに侮辱するなと言うが、奴はやましいと思っていない。何も騙してない。それよりもお前が否定し続けることこそがお父様の侮辱だと気づかねぇかなぁ? って本当のお父様はどっちなんだろうねぇ~」
「嘘だ、うそだ、ウ・ソ・ダ。う、う、」
「お前がちゃんと反省してればこれを知らずになったかもしれないのになぁ。いやぁ残念残念。反省しないならさ、こっちは納得するしか無いんだよ。こいつはこんくらい可哀想な奴で滑稽な奴だって。だから気使って、我慢してやろうってな。まぁ、聞かないっていう選択をしてもそれはそれで、坂井もあったけぇ目で見てくれる。お前は本当に幸せものだな」
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